モネンバシア

ギリシャ共和国ラコニア県に属するモネンバシアは、ペロポネソス半島の東岸沖合に浮かぶ、海上の巨大な岩塊とその上に築かれた歴史的な町です。「東のジブラルタル」あるいは単に「ザ・ロック」とも称されるこの地は、本土とは約200メートルほどの短い土手道によってのみ結ばれています。その名はギリシャ語で「一つの入口」を意味する「mone emvasia」に由来し、島の唯一のアクセス経路を示しています。また、イタリア語名「Malvasia」は、有名なワイン用ブドウ品種であるマルムジー（Malmsey）の語源ともなりました。

地理

約1km×300mの規模を持つモネンバシア島は、大部分が海抜100メートルほどの高地を占める巨大な岩山です。かつて西暦375年の大地震までは本土と地続きであったとされています。町の中心的な市街地は、島の南東斜面に形成されており、眼下にはパレア・モネンバシア湾が広がります。この区域は、かつての姿を残す狭く曲がりくねった石畳の道が特徴で、現在でも徒歩またはロバによる移動が一般的です。島の北西部には、わずか10世帯ほどの小さな集落が存在するのみです。現代のモネンバシア自治体は、アソポス、モライ、モネンバシア、ヴィオス、ザラカを含む5つの旧自治体が2011年に統合されて成立しました。

歴史の変遷

モネンバシアの歴史は古く、古代には定住者はいなかったものの、ミノア文明における交易の要所であった可能性が指摘されています。紀元2世紀の地理学者パウサニアスは、この地を「アクラ・ミノア（ミノアの崖）」と記録しています。中世に入ると、その地理的な利点が活かされます。特に西暦583年、スラブ人やアヴァール人のギリシャ本土への侵攻から逃れてきた人々がこの岩山に城塞と市街を築き、強固な避難地としました。この頃の出来事は『モネンバシア年代記』に詳述されています。10世紀頃からは、地中海における交易と海事の重要な拠点として街は急速に発展しました。自給自足に近い環境を維持するため、要塞内部には30人分を養えるほどの畑まで設けられていたといいます。この堅牢さにより、1147年のアラブ人とノルマン人の侵攻にも耐え抜きましたが、1248年にはフランク人のギヨーム2世・ド・ヴィルアルドゥアンによる3年間にわたる攻略の末、占領されました。しかし、わずか14年後の1262年、ペラゴニアの戦いで捕虜となったギヨーム2世の解放条件として、モネンバシアは東ローマ帝国（ニカイア帝国、後の東ローマ帝国）のミカエル8世パレオロゴスに返還されました。

1460年まで東ローマ帝国領であったモネンバシアは、帝国内で特別な地位を占め、対フランスの軍事拠点としての役割も担いました。また、著名なマルムジーワインの主要な発送港として、その名をヨーロッパ中に広めることに貢献しました（必ずしも主要な生産地であったわけではありません）。同時に、レバント海域を拠点とする海賊たちの巣窟でもあったとされます。皇帝からの特権を享受する一方で、その富と戦略的重要性ゆえに、1292年にはロジャー・デ・ジュリアによる市街地略奪、1302年には東進するカタルーニャ傭兵団の受け入れといった混乱も経験しました。東ローマ帝国は後にペロポネソス半島にモレアス専制公領を設置し、モネンバシアもその一部となります。しかし、1397年にはオスマン帝国の圧力により一時的に領主テオドロス1世パレオロゴスが退位するなど、動乱は続きました。1419年には短期間ヴェネツィア共和国の支配下に入りますが、すぐに専制公領に戻っています。1453年のコンスタンティノープル陥落後、ペロポネソス半島の大部分がオスマン帝国の支配下に入りますが、モネンバシアはその堅牢さゆえに持ちこたえました。最後のモレアス専制公ソマス・パレオロゴスは、ローマ教皇に領地を売却して援軍を求めますが実現せず、最終的に1464年からヴェネツィアの支配下に入ります。ヴェネツィア支配下では一時平和と繁栄を享受しますが、1502年から1503年にかけて農地を失ったことで食料やワインの供給が困難になり、ワイン生産は衰退しました。1540年の条約によりヴェネツィア支配が終了し、モネンバシアはナフプリオと共にギリシャにおけるヴェネツィアの最後の拠点となりました。その後、オスマン帝国が支配し、「メネキシェ」（トルコ語でスミレ）と呼ばれ、モレア州の州都が置かれるなど再び重要視されましたが、1690年から一時的にヴェネツィアの「モレア王国」として復帰し、その後は1715年からギリシャ独立戦争が始まる1821年まで再びオスマン帝国の支配下に置かれました。第一次露土戦争中の1770年までは重要な商業都市として栄えましたが、その後の動乱で衰退の道を辿りました。ギリシャ独立戦争中の1821年、Tzannetakis Grigorakis率いる部隊によってオスマン帝国からの解放を果たしました。

近代と現在の姿

長らく船でしかアクセスできなかったモネンバシアでしたが、1971年に本土と島を結ぶ橋（ギリシャ国道86号線の一部）が島の西部に完成し、陸路でのアクセスが可能となりました。これを機に、モネンバシアは独特の景観と豊かな歴史を持つ観光地として再び脚光を浴びるようになります。中世の古い建物や遺跡の多くは修復され、その一部は個性的な宿泊施設として利用されています。現在、モネンバシアは年間を通じて多くの観光客が訪れる人気のデスティネーションとなっています。また、毎年7月23日には独立記念日を祝い、解放の功労者であるGrigorakisとその部隊を称える式典や、港で行われる船上からの花火などが盛大に開催されます。

主な見どころ

島内には、長い歴史の中で様々な時代に建てられた教会や要塞の遺跡が点在しています。

クリストスエルコメノス教会とジャミウ広場
アギア・ソフィア教会
* 要塞遺跡

著名な人物

この地からは、東ローマ帝国最後の「大公」を務めたルカス・ノタラス（1453年没）や、20世紀を代表するギリシャの詩人ヤニス・リッツォス（1909-1990）など、歴史に名を残す人物を輩出しています。

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