リパブリック・ピクチャーズ

リパブリック・ピクチャーズとは

リパブリック・ピクチャーズは、かつてアメリカ合衆国に存在した主要な映画製作・配給会社です。特に低予算ながらも質の高いB級映画、西部劇、連続活劇といったジャンルで名を馳せ、一時期はハリウッドのメジャー級スタジオにも匹敵する影響力を持っていました。代表的な作品には、オーソン・ウェルズが監督・主演を務めたシェイクスピア映画『マクベス』などがあります。

黎明期の設立と発展

リパブリック・ピクチャーズの歴史は、1935年に始まりました。映画や音楽への投資家であったハーバート・J・イエーツが、自身の会社であるコンソリデイテッド・フィルム・インダストリーズの代表として、経営難に陥っていた6つの小規模な映画スタジオを統合する形で設立したものです。当時、大恐慌の最中にあったイエーツの会社は、多くの低予算映画スタジオと取引があり、その中の6社（モノグラム・ピクチャーズ、マスコット・ピクチャーズ、リバティ・フィルムズ、マジェスティック・フィルムズ、チェスターフィールド・モーション・ピクチャーズ、インヴィンシブル・ピクチャーズ）がイエーツの会社に債務を抱えていました。イエーツはこれらのスタジオに対し、映画事業を統合するという提案を受け入れなければ、債権を行使すると迫り、その結果、6社は統合に同意しました。こうして、低予算映画に特化した合弁企業、リパブリック・ピクチャーズが誕生したのです。

設立当初のリパブリックは、参加した各スタジオの強みを受け継ぎました。最大規模だったモノグラム・ピクチャーズはB級映画制作と全米配給システムに長け、マスコット・ピクチャーズは連続活劇制作の経験と優れた技術力、そしてスタジオ施設を持っていました。マスコットはまた、将来のカウボーイ・スター、ジーン・オートリーを見出し契約を結んでいました。リバティ・フィルムズからは、後に会社の象徴となる「リバティ・ベル」のロゴが生まれました。マジェスティック・フィルムズはスターを起用した作品、チェスターフィールドとインヴィンシブルは低予算のドラマやミステリーを得意としていました。これらの統合により、リパブリックは設立当初から経験豊富なスタッフ、実力のある脇役俳優、将来性のあるスター、強固な配給網、そして本格的なスタジオ施設を持つ恵まれた環境を得ました。当初は独立した活動を継続しつつ、予算を増やして作品の質を向上させることが許されていました。

しかし、イエーツが映画製作と配給のノウハウを吸収するにつれて、パートナー企業への統制を強め始め、不満が生じました。結果として、モノグラムの幹部らはリパブリックを去ってモノグラムを再建し、マジェスティックの幹部もコロンビア ピクチャーズへ移籍しました。マスコットの代表も去りましたが、スタッフや施設はリパブリックに残りました。こうして、イエーツの手元には、彼に従う旧来の制作・配給スタッフと自身のスタジオだけが残ることになりました。

また、リパブリックはカウボーイ歌手であるジーン・オートリーやロイ・ロジャースのレコード販売のために、レコードレーベルのブランズウィック・レコードを買収し、独自の音楽部門を設立しました。

映画ジャンルの変遷と拡大

初期のリパブリックは、B級映画や連続活劇に特化していたことから、低予算スタジオの一つと見なされることもありましたが、その分野への投資や情熱は、他の独立系スタジオはもちろん、大手映画会社にも劣るものではありませんでした。特に西部劇はリパブリックの主要な製作ジャンルであり、ジョン・ウェイン、ジーン・オートリー、ロイ・ロジャースといった俳優がスターダムを駆け上がったのはリパブリックにおいてでした。しかし、1940年代に入ると、イエーツはより高品質で予算のかかった作品を手掛けるようになり、『静かなる男』、『大砂塵』、『硫黄島の砂』といった作品を生み出しました。

1947年にはアニメーションを導入したジーン・オートリー主演作『スー・シティ・スー』を制作し、アニメ分野への関心を示しました。この成功を受けて、ワーナー・ブラザースとの間で問題を抱えていたアニメーター、ボブ・クランペットを迎え入れ、『It's a Grand Old Nag』という短編アニメを制作しましたが、経営悪化からこの試みは長続きしませんでした。

