一宮市歌

一宮市歌

一宮市歌（いちのみやしか）は、愛知県一宮市によって1936年（昭和11年）に制定された、同市の公式な歌です。市制15周年を記念する事業の一環として企画され、詩人で国文学者の尾上柴舟氏が作詞を、作曲家である信時潔氏が作曲を手がけました。

制定の背景と過程

この市歌の制定は、1936年の市制施行15周年という節目を記念するために計画されました。当時の市役所内には制定委員会が設置され、市歌と新民謡の二つの歌の制作が進められました。歌詞については、市歌は文学博士でもあった尾上八郎（柴舟）に、新民謡は詩人の北原白秋にそれぞれ委嘱されると同時に、一般からの懸賞募集も実施されました。

懸賞募集の結果、市歌部門では東京市からの応募者である白井彪氏（時代小説家の渋田黎明花の別名義）の作品が二等に入選しましたが、両部門とも一等入選作は残念ながら選ばれませんでした。そのため、「該当なし」という結論に至り、最終的には審査委員自身が歌詞を制作することとなりました。

楽曲の制作に関しては、東京音楽学校を通じて市歌の作曲が信時潔氏に委嘱され、新民謡「一宮ハッチャエ節」の作曲は大村能章氏に依頼されました。これらの楽曲が完成した後、1936年8月28日に制定委員会と市議会との合同協議会で承認を得て、同年9月1日をもって市歌の制定告示が行われました。

発表と普及

市歌の発表演奏会は、制定告示と同日に真清田神社で開催された市制15周年記念式典において執り行われました。この時、今後市の主催する公式な行事においては、この市歌が斉唱されることが定められました。

制定後、市歌はコロナレコード（販売元はポリドール）によってSP盤（規格品番：CA-7-A/B）としても製造されました。このSP盤の盤面には、作曲者として信時潔氏の個人名がクレジットされています。しかしながら、一宮市が公式に定めている例規集においては、作曲者の名義が信時潔個人ではなく「東京音楽学校」と記されており、両者間で表記に相違が見られます。

関連する楽曲

「一宮市歌」の制定と同時期には、前述の新民謡「一宮ハッチャエ節」も制作されました。この新民謡は、戦後には島倉千代子氏と中島孝氏の歌唱によるカバー盤が日本コロムビアから発売されています（規格品番：SPR-1692）。

また、1960年代には、名古屋放送管弦楽団の団員であった岩田益蔵氏が、「一宮市歌」を行進曲風にアレンジした「一宮行進曲」を制作しました。この「一宮行進曲」の楽譜は、後の2014年（平成26年）になって発見されています。

現在における位置づけ

一宮市の公式サイトでは、例規集において市歌の歌詞と楽譜が掲載されています。しかしながら、市が主催する行事などで主に演奏・使用されているのは、2001年（平成13年）に市制施行80周年を記念して選定されたシンボルソング「人・街・未来へ」（作詞：松島賢一、補作・作曲：新実徳英）です。従来の「一宮市歌」については、公式サイト上でも「「市民の歌」（シンボルソング）とは別に、「一宮市歌」もあります」といった簡潔な言及にとどまっており、市のPR活動における前面には出てこない状況です。

平成の大合併における扱い

平成の市町村合併において、一宮市は尾西市および葉栗郡木曽川町を編入合併しました。この合併に際して設置された合併協議会では、「新市発足後、新しい市歌の制定も含めて検討を行う」という申し合わせがなされました。しかし、合併後も新市歌の制定は行われず、結果として制定済みの「一宮市歌」が引き続き市の歌として存続する形となりました。一方、合併前の尾西市が1958年（昭和33年）に制定していた市歌「とよはたぐもの歌」は合併により廃止されています。なお、木曽川町においては町民音頭のみが制定されており、合併時点で公式な町歌は存在しませんでした。

参考文献

上園政雄 編『当選歌全集』（桜華社、1937年）
一宮市 編『一宮市史』下巻（一宮市役所、1939年）
* 一宮市 編『新編 一宮市史』年表（一宮市役所、1988年）

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