メーリオネース
メーリオネース（古希: Μηριόνης）は、古代ギリシア神話に名を残すクレーテー島出身の英雄です。長母音を省略してメリオネスとも表記されます。彼はクレーテー王族であるモロスとメルピスの子として生まれ、トロイア戦争ではヘレネーに求婚した一人として、ギリシア連合軍の重要な武将の一人として戦場に立ちました。特にクレーテーの指導者イードメーネウスの忠実な従者として知られ、その勇猛さはホメーロスの叙事詩『イーリアス』の中で繰り返し称賛されています。ホメロスは彼をしばしば「武人殺しのエニューアリオス（軍神アレースの別名）にも劣らぬ」と形容し、イードメーネウスの従者という立場を超えた高い士気と優れた指揮能力は、最高司令官アガメムノーンからも高く評価されていました。トロイア戦争の年代記を記したとされるプリュギアのダレースは、メーリオネースを赤褐色の髪、中背ながらもたくましく敏速な戦士であったと描写しています。
メーリオネースの系譜については複数の説があります。一般的には、クレーテー島を支配した伝説的な王ミーノースの一族に連なると考えられています。父親モロスについては、ホメロス以降の記述に基づき、ミーノースの子デウカリオーンの非嫡出子であり、イードメーネウスの異母兄弟とする見解があります。しかし、アポロドーロスはこの説を紹介しつつも、メーリオネース自身には言及していません。一方、シケリアのディオドーロスは、モロスをミーノースの息子でデウカリオーンの兄弟としており、この系譜によれば、メーリオネースはイードメーネウスの従兄弟にあたることになります。これらの異なる伝承が、彼の王族としての立場とイードメーネウスとの関係性の理解に多様な視点を提供しています。
メーリオネースは、クレーテー軍の主要な指揮官としてトロイア戦争に参加しました。イードメーネウスと共にクレーテーからの軍勢を率いたとされ、その船の数については文献によって80隻または90隻と異説が見られます。ヒュギーヌスは、この80隻をイードメーネウスとメーリオネースがそれぞれ40隻ずつ分担して率いたと具体的に記しています。
『イーリアス』の中で最初に彼の武勲が描かれるのは、女神アテーナーがディオメーデースに力を与えた場面です。この時、メーリオネースはトロイアの勇将ペレクロスを見事に討ち取りました。ヘクトールがギリシア軍の英雄たちに一騎討ちを挑んだ際には、他の名だたる武将たちと並んで対戦を志願しています。
彼の存在感が特に際立つのは、『イーリアス』第10巻、すなわち2日目の戦いの夜の描写です。アガメムノーンからの厚い信頼を得ていたメーリオネースは、トラシュメーデースと共に夜間警備の指揮を任されていました。戦況打開のための軍議が開かれると、彼は他の主要な英雄たちと共にこれに参加します。ネストールがトロイア陣営への偵察を提案した際、メーリオネースは即座にその任務への参加を志願するほどの積極性を示しました。最終的にディオメーデースとオデュッセウスが偵察に向かうことになると、メーリオネースは自身の弓矢をオデュッセウスに貸し与えました。さらに、彼は特別な兜をオデュッセウスに提供します。これはかつて巧妙な盗人アウトリュコスがアミュントールの館から盗み出したもので、後にメーリオネースの父モロスの手に渡り、父から息子へと受け継がれた、イノシシの牙を精巧に施した兜でした。
トロイア勢とリュキア勢がギリシア軍の堅固な防壁を突破して侵入した際には、海神ポセイドーンの激励を受けて奮い立ちました。彼は大楯を構えて進撃するトロイアの将デーイポボスに槍を投げますが、惜しくも仕留め損ねます。大将首を逃したことに苛立ちを覚えながらも、彼はすぐに予備の槍を取りにクレーテー部隊の陣地へ戻ります。そして、傷の手当てを受けていたイードメーネウスと再び最前線へ向かいますが、その様子はあたかも恐怖の神ポボスが軍神アレースに付き従うかのようだったと描写されています。戦況を鋭く見抜いたメーリオネースは、左翼が最も手薄であると瞬時に判断し、イードメーネウスを導いてその方面へ急行しました。イードメーネウスがアルカトオスを討ち取った後、その遺体を巡る激しい攻防が展開されます。メーリオネースはイードメーネウス、アスカラポス、アパレウス、デーイピュロス、アンティロコスといったギリシア側の英雄たちと共に、デーイポボス、アイネイアース、パリス、アゲーノールらトロイア側の強豪たちと激戦を繰り広げました。この戦いの中で、彼はデーイポボスの腕に槍を突き刺し、戦線から退却させる功を挙げます。さらに、アンティロコスから逃れようとするアダマースを槍で討ち取り、パプラゴニアの王子ハルパリオーンを矢で射抜くなど、多くの敵将を討ち取る武勲を重ねました。
