メゲース

メゲース（Megēs）

メゲースは、古代ギリシャ神話に語られる英雄の一人であり、トロイア戦争においてギリシア（アカイア）軍の有力な武将として活躍しました。その名は古代ギリシャ語でΜέγηςと表記され、日本語では長母音を省略してメゲスとも呼ばれます。

出自

メゲースの出自については複数の伝承があります。一般的には、ドゥーリキオンの王ピューレウスとその妻であるテュンダレオースの娘ティーマンドラーの子とされています。ピューレウスは、英雄ヘラクレスとその妻デイヤーネイラの子であるヒュロスの子孫にあたる人物です。また、ピューレウスはアウゲイアースの息子であるとも伝えられています。

しかし、母については異説もあり、オデュッセウスの妹クティメネー、あるいはエウステュオケーという女性の名も挙げられています。兄弟としては、エウリュダメイアがいるとされ、また一説にはディオーレースも兄弟であるとも語られています。

ヘレネーの求婚者、そしてトロイア戦争へ

スパルタ王メネラーオスの妻となる絶世の美女ヘレネーには、ギリシャ全土から多くの英雄たちが求婚に集まりました。メゲースもまた、その名だたる求婚者の一人として名を連ねています。やがてヘレネーがトロイアの王子パリスに連れ去られたことからトロイア戦争が勃発すると、ヘレネーへの求婚者たちは誓いを守り、アガメムノーン率いるギリシア軍に加わります。

メゲースもまた、ドゥーリキオンおよび近隣のエキーナデス群島から集めた精鋭の兵士たちと共に、40隻の船団を率いてトロイアへと出征しました。彼はアカイア軍の重要な指揮官の一人として、戦場で武勲を立てることになります。

トロイア戦争での活躍

ホメロスによる叙事詩『イーリアス』によれば、メゲースは戦争の様々な局面で勇猛さを示しました。開戦初日に行われた戦闘において、トロイアの武将アンテーノールの子であるペーダイオスを討ち取ったとされています。

戦況が膠着し、やがてトロイア軍がギリシア軍の築いた防壁を突破して陣地内に侵攻する事態に至ると、戦場は凄まじい混戦となりました。メゲースは部下のアムピーオーンやドラキオスらと共に、自らが率いるドゥーリキオンの兵を指揮。アテナイ王メネステウスや、ピロクテーテースの副官メドーン、プロテシラーオスの異父兄弟ポダルケースらと共に、最も激しい戦闘が繰り広げられる最前線で奮戦しました。

自軍の部下オートスが、アポローンの加護を受けたトロイアのプーリュダマースによって討たれた際には、メゲースは敵討ちを果たそうとしました。しかし、神に守られたプーリュダマースを討つことは叶いませんでした。その代わりに、彼は槍でクロイモスを突き刺し、討ち取ります。メゲースがクロイモスの武具を剥ごうとした時、ラムポスの子ドロプスが彼に襲いかかりました。ドロプスの槍はメゲースの体に命中しますが、彼の父ピューレウスがエピュラーの王エウプテスから贈られた見事な胸当てが、その一撃からメゲースを守りました。メゲースは反撃し、ドロプスの兜に飾られていた鮮やかな馬毛の飾り房を断ち切り、地面に散らしました。ドロプスはなおも戦場に踏みとどまろうとしましたが、そこへ駆けつけたスパルタ王メネラーオスによって討たれました。メゲースはまた、アムピクロスという敵兵も討ち取っています。

アキレウスがアガメムノーンとの確執から一時的に得た捕虜であるブリーセーイスが、アガメムノーンのもとへ引き渡される際には、オデュッセウスらと共にその場に立ち会ったと記録されています。戦場での活躍は続き、その後もイーテュモネウスや、ヒッパソスの子アゲラーオスといった敵兵を討ち取るなど、武勲を重ねました。

戦後の運命

長きにわたるトロイア戦争が終結した後のメゲースの運命については、いくつかの異なる伝承が語られています。一説によれば、帰国の途上、エウボイア島のカペーレウス沖で遭遇した激しい嵐により船が難破。プロトオスら他の多くの兵士たちと共に海に呑まれ、溺死したとされています（クイントゥスの『トロイア戦記』など）。しかし別の伝承では、彼は無事に故郷ドゥーリキオンへと生還を果たしたとも伝えられます。また、負傷がもとで帰国途中に命を落としたとする異説も存在するなど、その最期は必ずしも明確ではありません。どの伝承が正しいのかは定かではなく、彼の生涯の結末は謎に包まれています。

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