ムルタラ・ムハンマド

ムルタラ・ラマト・ムハンマド：ナイジェリアの激動の時代を駆け抜けた軍人・政治家

ムルタラ・ラマト・ムハンマド（1938年11月8日 - 1976年2月13日）は、ナイジェリアの軍人であり、政治家でした。彼は、1975年のクーデターでヤクブ・ゴウォン政権を打倒し、短期間ながらもナイジェリアの指導者として、国内政治と外交に大きな影響を与えました。

権力掌握までの道のり

ムハンマドは、ゴウォン政権以前のジョンソン・アグイイ＝イロンシ政権にも不満を抱いていました。イロンシがイボ族出身の軍人によるクーデターを鎮圧したものの、北部出身者たちはイロンシに不信感を募らせ、クーデターの機運が高まっていました。1966年7月29日、アベオクタ兵営の北部出身兵士たちがクーデターを計画し、当初は北部の独立も検討されましたが、経済的な困難を指摘され断念。ゴウォン中佐をナイジェリア国軍最高司令官とするクーデターが実行されました。ムハンマド自身も指導者になることを望んでいましたが、上官であったゴウォンが選ばれ、また、ムハンマドは米英の支持を得られませんでした。その後、彼は中佐に昇進し、司令審査官に任命されました。

ビアフラ戦争中、ムハンマドはナイジェリア国軍の第2師団の総司令官を務めました。第2師団はビアフラ軍に反撃し、中西部州を奪還、ニジェール川を渡り、第1師団と連携しました。しかし、イボ族が多く住む中西部州の国境の町アサバで、妊婦がレイプされ殺害される事件が発生し、ムハンマドは非難を浴びました。彼はこれを否定し、謝罪することはありませんでした。また、ニジェール川渡河作戦では、ビアフラ軍によって破壊された橋の再建を待たずに渡渉を開始し、多くの犠牲者を出す結果となりました。この作戦の失敗により、ムハンマドは司令官を解任され、イギリスへの長期休暇を命じられました。

ビアフラ戦争終結後、ムハンマドは司令審査官の地位に戻ります。しかし、ゴウォン政権の汚職が蔓延しているとの噂を聞き、准将としてオバサンジョ准将やテオフィルス・ダンジュマ准将らからクーデター計画を持ちかけられると、ナイジェリア軍の勝利に貢献した将校たちが正当に評価されていないという不満が高まっていることを認識し、クーデターを決意しました。

1975年のクーデターとその後

1975年7月29日、ムハンマドはゴウォンがアフリカ統一機構（OAU）首脳会議に出席するためカンパラへ外遊中にクーデターを実行し、自ら国家元首に就任しました。彼はオバサンジョを参謀総長、ダンジュマを陸軍参謀長に任命しました。ムハンマドの政策は民衆の支持を集め、彼は英雄視されましたが、偽善的で汚職を続けていたという批判も存在します。

彼はまず、北部を重視した1973年の国勢調査を破棄し、1963年の数値を採用しました。また、連邦幹部と州政府を刷新し、ゴウォン政権との繋がりを断ち切ることで、国民の信頼回復に努めました。しかし、その過程で1万人以上の公務員が解雇され、年金も失うことになりました。この粛清は、行政、司法、軍、警察、外交、公企業、大学など、あらゆる分野に影響を及ぼし、裁判にかけられる者も現れました。また、10万人規模に肥大化した軍の将校も武装解除されました。

連邦執行評議会の25の大臣ポストのうち12は民間人に割り当てられましたが、内閣の権限は最高軍事評議会に次ぐものでした。ムハンマドはかつて州に割り当てられていた連邦政府の権限を停止し、州政府の権限を回復させました。新たな軍政知事らは軍事評議会の議席を持たなかったものの、ムハンマドの政策を実行しました。連邦政府は主要な新聞社を買収し、御用新聞化し、大学も連邦の支配下に置きました。

経済政策においては、第三次国土開発計画を策定し、インフレーションを抑制するために通貨供給量を減らし、公企業を抑制して私企業の活性化を訴えました。外交面では、ナイジェリア優先を掲げ、OPECの協調を脅かしました。また、非同盟外交を放棄し、特にアンゴラ内戦においては、キューバとソ連の支援を非難する米国との関係を変化させました。OAUが和平交渉を仲介していましたが、ムハンマドは、アパルトヘイト政権下の南アフリカによるアンゴラ全面独立民族同盟（UNITA）支援を理由に、1975年末にソ連側のアンゴラ解放人民運動（MPLA）への支持を表明しました。

暗殺とその後

1976年2月13日、ムハンマドはブカ・スカ・ディムカ中佐によるクーデター未遂事件で暗殺されました。通勤途中、ラゴスのドーダン兵営付近で待ち伏せに遭い、副官と共に射殺されました。しかし、クーデターはオバサンジョらによって鎮圧され、ディムカ中佐ら首謀者は処刑されました。政権はオバサンジョが引き継ぎ、ムハンマドの政策路線が維持されました。

ムハンマドが暗殺時に乗っていたリムジンは、現在ラゴスの国立博物館に展示されており、銃弾の痕跡が残されています。

ムルタラ・ラマト・ムハンマドは、その短い統治期間にもかかわらず、ナイジェリアの歴史に大きな足跡を残しました。彼の政策は、ナイジェリア社会に大きな変化をもたらし、その後の政治、経済、外交に大きな影響を与えました。

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