その後もモリュスやヒッポティオーンといった敵兵を討ち、パトロクロスがアキレウスの武具を身に着けて出陣した際には、イーデー山のゼウスの神官オネートールの子ラーオゴノスを討ち取りました。大楯を掲げて果敢に進むメーリオネースに対し、アイネイアースは槍を投げますが、彼は盾で受け止めずに軽やかに避けます。これを見たアイネイアースは、メーリオネースの身のこなしの軽やかさを「踊りの名人」と皮肉るほどでした。
パトロクロスの戦死後、その遺体を巡る凄惨な激戦が始まります。御者のコイラノスを討たれたイードメーネウスに退却を進言しつつも、メーリオネース自身は最後まで戦場に踏みとどまりました。大アイアース、小アイアース、メネラーオス、アンティロコスといった他の英雄たちと共に、パトロクロスの遺体をトロイア勢から必死に守り抜きます。アンティロコスがパトロクロスの戦死をアキレウスに伝えるために戦線を離れた後、両アイアースがヘクトール率いるトロイア勢の猛攻を防いでいる間に、メーリオネースはメネラーオスと共にパトロクロスの遺体を安全な場所へ運び出すという重要な役割を果たしました。
パトロクロスの盛大な葬儀に際して、メーリオネースは火葬のための木材切り出しを指揮しました。また、故人を悼むために催された葬礼競技にも参加しています。苦手とされる戦車競走では5人の参加者中4位でしたが、弓競技では名手テウクロスと競い合い見事に勝利を収めました。続く槍投げ競技では最高司令官アガメムノーンと対戦することになっていましたが、アキレウスがアガメムノーンの卓越した戦士としての実力は誰もが認めるところであるとして、戦わずしてアガメムノーンを勝者としました。これはメーリオネースの実力を認めつつも、総大将への配慮を示したものと言えます。
トロイア戦争終盤においても、メーリオネースは引き続き活躍しました。アマゾーンの女王ペンテシレイアの部下であるエウアンドレーやテルモードーサを含む、ラーオポオーン、クロモス、ピューロダマース、リュコーンといった数々の敵将を討ち取っています。そして、トロイア陥落の決定打となった「木馬作戦」にも、中に潜むギリシア兵の一人として参加したと伝えられています。
しかし、パトロクロスの遺体をヘクトールから奪還しようとした際に戦死したという異説も一部に存在します。
トロイア戦争が終結し、故郷への帰路についたメーリオネースは、その途中でシケリア島に立ち寄ったと伝えられています。そこで彼は戦争での功績により、十分に広い領地を獲得し、新たな基盤を築いたとされています。彼の故郷クレーテー島、クノーソスには、偉大な指導者イードメーネウスの墓の近くにメーリオネース自身の墓も存在したとパウサニアスは記しています。また、イードメーネウスが死去した後、メーリオネースがクレーテーの王位を継承したとする伝承も存在しており、彼の王族としての出自と戦功が、その後の地位に影響を与えた可能性を示唆しています。
出自と系譜
メーリオネースの系譜については複数の説があります。一般的には、クレーテー島を支配した伝説的な王ミーノースの一族に連なると考えられています。父親モロスについては、ホメロス以降の記述に基づき、ミーノースの子デウカリオーンの非嫡出子であり、イードメーネウスの異母兄弟とする見解があります。しかし、アポロドーロスはこの説を紹介しつつも、メーリオネース自身には言及していません。一方、シケリアのディオドーロスは、モロスをミーノースの息子でデウカリオーンの兄弟としており、この系譜によれば、メーリオネースはイードメーネウスの従兄弟にあたることになります。これらの異なる伝承が、彼の王族としての立場とイードメーネウスとの関係性の理解に多様な視点を提供しています。
トロイア戦争での活躍
メーリオネースは、クレーテー軍の主要な指揮官としてトロイア戦争に参加しました。イードメーネウスと共にクレーテーからの軍勢を率いたとされ、その船の数については文献によって80隻または90隻と異説が見られます。ヒュギーヌスは、この80隻をイードメーネウスとメーリオネースがそれぞれ40隻ずつ分担して率いたと具体的に記しています。
『イーリアス』の中で最初に彼の武勲が描かれるのは、女神アテーナーがディオメーデースに力を与えた場面です。この時、メーリオネースはトロイアの勇将ペレクロスを見事に討ち取りました。ヘクトールがギリシア軍の英雄たちに一騎討ちを挑んだ際には、他の名だたる武将たちと並んで対戦を志願しています。
彼の存在感が特に際立つのは、『イーリアス』第10巻、すなわち2日目の戦いの夜の描写です。アガメムノーンからの厚い信頼を得ていたメーリオネースは、トラシュメーデースと共に夜間警備の指揮を任されていました。戦況打開のための軍議が開かれると、彼は他の主要な英雄たちと共にこれに参加します。ネストールがトロイア陣営への偵察を提案した際、メーリオネースは即座にその任務への参加を志願するほどの積極性を示しました。最終的にディオメーデースとオデュッセウスが偵察に向かうことになると、メーリオネースは自身の弓矢をオデュッセウスに貸し与えました。さらに、彼は特別な兜をオデュッセウスに提供します。これはかつて巧妙な盗人アウトリュコスがアミュントールの館から盗み出したもので、後にメーリオネースの父モロスの手に渡り、父から息子へと受け継がれた、イノシシの牙を精巧に施した兜でした。
