リバティ (行政区画)

リバティ：中世イギリスの特異な行政区画

中世イギリスには、王権の及ばない、独自の自治権を持つ地域が存在しました。それが「リバティ (Liberty)」です。一般的に、国王が持つ権利が私有地所有者に移譲された地域と定義され、その起源は中世に遡ります。歴史を通じて地方行政の一部を担う一方、その制度は複雑で、その範囲も非常に多様でした。

リバティの特異性

リバティは、通常の行政区画であるハンドレッドやバラとは異なり、土地所有権の特殊性によって独立性を保っていました。その地理的範囲は、広大なカウンティ全体に及ぶ場合もあれば、小さな教区の一部に限定される場合もありました。ドーセット州のフォーディントン・リバティとウェイベイウス・リバティは、それぞれその好例と言えるでしょう。前者は広大な地域に、後者は狭い範囲に及んでいました。

イングランド北部のボウランド・リバティは、特筆すべき規模を誇っていました。ボウランド卿（フェルズ卿とも呼ばれる）の支配下にあったこの地域は、数十の荘園、8つの町、そして4つの教区を包含する広大な土地でした。1660年までは、このような封建領主はロード・パラマウントと呼ばれていました。

リバティの変遷と消滅

1836年の法律により、ヨーク大司教とイーリー司教の一部のリバティにおける一時的な管轄権は停止されました。さらに、1850年のリバティ法は、カウンティ内でのリバティの合併を認めるものでした。これにより、リバティの数は減少の一途を辿り、1867年には、イーリー、ヘイヴァーリング＝アット＝バウワー、セント・オールバンズ、ピーターバラ、リポン、ハーヴァーフォードウェストのわずか6つしか残っていませんでした。その後も合併が進み、セント・オールバンズは1875年にハートフォードシャーに合併されました。

1888年の地方自治体法によって、リバティの特別管轄権は最終的に終焉を迎えました。イーリー島とソーク・オブ・ピーターバラはカウンティとなり、残りのリバティは周囲のカウンティに統合されました。これにより、長きにわたって続いたリバティ制度は歴史の幕を閉じました。

例外：インナー・テンプルとミドル・テンプル

しかし、リバティの全てが消滅したわけではありません。ロンドンにあるインナー・テンプルとミドル・テンプルは、例外的な存在です。テンプル地区を構成するこれら2つの地域は、1608年以来、特許状に基づくリバティとして、高い独立性を維持してきました。歴史的にシティ・オブ・ロンドンの管轄外にあった特別区であり、現在でも地方自治体として機能しています。さらに、ロンドン司教の教会管轄権からも独立しています。地理的にはシティ・オブ・ロンドンの区域内にありますが、行政区画としては飛地と言えるでしょう。

インナー・テンプルとミドル・テンプルの地方自治体としての機能は、1971年テンプルズ令によって保証されています。1963年ロンドン自治法に基づき、インナー・テンプルの副収入役とミドル・テンプルの下級収入役は、インナー・ロンドン自治区における一定の機能を行使することができます。ただし、住宅、計画、公共福祉、健康に関する事項などは例外であり、シティ・オブ・ロンドン議会がこれらの権限を直接有しています。また、ロンドン市警察は、1857年以来、テンプル地区を合意に基づき管轄しています。

アイルランドのリバティ

アイルランドにおいても、「リバティ」という用語はノルマン・コンクエスト以降使用されました。レンスター・リバティは後にウェックスフォード、キルケニー、カーロウ、キルデアの4つのリバティに分割され、ミーズ王国はミーズ・リバティとトリム・リバティに分割されました。アルスター・リバティも存在していました。

まとめ

リバティは、中世イギリスにおける独特の行政区画でした。その歴史、多様な地理的範囲、そして最終的な消滅過程は、イギリスの歴史を理解する上で重要な要素です。特に、インナー・テンプルとミドル・テンプルは、その例外的な存続によって、リバティの歴史を現代に繋ぐ貴重な存在となっています。

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