モニター (装甲艦)

USSモニター (USS Monitor)

アメリカ合衆国海軍において、最初に装甲を施された艦船の一つであるUSSモニターは、南北戦争中の1862年に就役しました。この艦は、従来の木造軍艦から鋼鉄製の装甲を持つ艦船へと、世界の海軍史における転換点を示す存在として知られています。特に、同じく装甲艦であったアメリカ連合国海軍のCSSバージニアとの間で繰り広げられた、史上初の装甲艦同士の海戦である1862年 3月9日のハンプトン・ローズ海戦は、モニターの名を歴史に刻む決定的な出来事となりました。この戦いを経て、軍艦の設計思想は一変し、防御力としての装甲が不可欠な要素となっていきます。そして、モニターはその後の多くの「モニター艦」と呼ばれる低乾舷・重武装の艦船の設計の基礎となりました。

設計とその革新性

モニターは、合衆国海軍が導入した3隻の装甲艦のうちの1隻であり、著名なスウェーデン系エンジニア、ジョン・エリクソンによって設計されました。その外観は非常に特徴的で、水面すれすれの平らな甲板の上に、2門のダールグレン砲を収めた円筒形の巨大な砲塔が鎮座しており、「筏の上のチーズボックス」と揶揄されるほどユニークなものでした。艦体の大部分は敵の砲撃から守るために水線下に隠されており、水面上には砲塔のほか、小さな四角い操舵室や取り外し可能な煙突などが露出しているのみでした。

モニターの建造は、当時の技術水準から見ても極めて革新的な取り組みでした。異なる9カ所の工場で製造された部品が、ニューヨークのコンチネンタル鉄工所のグリーンポイント地区で組み立てられ、わずか約120日という驚異的な速さで完成に至りました。この艦は、特徴的な旋回砲塔に加え、エリクソンが設計したスクリュープロペラを装備した最初の海軍艦艇でもありました。エリクソンは、現代の潜水艦に通じる多くの要素をこの艦に組み込み、ある意味では最初の半潜水艦とも言える設計を実現しました。これに対し、ハンプトン・ローズ海戦で対峙したバージニアは、装甲は施されていたものの、基本的には従来の木造艦を改造したものであり、設計思想の点でモニターとは大きく異なっていました。

ハンプトン・ローズ海戦

1862年3月8日、バージニアはハンプトン・ローズに展開していた合衆国海軍の海上封鎖艦隊を襲撃し、多数の木造艦を撃破・座礁させる大きな戦果を挙げました。その夜、ブルックリンから曳航されてきたモニターが戦場に到着しました。翌9日、バージニアが前日に座礁させた艦への攻撃を再開しようとしたところへ、モニターが立ちはだかりました。こうして、約4時間にわたる激しい装甲艦同士の砲撃戦が始まりました。両艦は互いに大損傷を負いましたが、決定的な勝敗はつきませんでした。戦術的には引き分けと評価されることが多いこの戦いですが、戦略的にはモニター側の勝利と言えます。バージニアの目的であった海上封鎖の打破は達成されず、一方のモニターは合衆国艦隊を守るという任務を果たしたからです。モニターは艦長が目の負傷で指揮不能となり一時退避しましたが、バージニアも損傷のため封鎖突破を断念しました。その後、両艦が直接対峙することはありませんでした。

後続艦とモニター艦の系譜

USSモニターは、その名の由来ともなった「モニター艦」という艦種を生み出すプロトタイプとなりました。南北戦争中、多くの河川モニターや航洋モニターが建造され、ミシシッピ川やジェームズ・リバーなどでの河川・沿岸域での戦闘で重要な役割を果たしました。これらの後続艦の中には、砲塔を複数装備したり、航行性能を改善したりしたものもありました。

モニターの革新的な設計は海外にも影響を与え、エリクソンの母国であるスウェーデンでもモニター艦が建造されました。1865年にノーショーピングで完成した最初のスウェーデン製モニターは、設計者に敬意を表して「ジョン・エリクソン」と命名されています。スウェーデンでは合計14隻のモニター艦が建造され、そのうちの1隻であるセルヴ(HSwMS Sölve)は、現在もヨーテボリ海事博物館に保存されており、現存する数少ないモニター艦の一つとして貴重な存在です。アメリカ海軍におけるモニター艦の系譜は、1937年に最後の艦が除籍されるまで続きました。

悲運の最期と再発見

モニターの低乾舷と重い砲塔という設計は、河川などの穏やかな水域での運用には適していましたが、外洋での荒波には極めて脆弱でした。この設計上の特性が、その短い艦歴を終焉させる原因となりました。1862年 12月31日、外輪船ロードアイランドに曳航されて外洋を航行中に、モニターはノースカロライナ州ハッテラス岬沖で高波に襲われ、沈没してしまいました。この事故により、乗組員62名のうち16名が行方不明となりました。モニターの艦名は、後に第二次世界大戦中の車両揚陸艦（LSV-5）に引き継がれました。

モニターの残骸は、沈没から1世紀以上が経過した1973年、ハッテラス岬の南東約26マイルの大西洋海底で、アメリカ海軍の試験機によって発見されました。この沈没現場は、アメリカ合衆国で最初に指定された海洋自然保護区となり、国立海洋自然保護区システムの中で文化財保護を主目的とする唯一の区域として管理されています。

2003年には、水深70メートルを超える海底から、モニターの象徴である巨大な旋回砲塔が、国立海洋大気庁と海軍の共同作業により引き揚げられました。この引き揚げ作業中に、砲塔内で2名の乗組員の遺体が発見されました。祖国のために戦い命を落とした彼らは、140年以上の時を経て、海軍のダイバーたちによって海底の眠りから呼び起こされ、海軍葬をもって丁重に葬られました。現在、モニター保護区は国立海洋大気圏局の管轄下にあり、引き揚げられた砲塔、スクリュー、錨、エンジン、そして乗組員の遺品などは、バージニア州ニューポートニューズにある海員博物館に展示され、訪れる人々にその歴史を伝えています。

モニターは、その歴史的価値が認められ、1986年にはアメリカ合衆国国定歴史建造物に指定されました。これは、世界に2箇所だけ存在する、水中にありながらアクセス可能（保護区として管理され調査などが行われる）なモニター艦の指定例の一つです。もう1箇所は、ノルウェー沖に沈むノルウェー海軍のモニター艦KNMトールです。

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