戦場での奮闘
トロイア勢とリュキア勢がギリシア軍の堅固な防壁を突破して侵入した際には、海神ポセイドーンの激励を受けて奮い立ちました。彼は大楯を構えて進撃するトロイアの将デーイポボスに槍を投げますが、惜しくも仕留め損ねます。大将首を逃したことに苛立ちを覚えながらも、彼はすぐに予備の槍を取りにクレーテー部隊の陣地へ戻ります。そして、傷の手当てを受けていたイードメーネウスと再び最前線へ向かいますが、その様子はあたかも恐怖の神ポボスが軍神アレースに付き従うかのようだったと描写されています。戦況を鋭く見抜いたメーリオネースは、左翼が最も手薄であると瞬時に判断し、イードメーネウスを導いてその方面へ急行しました。イードメーネウスがアルカトオスを討ち取った後、その遺体を巡る激しい攻防が展開されます。メーリオネースはイードメーネウス、アスカラポス、アパレウス、デーイピュロス、アンティロコスといったギリシア側の英雄たちと共に、デーイポボス、アイネイアース、パリス、アゲーノールらトロイア側の強豪たちと激戦を繰り広げました。この戦いの中で、彼はデーイポボスの腕に槍を突き刺し、戦線から退却させる功を挙げます。さらに、アンティロコスから逃れようとするアダマースを槍で討ち取り、パプラゴニアの王子ハルパリオーンを矢で射抜くなど、多くの敵将を討ち取る武勲を重ねました。
その後もモリュスやヒッポティオーンといった敵兵を討ち、パトロクロスがアキレウスの武具を身に着けて出陣した際には、イーデー山のゼウスの神官オネートールの子ラーオゴノスを討ち取りました。大楯を掲げて果敢に進むメーリオネースに対し、アイネイアースは槍を投げますが、彼は盾で受け止めずに軽やかに避けます。これを見たアイネイアースは、メーリオネースの身のこなしの軽やかさを「踊りの名人」と皮肉るほどでした。
パトロクロスの戦死後、その遺体を巡る凄惨な激戦が始まります。御者のコイラノスを討たれたイードメーネウスに退却を進言しつつも、メーリオネース自身は最後まで戦場に踏みとどまりました。大アイアース、小アイアース、メネラーオス、アンティロコスといった他の英雄たちと共に、パトロクロスの遺体をトロイア勢から必死に守り抜きます。アンティロコスがパトロクロスの戦死をアキレウスに伝えるために戦線を離れた後、両アイアースがヘクトール率いるトロイア勢の猛攻を防いでいる間に、メーリオネースはメネラーオスと共にパトロクロスの遺体を安全な場所へ運び出すという重要な役割を果たしました。
葬礼競技とその後
パトロクロスの盛大な葬儀に際して、メーリオネースは火葬のための木材切り出しを指揮しました。また、故人を悼むために催された葬礼競技にも参加しています。苦手とされる戦車競走では5人の参加者中4位でしたが、弓競技では名手テウクロスと競い合い見事に勝利を収めました。続く槍投げ競技では最高司令官アガメムノーンと対戦することになっていましたが、アキレウスがアガメムノーンの卓越した戦士としての実力は誰もが認めるところであるとして、戦わずしてアガメムノーンを勝者としました。これはメーリオネースの実力を認めつつも、総大将への配慮を示したものと言えます。
トロイア戦争終盤においても、メーリオネースは引き続き活躍しました。アマゾーンの女王ペンテシレイアの部下であるエウアンドレーやテルモードーサを含む、ラーオポオーン、クロモス、ピューロダマース、リュコーンといった数々の敵将を討ち取っています。そして、トロイア陥落の決定打となった「木馬作戦」にも、中に潜むギリシア兵の一人として参加したと伝えられています。
しかし、パトロクロスの遺体をヘクトールから奪還しようとした際に戦死したという異説も一部に存在します。
戦後の動向
トロイア戦争が終結し、故郷への帰路についたメーリオネースは、その途中でシケリア島に立ち寄ったと伝えられています。そこで彼は戦争での功績により、十分に広い領地を獲得し、新たな基盤を築いたとされています。彼の故郷クレーテー島、クノーソスには、偉大な指導者イードメーネウスの墓の近くにメーリオネース自身の墓も存在したとパウサニアスは記しています。また、イードメーネウスが死去した後、メーリオネースがクレーテーの王位を継承したとする伝承も存在しており、彼の王族としての出自と戦功が、その後の地位に影響を与えた可能性を示唆しています。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。