ムゥタズィラ学派

ムゥタズィラ学派の概説

ムゥタズィラ学派（アラビア語: المعتزلة）は、イスラム教における重要な神学的学派であり、主に9世紀初頭から10世紀にかけて活躍しました。この学派は、イラクのバスラで8世紀前半に創始され、特にワースィル・イブン・アターが創始者とされていますが、独自の学説が確立されたのはアブー・フザイル以降です。ムゥタズィラ学派は後の時代において、シーア派など他のイスラム教の流派に影響を与え続けました。

歴史的背景

ムゥタズィラ学派の思想は、アッバース朝時代の知恵の館においての翻訳や異文化の思想を積極的に取り入れたことから発展しました。特に、アリストテレスなどの古典的な哲学に触発され、思弁的な解釈が行われました。827年、カリフ・マアムーンがムゥタズィラ学派の「クルアーン創造説」を公認したことで、この学派は宮廷で権力を持つようになり、833年には異端審問も行われました。

この時期、ムゥタズィラ学派は政治的にも重要な役割を果たしました。彼らはアッバース家の支援を受け、ウマイヤ家の批判を行ったため、アッバース家に対する曖昧な立場を正当化しました。時が経つにつれて、ムゥタズィラ学派の理論は批判を浴び、カリフ・ムタワッキルの時代には正統派の思想が再び台頭しました。その結果、ハンバル学派やアシュアリー学派などがムゥタズィラ学派の理念に反対する形で登場しました。

思想の基本的な枠組み

ムゥタズィラ学派の名称「ムゥタズィラ」は、もともと他称であり、彼ら自身は「タウヒードとアドルの徒」と名乗っていました。この名称は、彼らが理性を重視し、倫理的な問題を哲学的に考察する立場から来ています。彼らは、信仰と行動について合理的に解釈しようとし、神の正義を強調しました。

また、ムゥタズィラ学派は大罪を犯した人を信徒と見なさないハワーリジュ派と、罪を犯しても信仰を保ちながら信徒でいられるというムルジア派との中間の立場を取っていました。彼らは「選択の権利」を主張し、人間の行為が神の意志によるものだという点で自由意志を強調しました。

主要な教え

ムゥタズィラ学派は、以下の5つの主要な教えを持っています：
1. タウヒード（神の唯一性）
2. アドル（神の正義）
3. 天国と地獄の脅威
4. 信者と不信者の中間的立場
5. 勧善懲悪

彼らは理性に基づいた神学的思考を重視し、合理的な観点から、神、人間、世界の関係を理解しようとしました。特に、行為の選択において神が授ける自由と責任という概念が強調され、信徒は個々の行為に対し自ら責任を持つ必要があるとされました。

クルアーンと神の属性

ムゥタズィラ学派は、「神の属性の否定」と「クルアーン創造説」を主張しました。彼らは、神の属性を否定し、神の実体は外部の属性に依存しないと考えていました。また、クルアーンは神によって創造されたものであり、その解釈は個人の思惟に基づくべきだとする立場を取っていました。

このような抽象的な神の解釈は一般市民から抵抗を受けましたが、自由意志に関する議論は高く評価され、科学的進歩を促進する一因ともなりました。彼らの思想は、アッバース朝のユダヤ教の神学にも影響を与え、ラビによる神学形成に寄与しました。

結論

ムゥタズィラ学派は、イスラム教の歴史において思想的な影響力を持つ重要な流派です。その哲学的な考察と理性に基づいたアプローチは、現代の思想においても意義深いものとして理解されています。

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