ルッツァスコ・ルッツァスキ

ルッツァスコ・ルッツァスキ（Luzzasco Luzzaschi, 1545年頃？ - 1607年 9月10日）は、16世紀末のイタリアで活動した作曲家、オルガン奏者、そして音楽教育者です。ルネサンス音楽の時代から初期バロック音楽への転換期において、重要な役割を果たしました。特に、北イタリアの文化の中心地の一つであったフェラーラ公国の宮廷において、主要な音楽家として活動しました。

生涯

ルッツァスキの正確な生年は不明ですが、おそらくフェラーラで生まれ、その地で生涯を終えたと考えられています。若い頃には、当時著名な作曲家であったチプリアーノ・デ・ローレに師事したと本人が証言しています。1561年にはフェラーラ宮廷のオルガニストに就任し、1564年に先任者が死去すると、首席オルガニストとして宮廷音楽の指導的な地位に昇進しました。時の君主アルフォンソ2世のもと、彼は1597年に公爵が亡くなるまでこの職に留まり、宮廷の華やかな音楽活動を支えました。アルフォンソ2世の死後もフェラーラに留まり活動を続けたようです。彼の死に際しては、80人もの音楽家が集まり、棺には金色の月桂樹のリースが捧げられたと伝えられており、彼がいかに敬愛されていたかがうかがえます。

作品

ルッツァスキは、同時代の音楽家や批評家から、作曲家としても優れた鍵盤楽器奏者としても高い評価を得ていました。作曲家としては、特にマドリガーレの分野で名声を確立しました。5声のマドリガーレをまとめた7巻の曲集が出版されたほか、特筆すべきは、フェラーラ宮廷が擁した特別な女性歌手集団「コンチェルト・デッレ・ドンネ」のために書かれた作品を含む「1声、2声または3声のソプラノのためのマドリガーレ集」（1601年出版）です。

アルフォンソ2世の宮廷は、当時のヨーロッパでも類を見ないほど多くの音楽家を抱えていましたが、中でも「コンチェルト・デッレ・ドンネ」は3人の卓越したソプラノ歌手からなる、公爵の非常に個人的な音楽組織でした。彼女たちの演奏やレパートリーは厳重に秘匿され、ごく限られた来賓の前で披露されるのみで、門外不出とされていました。しかし、その比類なき技量は評判となり、イタリア全土の宮廷の羨望を集めました。ルッツァスキは、この秘められたアンサンブルのために数多くの楽曲を提供しました。アルフォンソ2世の死後、フェラーラが教皇領となり宮廷が解体されたことで、これらの作品を秘密にする必要がなくなり、その一部が前述の1601年の曲集として出版されたと考えられています。

鍵盤楽器奏者としても絶賛されていたため、多くのオルガンやチェンバロのための作品を作曲したと推測されますが、残念ながら現在まで残されているものはごく少数です。少なくとも3巻の4声のリチェルカーレ集が出版された記録がありますが、今日では全て失われ、写譜によって第2巻の12曲のリチェルカーレが伝わるのみです。また、ジローラモ・ディルータの鍵盤楽器教本『トランシルヴァニア人』には、ルッツァスキ作とされるトッカータ1曲とリチェルカーレ2曲が掲載されています。

評価と影響

同時代の文献にルッツァスキの5声マドリガーレ集への言及が頻繁に見られることから、彼のマドリガーレが広く認められていたことがわかります。特に興味深いのは、5声マドリガーレ集第6巻の序文で、詩と音楽の関係を「双子」に例え、「常に詩が先に生まれ、それに従って音楽が生まれる」と述べている点です。これは、歌詞の意味を音楽で深く表現しようとする「マドリガリズム」の思想を明確に示しており、後のモンテヴェルディが提唱した「第二作法」と呼ばれる新しい音楽様式を先駆けるものと見なされています。実際、モンテヴェルディの弟ジュリオ・チェザーレは、1607年の兄の作品集『音楽の諧謔』の解説において、ルッツァスキを第二作法を実践した作曲家の一人として挙げています。

「コンチェルト・デッレ・ドンネ」とそのレパートリーがもたらした影響も計り知れません。例えば、モンテヴェルディの『音楽の諧謔』はルッツァスキの「1声、2声または3声の…」から影響を受けたと言われており、ソプラノ複数のための作品が当時の音楽家たちの間で流行しました。これらのルッツァスキの作品は、フィレンツェのカメラータによるモノディー様式とは異なりますが、来るべきモノディー様式やコンチェルタート様式の先駆けとして評価されています。

鍵盤奏者としての彼の名声も絶大でした。音楽理論家ヴィンチェンツォ・ガリレイは彼の鍵盤演奏の巧みさを称賛し、アドリアーノ・バンキエリはルッツァスキとクラウディオ・メールロを「全イタリアで最も巧みなオルガニスト」と評しました。ディルータの『トランシルヴァニア人』でも、ルッツァスキの作品は鍵盤音楽の模範として紹介されています。

ルッツァスキは優れた音楽教師としても知られ、多くの弟子を育成しました。中でも、バロック期の鍵盤音楽の巨匠ジローラモ・フレスコバルディが彼の弟子であったことは非常に有名です。ルッツァスキが作品や教育を通して同時代人や後世に与えた影響は大きく、特に器楽における対位法の扱いや、新しい表現への探求心は、ローマやナポリなど他の地域の音楽家たちにも引き継がれました。

ルッツァスキは、音楽史において革命家として位置づけられることは少ないかもしれませんが、数々の進歩的な作品の創作、そして後進への指導を通じて、ルネサンス音楽からバロック音楽への橋渡しを円滑に進めた、極めて重要な音楽家の一人であったと言えます。

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