ワイニョ

ワイニョ：アンデスの魂を奏でる音楽

ワイニョは、ペルーとボリビアを中心にアンデス地域で広く親しまれている音楽形式です。ボリビアでは「ワイニョ」、ペルーでは「ワイノ」と呼ばれることが一般的で、その語源はケチュア語に由来します。1608年には既に記録が残っており、アンデス地域の大衆音楽として重要な位置を占めてきました。

アンデスの伝統と多様性

ワイニョは、スペイン到来以前からアンデス地方に存在する「ムシカ・アウトクトナ」（農村の音楽）という形式を受け継いでいます。先住民の伝統的な音階である五音音階（ペンタトニック）を基調とする楽曲が多く、独特の旋律を奏でます。また、拍子の概念が曖昧で、自由な長さのメロディが特徴です。元々は舞曲として親しまれていましたが、近年では踊りを前提としない楽曲も制作されています。

ワイニョの魅力は、その多様性にあります。先住民の土着的な音楽から、都会的で洗練された音楽まで、幅広い表現を内包しています。使用される楽器も、ケーナ、サンポーニャ、チャランゴといった伝統的なフォルクローレ楽器に加え、ブラスバンド、ヴァイオリン、ハープなど多岐にわたります。また、音楽自体はワイニョ/ワイノと同じでも、踊りの形式によって異なる名称が与えられている楽曲も多く存在します。

ボリビアとペルー、それぞれのワイニョ

20世紀前半、ボリビアではヨーロッパ音楽の影響を受けた「ムシカ・クリオージャ」（町の音楽）の作曲家たちが、ムシカ・アウトクトナの要素を取り入れたワイニョを制作しました。この新しいワイニョは、ボリビアでクエカと並んで踊られる形式として確立されました。

一方、ペルーのワイノは地方色が強く、地域ごとにメロディラインや踊り方が異なる独自のスタイルを持っています。ペルーのワイノは、哀愁を帯びたフォルクローレとは異なり、甲高い声で歌われる2拍子のダンス音楽が特徴です。

ワイノの歌詞は、恋愛、ユーモラスな内容、孤児の悲しみ、社会批判など、多岐にわたります。20世紀後半の政治的混乱期には、社会を告発する手段としても用いられました。1980年代には、コロンビアのクンビアと融合し、「チチャ」という新たな音楽ジャンルが誕生し、山岳部からリマに移住した人々の間で流行しました。その後もワイノは、ボリビアのネオ・フォルクローレ、チリのヌエバ・カンシオン、ロックなど、他のジャンルの影響を受けながら発展を続けています。

代表的な楽曲

Valicha (バリーチャ) - ペルー
Wa Ya Yay (ワヤヤイ) - ボリビア

参考文献

石橋純 編『中南米の音楽：歌・踊り・祝宴を生きる人々』東京堂出版、2010年。ISBN 978-4-490-20667-8。
東琢磨 編『カリブ・ラテンアメリカ 音の地図』音楽之友社、2002年。ISBN 4-276-23824-2。
北中正和 監修『世界は音楽でできている：中南米・北米・アフリカ編』音楽出版社、2007年。ISBN 978-4-86171-026-1。

関連項目

フォルクローレ
カルナバリート - アルゼンチンのワイニョ。「花祭り(El humahuaqueño)」が有名
ラウル・ガルシア・サラテ

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