ムスチスラフ・ムスチスラヴィチ

ムスチスラフ・ムスチスラヴィチ：ルーシを揺るがした豪腕公

ムスチスラフ・ムスチスラヴィチ(1176年以前 - 1228年)は、13世紀初頭のキエフ・ルーシにおいて、その名を知らしめた傑物と言えるでしょう。アレクサンドル・ネフスキーの外祖父という血縁関係からも、その存在感の大きさが伺えます。通称「ウダトニィー」(幸運な、成功した) と呼ばれた彼は、幾多の戦場を駆け巡り、複数の公国を治めた、まさに時代の寵児でした。

出自と謎めいた生い立ち

彼の出自には諸説あります。父はムスチスラフ・ロスチスラヴィチという有力公ですが、ムスチスラフ・ムスチスラヴィチの誕生は父の死後だったという説も存在します。もしそうであれば、父と同じ名を名乗るという行為は、リューリク朝の中では異例で、ある種の特権を示唆するのかもしれません。

V.V.ボグスラヴスキーは、ムスチスラフ・ロスチスラヴィチの最初の妻との間に生まれた一人息子であり、兄弟の中でも最年長だったと主張します。しかし、この説では、ノヴゴロドを治めたムスチスラフと、プスコフを治めた兄弟ウラジーミルとの関係が、なぜそのような形になったのか、説明がつきません。

別の説では、ガーリチ公ヤロスラフの孫という説もあります。これは、ムスチスラフがガーリチ公位を主張し、それを成功させたという事実を根拠としています。彼の出自には未だ謎が多く、さらなる研究が必要とされています。

波乱に満ちた生涯

ムスチスラフの生涯は、まさに戦いと政治的駆け引きの連続でした。1193年と1203年には、遊牧民であるポロヴェツ族への遠征に参加。1207年には、トルチェスクの警備にあたっていましたが、チェルニゴフ公フセヴォロドの軍に追われ、スモレンスク公国のトロペツへ逃亡を余儀なくされています。

1210年にはノヴゴロド公となり、キエフ大公フセヴォロド3世との戦いを開始。1212年と1214年にはチュヂ族とリヴォニア帯剣騎士団へと遠征軍を率いています。1214年にはフセヴォロド3世を破り、ムスチスラフ3世をキエフ大公位につけました。その後、クラクフ公レシェク1世の招きを受け、ガーリチ公の地位に就きます。このガーリチ公着任時期については、1215年説と1219年説があり、歴史家の間でも意見が分かれています。

ガーリチ公となってからも、ムスチスラフの奮闘は続きます。彼は娘アンナをガーリチ公ダニール・ロマノヴィチに嫁がせ、同盟を結びます。ダニールはレシェク1世と対立しており、ハンガリー王アンドラーシュ2世を味方につけたレシェク1世に対しても、軍事行動で優位に立っていました。

1216年にはヤロスラフとの間で激しい戦いが勃発し、リピツァの戦いで勝利、ヤロスラフを破りムスチスラフの同盟者コンスタンチンをウラジーミル大公につけました。しかし、ムスチスラフ不在の間にハンガリーとポーランド連合軍がガーリチを包囲。ダニールは奮戦しましたが、ムスチスラフは街の放棄を指示します。ダニールはこれを拒否し、ハンガリー王子カールマーンの軍と対峙しました。

1220年か1221年の冬には、ムスチスラフはポロヴェツ族やルーシの公の軍を率いてガーリチへ進軍。ハンガリー軍を破り、カールマーンを捕虜としました。この勝利によって、アンドラーシュ2世は和平交渉に応じ、息子のアンドラーシュとムスチスラフの娘マリヤとの結婚が成立。ムスチスラフはガーリチの支配を固めました。

1223年には、歴史上重要なカルカ河畔の戦いでルーシ諸公軍を率いてモンゴル軍と対峙しますが、敗北を喫します。

1228年、最晩年にさしかかると、ポロヴェツ族のコチャン＝ハン、キエフ大公ウラジーミル4世、ベルズ公アレクサンドルと同盟を結び、ダニールとポーランド軍と戦いました。同年、ポニジエで死去しました。キエフで葬儀が行われ、教会が設立されたというポーランドの記録が残されています。

家族とその後

ムスチスラフの妻はポロヴェツ族のハン、コチャンの娘マリヤでした。彼の子女は、後世のルーシの歴史に大きな影響を与えました。娘ロスチスラヴァはアレクサンドル・ネフスキーの母であり、アンナはガーリチ公ダニールの妻、レフ・ダニーロヴィチの母でした。

ムスチスラフ・ムスチスラヴィチは、その生涯において、数々の戦場で勝利を収め、複数の公国を治めるなど、揺るぎない力を示しました。しかしその一方で、キエフ大公位争いやガーリチ公国の争乱といった、当時のルーシ社会の混乱にも深く関わっていました。彼の生涯は、13世紀初頭のルーシの歴史を理解する上で、欠かせない重要な要素となっています。

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