リャザン包囲戦

1237年、リャザン包囲戦：モンゴルのルーシ侵攻と都市の悲劇

本稿では、1237年12月16日から21日にかけて発生した、リャザン公国とモンゴル帝国軍によるリャザン（現在のスタラヤ・リャザン）をめぐる激戦を詳述します。この戦闘は、バトゥ率いるモンゴル軍によるルーシ侵攻における重要な一戦闘であり、都市の破壊と住民の虐殺という悲劇的な結末を迎えることになります。

戦力の比較：圧倒的なモンゴル軍と奮戦するリャザン公国軍

モンゴル帝国軍の兵力は正確には不明です。当時のルーシの年代記には具体的な数値が記されておらず、「膨大な軍勢」と表現されているのみです。ソ連時代の歴史家は30万人という説を唱えていましたが、近年では、モンゴルの軍事単位であるトゥメン（1万人）を基にした推計から、12～14万人という説が有力視されています。ただし、このすべてがリャザン侵攻に参加したわけではなく、一部は他の地域での戦闘に従事していた可能性も考慮する必要があります。また、チンギス・ハン家直系の血縁者以外にも、スブタイやブルンダイといった有力な軍事司令官が率いる兵士も存在したと考えられています。

一方、リャザン公国軍の兵力も不明瞭です。リャザン公国は、プロンスク、コロムナ、ペレヤスラヴリ・リャザンスキーの三つの分領公国から構成されていました。各公国は独自の軍隊を有し、さらに各都市では民兵が組織されていました。しかし、これらの軍隊は重装備の精鋭部隊であるドルジーナ隊を基幹としつつも、その規模は数百人を超える程度で、統一的な指揮系統は確立されていませんでした。1223年のカルカ河畔の戦いでは、リャザン公国はモンゴル軍との戦闘に参加していませんでした。そのため、モンゴル軍の戦術や装備に関する知識は乏しかったと考えられます。

リャザンを含むルーシ諸都市は、キエフ・ルーシ期からの強固な防衛設備を有していました。リャザンは高さ10mの土塁の上に築かれ、約3.5kmに及ぶ城壁と65ヘクタールの土地を擁していました。13世紀末のリャザンの人口は8000人に達していたという推計もあります。

戦争への道：使者と交渉決裂、そしてヴォロネジ川の戦い

1237年の晩秋、バトゥ率いるモンゴル軍はリャザン公国の国境を越えました。そして、リャザン公ユーリーに対し、十分の一税を課すという、事実上の服属を要求する使者を送り込みました。ユーリーはウラジーミル大公からの援軍を要請しましたが拒否され、親族であるムーロム公、コロムナ公、プロンスク公らを招集しました。さらに、息子フョードルをバトゥのもとへ和平交渉に向かわせましたが、バトゥがフョードルの妻までも要求したため交渉は決裂し、フョードルは殺害されました。

この出来事をきっかけに、ユーリーはモンゴル軍を迎撃すべく出撃しました。ただし、寡兵を理由にリャザンでの籠城作戦を選択したという説もあります。ユーリーの決断が独断であったかどうかについては、歴史家の間で議論が続いています。

1237年の冬、ユーリー率いるリャザン公国軍はヴォロネジ川付近でモンゴル軍と開戦しました（ヴォロネジ川の戦い）。リャザン軍は奮戦しましたが、敗北を喫し、ユーリーや他の諸公は戦死または処刑されました。

6日間の死闘と都市の陥落

ヴォロネジ川の戦いに勝利したバトゥは、12月16日にリャザンに到着し、都市を包囲しました。すでにヴォロネジ川の戦いで多くの兵を失っていたリャザンは、わずかな兵力で抵抗せざるを得ませんでした。バトゥは、逐次兵力を投入し、リャザン守備兵を消耗させました。5日間にわたる激しい攻防の後、12月21日早朝、モンゴル軍は城壁を突破しました。市街に侵入したモンゴル軍は、住民を虐殺し、街に火を放ちました。リャザン大公ユーリーの母や妻らは教会に立て籠もりましたが、殺害され、教会も焼かれました。

その後と歴史的意義

リャザンを陥落させたモンゴル軍は、スーズダリ、ウラジーミルへと進軍しました。生き残ったリャザン兵は、エフパーチー・コロブラート率いる追撃部隊を組織し、モンゴル軍を襲撃しましたが敗れました。エフパーチー・コロブラートは、民話「ブィリーナ」の英雄として後世に語り継がれています。

破壊されたリャザンは復興することなく、公国の首都はペレヤスラヴリ・リャザンスキーに移されました。現在のリャザン市は、18世紀に改称されたものです。考古学的調査により、『バトゥのリャザン襲撃の物語』に記されたリャザンの壊滅の様子が実証されています。リャザン包囲戦は、モンゴル帝国の東ヨーロッパ侵攻における重要な出来事であり、その悲劇的な歴史は、後世にわたって記憶されています。

関連作品

* 映画『フューリアス 双剣の戦士』(2017年、ロシア)

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