1940年代半ばからは、チェコスロバキア出身の元フィギュアスケート選手ヴェラ・ラルストンを頻繁に主演に起用しました。彼女はイエーツのハートを射止め、1949年には彼の2番目の妻となりました。当初はミュージカルに出演させていましたが、イエーツは彼女を男性スターの相手役としてドラマ映画へ主演させることを推し進めました。しかし、映画ファンからの人気は得られず、多くの映画館からラルストン主演作が多すぎるという苦情が寄せられました。彼女との共演を嫌がったジョン・ウェインは、3本目の出演依頼を断り、1952年にリパブリックを去りました。それでもイエーツはラルストンを支援し続け、彼女が出演する作品を作り続けました。

リパブリックはまた、田舎を舞台にしたミュージカルやコメディ映画も多数制作し、ボブ・バーンズ、ウィーバー・ブラザーズ、ジュディ・カノーヴァといった全米で人気の俳優を起用しました。

製作費の増加に伴い、イエーツは作品を予算別に4つのランクに分類しました。「Jubilee」は5万ドル程度、1週間で制作される西部劇。「Anniversary」は17万5千ドルから20万ドル、2週間程度。「Deluxe」は50万ドル程度で、社内スタッフによる大型映画。「Premiere」は百万ドル以上の予算で、外部の有名監督を起用した大作でした。これらの最高ランクの作品には、リパブリックが配給のみを担当したものもありました。

多くの作品はモノクロでしたが、『赤い子馬』（1949）や『静かなる男』（1952）といった高予算作品にはテクニカラーが使用されました。1940年代後半から1950年代にかけては、『大砂塵』（1954）や『アラモの砦』（1955）などで低予算のカラー映画制作のため、トゥルーカラーというシネカラー技術を試みました。1956年には自社開発のワイドスクリーンシステム、ナチュラマを『烙印なき男』で初採用しました。

テレビ事業への進出と映画部門の終焉

リパブリックは、自社のフィルムライブラリをテレビ局に積極的に貸し出したハリウッド最初のスタジオの一つとして知られています。1951年、テレビ部門「ハリウッド・テレビジョン・サービス」を設立し、西部劇やアクション作品の放映権を販売しました。これらの作品は、テレビの1時間枠に合わせて編集されました。また、かつての連続活劇のようなスタイルのテレビドラマ制作も行い、『フー・マンチューの冒険』（1956）などが制作されました。1952年には、リパブリックのスタジオが、タレントエージェンシーであるMCAのテレビ制作部門、レビュー・プロダクションズの本拠地となりました。これによりリパブリックはテレビ制作のノウハウを得ましたが、本格的な予算投下には至りませんでした。1950年代半ばまで、旧作のテレビ放映とMCAへのスタジオ貸し出しが、リパブリックのテレビ業界での活動を支えました。連続映画として失敗した『宇宙戦士コディ』は、編集されてテレビドラマとしてNBCに売却されました。MCAはスタジオ内での影響力を増し、ルイス・B・メイヤーがリパブリックのスタジオを完全買収するという噂も流れました。1953年から54年にかけてABCのドラマ『The Pride of the Family』、1955年には『Stories of the Century』を制作し、『Stories of the Century』はシンジゲート放送され、エミー賞を受賞した西部劇となりました。

しかし、B級映画の人気の低迷と市場の縮小が進み、リパブリックは予算削減を余儀なくされました。1950年代前半には年間40本ほど制作されていた長編映画は、1957年には18本にまで減少しました。1958年の年次総会で、イエーツは長編映画制作の中止を発表しました。翌年には配給部門が閉鎖され、映画ライブラリはナショナル・テレフィルム・アソシエーツ（NTA）に売却されました。スタジオ施設はCBSが買収し、後にCBSスタジオセンターとして知られるようになりました。このスタジオは現在、CBSネットワークのロサンゼルスの放送局の拠点となっています。スタジオの親会社であるリパブリック・コーポレーションは、他の事業と共に存続しました。1966年には、過去の連続活劇を再編集したテレビ映画パッケージ「Century 66」を制作した以外、スタジオ売却以降、ハリウッドでの直接的な役割はほぼ終えました。

