モンゴルのルーシ侵攻

モンゴル帝国のルーシ侵攻：破壊と「タタールのくびき」

13世紀、東から到来したモンゴル帝国の軍勢は、分裂と混乱の時代を迎えていたルーシ諸国に壊滅的な打撃を与えました。1223年のカルカ河畔の戦いを皮切りに、1236年からのバトゥ西征によって本格化したこの侵攻は、ルーシの歴史と社会構造に深い傷跡を残しました。

分裂するルーシとモンゴルの到来

11世紀以降、キエフ大公国は勢力を失い、ルーシは複数の公国に分裂していました。この弱体化したルーシに、モンゴル軍は容赦ない攻撃を加えます。1223年のカルカ河畔の戦いでは、モンゴル軍の偵察隊がルーシ諸侯とキプチャク連合軍を圧倒しました。しかし、この時点ではルーシ全土への征服は行われず、モンゴル軍は東へと去りました。

この一見したところの休戦期間は、ルーシ諸国が分裂と内紛を続ける時間を与えたに過ぎませんでした。1236年、バトゥ率いる大規模なモンゴル軍が西征を開始すると、ルーシ諸国は再びモンゴルの脅威に晒されることになります。

バトゥ西征とルーシの荒廃

バトゥ率いるモンゴル軍は、ヴォルガ・ブルガールを征服した後、ルーシへと侵攻を開始しました。ウラジーミル・スーズダリ大公国、リャザン公国など、多くの公国がモンゴル軍の攻撃を受け、首都を含む多くの都市が破壊されました。特に、ウラジーミルやリャザンといった大都市は徹底的に破壊され、住民は大量虐殺されました。

モンゴル軍はルーシ全土を席巻し、略奪と破壊を繰り返しました。北部ではノヴゴロドとプスコフが辛うじて抵抗に成功しましたが、その他の都市はほとんどが破壊されました。この侵攻により、ルーシの人口は壊滅的な打撃を受け、人口の半分が失われたという説も存在します。

モンゴル軍の残虐性と破壊は、キエフ大公国の滅亡、そしてルーシ社会の根幹を揺るがすものでした。モンゴル軍はキエフを完全に破壊し、ルーシ南部の主要都市を次々と征服していきました。抵抗を続けたハールィチ・ヴォルィーニ大公国も制圧され、モンゴル軍はさらに西へと進出しました。

「タタールのくびき」とモスクワ大公国の台頭

モンゴル軍はルーシを完全に征服し、ヴォルガ川下流にサライを建設して支配を続けました。これが「タタールのくびき」と呼ばれる時代です。この期間、ルーシ諸国はモンゴルに服属し、貢納を強いられました。しかし、これは必ずしも絶え間ない残酷な支配ではありませんでした。モンゴル人は直接的な支配よりも、現地支配者を通して間接的に支配する手法を好みました。貢納が支払われる限り、ルーシの人々は日常生活を比較的自由に送ることができました。

ただし、モンゴル人の襲撃や略奪は常に脅威として存在していました。遊牧民の侵入は稀ではありましたが、侵入が発生すれば、大量の犠牲者と土地の荒廃を引き起こし、疫病や飢餓も蔓延しました。ルーシ諸国は、この脅威への対応に多くの資源を費やさなければなりませんでした。

「タタールのくびき」の時代において、モスクワ大公国は次第に勢力を拡大していきます。他の公国がモンゴルによる破壊から立ち直れない中、モスクワはモンゴルと協力することで権力を強化しました。1380年のクリコヴォの戦いで、モスクワ大公ドミトリイ・ドンスコイはモンゴル軍を破り、その権威を確固たるものとしました。しかし、ジョチ・ウルスの再統一によってモスクワは再びモンゴルに従属しました。1480年のウグラ河畔の対峙で、モスクワ大公イヴァン3世がモンゴル軍を撤退させたことで、「タタールのくびき」は終焉を迎えます。

モンゴルの影響とルーシ社会

モンゴル支配はルーシ社会に多大な影響を与えました。多くの都市は破壊され、その再建は遅々として進みませんでした。経済活動も停滞し、文化面でも大きな影響を受けました。一方、モスクワ大公国はモンゴル支配のシステムを吸収し、その後の発展の基礎を築きました。

モンゴルの支配は、ルーシの人々の生活に深刻な影響を与えた一方、モスクワ大公国の台頭や、後のロシア帝国の形成にもつながりました。そして、東スラヴ人の民族意識の形成においても重要な役割を果たしたと言えます。モンゴルによるルーシ侵攻は、単なる軍事的な征服を超え、地域の歴史と文化に永続的な影響を与えた出来事だったのです。

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