ムンダの戦い

ムンダの戦い：カエサル最後の内戦

ムンダの戦いは、紀元前45年3月17日にヒスパニアのムンダ（現在のスペイン・オスナ）で、ガイウス・ユリウス・カエサル率いるカエサル派と、グナエウス・ポンペイウスの息子小ポンペイウス率いる元老院派（ポンペイウス派）が戦った、ローマ内戦における重要な戦いです。

開戦までの経緯

紀元前46年春、イレルダの戦いでカエサルに敗れた元老院派の兵士たちが、小ポンペイウスを擁立してヒスパニアで蜂起しました。彼らはカエサルが任命した総督を追放し、ヒスパニアを実質的に支配下に置きました。タプススの戦いで敗北した元老院派の残党や、北アフリカから逃れてきた小ポンペイウス、セクストゥス・ポンペイウス、プブリウス・アッティウス・ウァルス、そしてかつてカエサルの腹心であったティトゥス・ラビエヌスらが合流し、元老院派の勢力は拡大しました。彼らは3つのローマ軍団（ベテラン中心の2軍団と、ヒスパニア在住ローマ市民による1軍団）に加え、ヒスパニア人やガリア人からなる軍勢を組織し、属州都コルドバを含むヒスパニアの大部分を支配しました。

カエサルからヒスパニアを任されていたクィントゥス・ファビウス・マクシムスとクィントゥス・ペディウスは、元老院派の勢力拡大を阻止できず、カエサルに支援を要請しました。

カエサル、ヒスパニアへ

紀元前46年11月、カエサルは元老院派を討伐するためローマを出発し、精鋭部隊である第10軍団エクェストリス、第5軍団アラウダエ、そして新たに編成された第3軍団ガッリカ、第6軍団フェッラタなどを率いてヒスパニアに上陸しました。この時、カエサルの甥であるガイウス・オクタウィウス・トゥリヌス（後のアウグストゥス帝）も同行を予定していましたが、体調不良のため実現しませんでした。

カエサルは、ウリピアを攻撃していた小ポンペイウス軍を排除しましたが、セクストゥスが守るコルドバを陥落させることはできませんでした。ラビエヌスの助言により小ポンペイウスが野戦を避けたため、カエサルは兵糧を確保しつつ陣地を構築しました。その後、カエサル軍はアテグアを包囲戦の末に陥落させ、ポンペイウス軍の士気を大きく低下させました。ポンペイウス軍に加わっていた現地兵が離反したり、元老院派のローマ軍団兵の中にはカエサル軍への帰順を計画する者も現れました。そのため、ポンペイウス軍は持久戦を諦め、カエサルとの決戦に臨むこととなりました。

両軍の戦力

カエサル軍とポンペイウス軍はムンダの平野で対峙しました。ポンペイウス軍はムンダ市の城壁に近い、防御しやすい丘に陣を構えました。

カエサル軍は8個軍団と8,000騎兵、ポンペイウス軍は13個軍団、6,000人の軽歩兵、6,000騎兵を有していました。ポンペイウス軍の兵士の多くは、過去にカエサルに降伏した経験があり、再び許されることはないと恐れて死力を尽くして戦いました。

ムンダの戦い

戦闘は激戦となり、両軍の優劣はなかなか決しませんでした。カエサル自身も後に「何度も勝利のために戦ってきたが、ムンダでは自分の命を守るために戦わざるを得なかった」と語ったほどです。また、戦闘中にカエサルは兵士に向かって「私をあんな小僧に捕虜として引き渡して恥ずかしくないのか！」と叫んだと伝えられています。

カエサルは第10軍団を配置した右翼を指揮し、ポンペイウス軍を押し込みました。小ポンペイウスは劣勢となった左翼を強化するため、自身が指揮していた右翼の一部を左翼へ移動させました。その隙を見て、カエサル軍の騎兵部隊と同盟を結んでいたボッグス2世率いるマウレタニア騎兵が、ポンペイウス軍の背後から攻撃を仕掛けました。

ポンペイウス軍の騎兵を指揮するラビエヌスは、カエサル軍騎兵部隊の動きを阻止しようとしましたが、その動きを見た兵士たちは、左翼と右翼が劣勢となりラビエヌスが退却を始めたと誤解し、戦線は全面崩壊し敗走となりました。

カエサル軍は敗走するポンペイウス軍を追撃し、約30,000人を殺害、ラビエヌスも戦死しました。一方、カエサル軍の損害は戦死者1,000人、負傷者500人でした。

戦後

カエサルは抵抗を続けるムンダの包囲戦をファビウスに任せ、自身はヒスパニアの平定に向かいました。コルドバは降伏し、市内の兵士は処刑され、巨額の賠償金を課せられました。ムンダはしばらく持ちこたえましたが、最終的に降伏しました。

小ポンペイウスは逃亡中に捕らえられて処刑され、プブリウス・アッティウス・ウァルスも戦死しました。セクストゥスは大西洋岸まで逃れましたが、カエサルに対抗する力は残っていませんでした。ムンダの戦いの勝利によって、ローマ内戦は事実上終結しました。

カエサルは帰路でマルクス・アントニウスと再会し、関係を修復しました。ローマでムンダ戦勝の凱旋式を挙行しましたが、同胞であるローマ市民への勝利を祝うことに、多くのローマ市民が心を痛めたと言われています。

カエサルは終身独裁官として絶対的な権力を手中に収めましたが、ムンダの戦いから約1年後の紀元前44年3月15日、共和主義者によって暗殺されました。

ムンダの戦いは、カエサルの軍事的才能を示す最後の戦いであるとともに、その後のカエサルの暗殺、そしてローマ帝国の成立へと繋がる重要な出来事でした。

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