モーリス・ブルグ

フランスが誇るオーボエ界の巨匠、モーリス・ブルグ（1939年 11月6日 - 2023年10月6日）は、オーボエ奏者、指揮者、そして熱心な教育者として、世界の音楽界に多大な影響を与えました。南仏アヴィニョンの出身です。

輝かしいキャリアの始まり

ブルグは故郷アヴィニョンで生まれ育ち、若くして音楽の才能を開花させました。パリ国立高等音楽院に進み、エティエンス・ボドやフェルナン・ウブラドゥーといった名教師に師事。ここで彼は卓越した技術を磨き、1958年にはオーボエで、翌1959年には室内楽で、それぞれプルミエ・プリ（一等賞）を獲得して卒業しました。また、「フランスで初めてオーボエをソリストの楽器として確立した」と称される先駆者、ピエール・ピエルロからも指導を受けています。

オーケストラでの活躍とソリストへの転身

音楽院卒業後、ブルグはオーケストラ奏者としての道を歩み始めます。1964年から3年間はバーゼル交響楽団のソロ・オーボエ奏者として活躍。その後、指揮者シャルル・ミュンシュに招かれ、1967年から1979年にかけてパリ管弦楽団の首席オーボエ奏者を務めました。この時期は、彼のキャリアにおける重要な一章となります。パリ管弦楽団退団後は、特定のオーケストラに所属せず、フリーのソリストや室内楽奏者として活動の幅を広げました。

室内楽への情熱も深く、自身で演奏団体を結成しています。パリ管弦楽団在籍中の1972年には、同僚と共にオーボエ、クラリネット、ホルン、バスーン各2名ずつで構成される「モーリス・ブルグ管楽八重奏団」を設立。退団後の1988年には、ピアニストやファゴット奏者と組む「モーリス・ブルグ・トリオ」を結成し、メンバーは何度か交代しながらも、2011年以降はピアニストの今井喜美子、ファゴット奏者のセルジオ・アッツォリーニと共に活動しました。

ブルグのレパートリーは幅広く、ヤン・ディスマス・ゼレンカやトリエベールといったバロック・古典期の作曲家から、アンドレ・ジョリヴェやパヴェル・ハースといった近現代の作曲家まで多岐にわたります。これらの作品を通じて、彼はオーボエのための隠れた名曲を発掘し、広く世に紹介することにも長年力を注ぎました。使用楽器は生涯にわたりリグータ社製のものでした。

1980年代からは指揮者としても活動を開始し、その音楽性は多方面で評価されました。

音楽教育への貢献と「呼吸法」の探求

モーリス・ブルグは、演奏活動と並行して教育者としても情熱を燃やしました。ジュネーヴ音楽院をはじめ、世界各地でマスタークラスを開催し、後進の指導にあたりました。ヴェーグ国際室内楽アカデミーの音楽監督やパリ国立高等音楽院の教授、さらには日本の東京藝術大学の卓越教授も務め、多くの才能を育成しました。

彼の教育法の中で特筆されるのは、「自然な呼吸法」に関する深い探求です。ブルグは8年間もの歳月をかけてこの呼吸法を研究したと伝えられています。「体が自然に呼吸し、正しい姿勢を保ち、それを音楽に生かす。すべての音楽は、自然で自由で繊細かつ正確な呼吸法から生まれます」と語っており、この呼吸法は管楽器奏者だけでなく、全ての楽器奏者にとって重要だと考えていました。彼の弟子たちも、この呼吸法の重要性について言及しています。

多くの著名な弟子たち

ブルグの薫陶を受けた弟子たちは、世界の主要オーケストラで活躍しています。以下にその一部を挙げます。

- 若尾圭介: ボストン交響楽団準首席、ボストン・ポップス・オーケストラ首席。ブルグとの親交も深く、共に演奏したCDも制作されました。
- 吉井瑞穂: マーラー室内管弦楽団首席。京都でのレッスンを機に、プロ奏者として活動しながらジュネーヴで学びました。
- アルブレヒト・マイヤー、ジョナサン・ケリー: ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団首席。
- セリーヌ・モワネ: ドレスデン国立歌劇場管弦楽団首席。
- アレクセイ・オグリンチュク、イヴァン・ポディヨモフ: ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団首席。
- アルメル・デスコッテ: ミラノ・スカラ座管弦楽団首席。
- ダイアナ・ドハティ: シドニー交響楽団首席。
- ドメニコ・オーランド: ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団首席。
- 高山郁子: 京都市交響楽団首席。
- フランソワ・ルルー: 元バイエルン放送交響楽団首席、レ・ヴァン・フランセメンバー。
- トーマス・インデアミューレ: カールスルーエ音楽大学教授。
- ヤン・トゥリ: プラハ音楽院教授。
- ジェローム・ギシャール: リヨン国立管弦楽団ソロ。
- ノラ・シスモンディ: スイス・ロマンド管弦楽団首席。

ブルグ自身も国際コンクールで輝かしい成績を収めています。ミュンヘン国際コンクール（1961年3位、1967年優勝）、ジュネーヴ国際音楽コンクール（1963年2位）、バーミンガム管楽コンクール（1966年優勝）、プラハの春国際音楽コンクール（1968年優勝）、ブダペスト国際音楽コンクール（1970年優勝）などです。また、日本の国際オーボエコンクールでは審査員を務めるなど、日本の音楽界とも縁が深かった人物です。

2023年10月6日、出身地であるアヴィニョンで83歳でその生涯を閉じましたが、彼の遺した音楽、教育の功績、そして多くの優れた弟子たちは、これからも世界の音楽シーンで輝き続けるでしょう。

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