ミリキア・エクスケルサ

ミリキア・エクスケルサ（Milicia excelsa）とは

ミリキア・エクスケルサは、クワ科ミリキア属に分類される高木です。かつてはクロロフォラ属に分類されていたこともあり、その名残で「クロロフォラ・エクセルサ」という名前で言及されることもあります。この木から得られる木材は「イロコ」と呼ばれ、その高い利用価値から国際的に取引されています。

分類

本種は、1869年にヴェルヴィッチュによってクワ属のMorus excelsaとして最初に記載されました。その後、1880年にベンサムとフッカーによってクロロフォラ属に移されましたが、1982年にベルフによって現在のミリキア属に再分類されました。この分類の変遷からもわかるように、本種は分類学上、様々な解釈がされてきた歴史を持ちます。過去にはハリグワ属と見なされたり、別種とされていたりしたこともあり、Maclura excelsaやMilicia africanaといったシノニムも存在します。

分布

ミリキア・エクスケルサは、アフリカ大陸の熱帯地域に広く分布しています。具体的には、アンゴラ、ウガンダ、エチオピア、ガーナ、ガボン、カメルーン、ケニア、コートジボワール、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、サントメ・プリンシペ、シエラレオネ、ジンバブエ、スーダン、赤道ギニア、タンザニア、中央アフリカ共和国、トーゴ、ナイジェリア、ブルンジ、ベナン、マラウイ、南スーダン、モザンビーク、ルワンダといった国々が自生地として挙げられます。これらの地域では、低地林や湿ったサバンナなどの環境に生育しています。

特徴

この木は、樹高30メートル以上にも達する落葉性の高木です。幹は円筒形で、古い個体では21メートルまでまっすぐに伸び、直径が2メートルにもなることがあります。樹冠は傘状で、太い枝が数本伸びています。雌雄異株であり、雌株の枝は下垂するのに対し、雄株の枝はまっすぐに伸びるのが特徴です。

樹皮は厚く、青白い灰色から次第に茶色へと変化し、わずかな乳液を分泌します。葉は大きく卵型で、長さは18センチメートルに達することもあり、先端が尖っています。葉脈は10～18対見られますが、葉縁には見られません。葉縁には細かい鋸歯があり、波状を呈しています。また、葉も樹皮と同様に液を分泌します。

花は雌雄ともに小さな花穂となり、雄花は15センチメートル以下の尾状花序で垂れ下がり、雌花は雄花よりも短く太くなります。果実は小さな痩果が集合したもので、クワの実が長く伸びたような形をしています。この集合果は長さ6～7センチメートルで、鳥やコウモリを惹きつける柔らかい果肉に、小さくて硬い種子が含まれています。種子は急速に発芽能力を失うことが知られています。

人間との関係

ミリキア・エクスケルサは、木材として利用されるだけでなく、その生育地域において、様々な文化的な意味合いを持つ樹木として、人々の生活と深く結びついてきました。

利用

木材

ミリキア・エクスケルサや同属のミリキア・レギアから得られる木材は、「イロコ材」として国際的に流通しています。伐採業者は、これら2種を区別することなく扱っています。イロコ材は、心材が黄褐色から暗褐色へと変化し、辺材は淡色をしています。木目は交錯しており、乾燥が早く良好な一方、剛性や耐衝撃性は低いとされています。また、木理の中に炭酸石灰の堆積物（ストーン）が含まれている場合があり、加工時に刃先を傷めることがあります。しかし、耐久性が高く、シロアリなどに対する抵抗性を持っています。

イロコ材は、チークの代替材として利用され、研究室の作業台の天板、水切り板、薬品排水溝板、船舶、海中構造物、車両などの建造資材として用いられます。また、家具材としても利用されます。アフリカでは、木彫り細工にも利用されており、西アフリカのコノ人やダン人は神聖な仮面を製作するために、ナイジェリアのイガラ人は仮面や彫像を作るためにイロコ材を使用してきました。

しかし、木材を得るための過剰な伐採によって、本種の個体数は著しく減少しています。そのため、国によっては保護対象とされたり、国際機関が警鐘を鳴らしたりする事態となっています。

民俗

ミリキア・エクスケルサは、西アフリカのコノ人、マノ人、ダン人などの間で聖なる木として扱われ、生贄や供物が捧げられてきました。ナイジェリアのヨルバ語圏では、奉納品として幹の周りに白い布が結ばれます。また、村落はこの木の近くに位置することが多く、村内に植樹されることもあります。

ミリキア・エクスケルサは、多産や出産と結び付けられることがあり、ナイジェリア南部のイボ人は、新生児に魂を吹き込むと信じています。また、ヨルバ人は、イロコをバオバブとともに精霊が棲む木と考えていますが、その精霊はいたずら好きだとされています。ヨルバ語には、「子どもがイロコにいたずらをして、木が追いかけてこないか振り返りながら逃げたが、その子は木の精霊が辱められたその日のうちに仕返しをするわけではないということを忘れている」という内容のことわざがあり、これは、イロコにいたずらをした者は、いつか必ず報いを受けるという教訓を表しています。

ガーナのホ地方では、この木は小人の棲家であると信じられており、この木の下で生贄の儀式が行われ、木材からは聖なるドラムや棺が製作されます。コートジボワールのゲレ人やウビ人も、ミリキア・エクスケルサを生贄の儀式の場所としています。

一方で、ミリキア・エクスケルサを不吉な存在として避ける文化も存在します。ケニア南西部のルオ人は、この木が身内の死を引き起こすと信じているため、家の敷地内に植えたり、伝統的にドアやベッドにイロコ材を使用したりすることを避けています。

保全状況

ミリキア・エクスケルサは、国際自然保護連合（IUCN）によって準絶滅危惧（Near Threatened）に指定されています。かつては東アフリカがイロコ材の主要な供給源でしたが、過剰な伐採により資源が枯渇し、現在は西アフリカが主な供給源となっています。ケニアでは、以前はよく見られたものの、多くが伐採され、残りの個体は海岸部や一部の地域に限定されています。タンザニアでは保護対象とされており、許可のない伐採は禁じられています。また、茶畑などでは、ミリキア・エクスケルサを保護することが求められています。

諸言語における呼称

ミリキア・エクスケルサは、地域によって様々な名前で呼ばれています。英語では、「African teak」、「iroko」、「rock elm」などと呼ばれます。西アフリカでは、言語系統を跨いで互いに似通った呼称が見られますが、これは、本種の木材としての価値が認知され、貿易の発展とともに特定の呼称が急速に普及したためと考えられています。以下に、各言語における呼称の例を挙げます。

セヌフォ語: guandiblé
フラニ語: kimme, timme
マリンケ語: sili
マノ語: geï
ダン語: =göö- あるいは go や ge
ウビ語: gę
ゲレ語: gehe, gé, kiau
コノ語: ge
アカン語: odum
イボ語: oje
エウォンド語: abaṅ
ドゥアラ語: baṅ
ヴァラマ語: kambala
ヴィヤ語: ndjèngè-mandji
ガンダ語: muvule
スワヒリ語: mvule
* ルオ語: olua あるいは olwa

これらの他にも、多数の現地語名が存在します。

ミリキア・エクスケルサは、その木材としての価値と、文化的な意味合いから、人々に深く関わってきた樹木です。しかし、その一方で、過剰な伐採によって個体数が減少し、その保全が課題となっています。

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