その後と現在の所有権

1980年代半ばまで、NTAはケーブルテレビ局向けにリパブリックのライブラリの放映権販売で成功を収めました。この事業の好調を受け、NTAは1986年に「リパブリック・ピクチャーズ」の社名とロゴを買収し、ブランドを復活させました。新リパブリックはテレビ制作部門を設立し、『美女と野獣』などのテレビドラマや、映画『連鎖犯罪 逃げられない女』、『バウンド』などを制作しました。ライブラリ作品のビデオ化も開始し、1993年にはRKO制作のフランク・キャプラ監督作『素晴らしき哉、人生!』の著作権を取得しました。

1994年、アーロン・スペリング率いるスペリング・エンタテインメントがリパブリックを買収し、ブランド名のみが残されました。1995年にはビデオ部門が閉鎖され、ビデオ化権はArtisan Entertainment（後にライオンズゲートに買収）に貸し出されましたが、ライブラリはリパブリック名義で残されました。1990年代末にはバイアコムがスペリングを買収し、リパブリックは実質的にパラマウント・ピクチャーズの子会社となりました。

この時点でのリパブリックが所有する3000作品以上のライブラリは多岐にわたりました。オリジナルのリパブリック作品に加え、NTAから引き継いだ作品、『素晴らしき哉、人生!』、独立系制作・他社配給だったケーリー・グラント主演作、フライシャー・スタジオ制作のアニメ長編『ガリヴァー旅行記』、『バッタ君町に行く』、1950年以前のパラマウントの短編アニメ（ポパイとスーパーマンは除く）、1973年以前のNBCテレビ番組（『ボナンザ』など）、ユナイテッド・アーティスツの一部の長編作品（『真昼の決闘』など）、レオ・マッケリー作品、エンタープライズ・スタジオ作品、Budd Rogers Releasing Corporationから再取得した作品、United States Pictures作品、一部のエリー・ランドー出資作品、Commonwealth United Entertainment作品の大部分、そしてアーロン・スペリングが所有していたスペリング・テレビジョン、ローレル・エンタテインメント、ワールドビジョン・エンタープライズのライブラリ（『大草原の小さな家』、『逃亡者』など）などが含まれていました。

2006年にバイアコムとCBSが分離した結果、リパブリックのライブラリは分割されました。テレビ番組の副次的な権利の大部分はCBSテレビジョンが所有し、映画作品はバイアコム傘下のパラマウント・ピクチャーズが所有することになりました。現在、リパブリックはパラマウント・グローバルの子会社であるパラマウント・ピクチャーズ傘下のブランド名として存続しており、そのライブラリ作品はパラマウントを通じて管理・配信されています。

主な製作・配給映画（一部）

1930年代 - 1940年代

『西部の星空の下で』（Under Western Stars, 1938）
『暗黒の命令』（Dark Command, 1940）
『硫黄島の砂』（Sands of Iwo Jima, 1949）
『マクベス』（Macbeth, 1948）
『怒涛の果て』（Wake of the Red Witch, 1948）

1950年代

『リオ・グランデの砦』（Rio Grande, 1950）
『静かなる男』（The Quiet Man, 1952）
『大砂塵』（Johnny Guitar, 1954）
『アラモの砦』（The Last Command, 1955）
『烙印なき男』（The Maverick Queen, 1956）

1990年代（ブランド復活後）

『ハイランダー2 甦る戦士』（Highlander II: The Quickening, 1991）※配給
『ディープ・ジョパディー』（Ruby in Paradise, 1993）
『バウンド』（Bound, 1996）
『連鎖犯罪/逃げられない女』（Freeway, 1996）


リパブリック・ピクチャーズは、ハリウッドの歴史において、特に低予算ながらも職人的な技術とスターを生み出し、多様なジャンルを開拓した重要な存在であり、その作品群は現在も多くのライブラリを経て継承されています。

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