ラワ族

ラワ族（ルワ族）

インドシナ半島北部の山岳地帯を主な居住域とする、オーストロアジア語族に属する少数民族です。彼らは、現在のタイ族が南下してくる以前から、この地域に暮らしていた先住民であると考えられています。一般的にはラワ、あるいはルワと呼ばれています。

多様な呼称

「ラワ」や「ルワ」が最も知られた名称ですが、実際には地域や時代によって様々な呼び方が存在しました。例えば、「ラー」、「ワー」、「ルワ」、「ルア」、「ラウー」、「ラワ」といったように、発音や表記に多くのバリエーションがあります。さらに、地方による名称の偏差も大きく、タイ東北部では「チャーウ・ボン」、タイ中部カーンチャナブリーでは「ウート」、タイ北部では「プライ」や「ルワ・プラーイ」と呼ばれていました。国境を越えて、ラオスでは「カールワ」や「カーム」、中国のシップソーンパンナー地域では「カーワ」という名称が使われていた記録があります。英語では、LawaやLuaといった表記が見られます。

歴史の足跡

ラワ族の歴史は古く、その起源については、紀元前後の頃、ミャンマーのマルタバン湾周辺からサルウィン川を遡上し、移動の過程でチベット系の民族と交流・混交を経て、紀元3世紀頃に現在のタイ北部、チエンマイ平野に到達したと伝えられています。彼らがタイ・ユワン族と出会ったのは、チエンセーン湖の近くであったと考えられており、その時代は「ヨーノック（ヨーナカナガラ）」として知られています。ラワ族は、古くからチエンマイ平野において独自の民族国家を築いた先住民族であり、特にランプーンの地にモン族がハリプンチャイ王国を建国する以前には、「マラッカ国」という国家を築いていたとされています。しかし、紀元8世紀半ば頃のモン族の進出によって、その勢力は衰退していきました。

ラーンナー（タイ北部地域の古称）の歴史書には、チエンマイを建設したとされるマンラーイ王の祖先がラワ族であったとする記述が見られます。『ジナカーラマーリー』によれば、マンラーイ王の祖であるラワチョンカラート（あるいはラーワチャンカラート）はラーワチャンカラート王家の始祖であり、彼がラワ族であったことから、マンラーイ王自身もラワ族であったとする説を唱える学者もいます。また、ラーワチャッカラート家の歴代王名にある「ラーオ」という称号は、伝承物語をパーリ語で記述する際に、「ラーワ」を誤って「ラーオ」と表記したものであるという解釈も存在します。一方で、歴史上の記録に登場する「ラワ族」を、現代における単一の民族集団として厳密に捉えるべきではないという視点もあります。チット・プーミサックやシーサック・ワンリポードムといった研究者は、当時のこの地域における先住民や山岳民といった混交した人々の総称として「ラワ」という言葉が用いられた可能性を指摘しています。

伝説と伝承

タイ北部地域に伝わる多くの伝説や儀礼の中にも、ラワ族は重要な存在として登場します。伝説上で特に有名なラワ族の王としては、ウィランカ王が挙げられます。彼は、ハリプンチャイ王国のチャマデヴィ女王に求婚しますが、女王の策略によって敗れ去ったと語られています。また、チェンマイのドーイカム山で信仰されている人食い鬼（ヤック）の夫婦、プーセ・ヤーセもラワ族であるという伝承があります。儀礼においては、かつてのチェンマイ王の戴冠式の際に、チェンマイ城市北にある白象門（プラトゥー・チャーン・プアック）から、ラワ族の人々が犬を伴って戴冠する王を先導するというしきたりがありました。これは、ラワ族がこの地の古くからの居住者であり、その権威が認められていたことを示すものと考えられます。

社会と文化

ラワ族が話す言語は、オーストロアジア語族の中のモン・クメール語派に属しています。古くから製鉄技術に非常に優れていたことが知られており、チエンマイ平野には現在でもその製鉄の跡が残されています。農耕においては、古くから陸稲のジャポニカ種（通称、赤米）を栽培していましたが、後には水田での稲作も行うようになりました。彼ら独自の武器としては、「サナオ」と呼ばれる変形槍があります。これは、投擲用としても使用できたとされています。

村落には「ナーム」（タイ語でサオ・バーンやラック・ムアンと呼ばれる）と呼ばれる基柱が立てられており、これはラワ族版のトーテムポールとも言えるもので、彼らの土俗信仰における重要なシンボルとなっています。伝統的な統治機構としては、首長を「スマング」、長老を「ラーム」と呼びました。この「ラーム」という名称は、現在でもチエンマイの農村部で村長を補佐する人々を指すのに使われています。また、慣習や掟の監督役は「リート」と呼ばれ、これは現在でも村のスポークスマンのような立場で存在しています。一般の村民は「ラワ」と呼ばれました。歴史的な記述に見られる統治者の称号としては、最高位の大王をダンマラージャ、王をマハラージャ、皇太后をマハー・ティーヴィー、王子をマン・ダンナラージャ、領主をスックタン、その夫人はスッカマラーなどと記されていますが、これらは後世に付け加えられた称号であると考えられています。その他にも貴族階級が存在しました。

ラワ族は、タイ北部地域の歴史、文化、社会構造を理解する上で、欠かすことのできない先住民族です。その多様な名称、古代からの移動の歴史、ラーンナー史との深い関わり、そして独自の社会文化は、この地域の豊かな民族多様性を象徴しています。

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