七尾城の戦い

七尾城の戦い：能登を舞台にした上杉謙信と畠山家の激戦

七尾城の戦いは、天正4年（1576年）11月から天正5年（1577年）9月にかけて、越後の上杉謙信軍と能登畠山家の重臣・長続連が率いる畠山軍が、能登の七尾城で繰り広げた戦いです。この戦いの結果、能登は上杉家の支配下に入りました。

戦いの発端：織田家と上杉家の関係

戦いの背景には、織田信長と上杉謙信の間の複雑な関係がありました。元亀3年（1572年）、信長は武田信玄に対抗するため謙信と同盟を結びました。しかし、信玄の死後、信長は北陸方面への勢力拡大を図り、これが謙信との対立を招きます。天正4年（1576年）2月、謙信は信長との同盟を破棄し、反織田勢力の一員として行動を開始しました。

戦いの状況

能登畠山家の内紛

能登はもともと畠山氏が守護でしたが、戦国時代に入ると守護代が台頭し、内紛が頻発していました。畠山義綱が追放された後、畠山義慶、畠山義隆が相次いで死去し、幼い畠山春王丸が擁立されるなど、政情は不安定でした。謙信は、畠山氏から人質として差し出されていた上条政繁を新たな当主として擁立し、能登の治安回復を名目に、能登への侵攻を開始しました。

第1次七尾城の戦い

能登畠山家は謙信の介入を拒否し、長続連を中心に対抗しました。七尾城は難攻不落の堅城であり、謙信も攻めあぐねていました。そこで、謙信は七尾城を孤立させるために、周辺の支城を次々と攻略しました。熊木城、黒滝城、富来城などが落城し、七尾城は孤立しましたが、長続連らは降伏を拒否しました。謙信は、一旦越後に帰国し、仕切り直しを図りました。

畠山軍の反撃

謙信が越後に帰国すると、畠山軍はただちに反撃を開始しました。熊木城では、畠山家臣の裏切りにより、上杉軍の守備隊が壊滅しました。富来城も畠山軍に奪還され、上杉軍の武将が処刑されました。長続連自身も、自身の居城であった穴水城を奪還すべく出陣するなど、畠山軍は上杉の留守部隊に攻勢をかけました。

第2次七尾城の戦い

天正5年閏7月、謙信は再び能登に出陣しました。驚いた続連は、奪還した城を放棄し、全兵力を七尾城に集結させました。城内には、兵士と領民合わせて1万5千人近くが籠城しました。続連は織田信長に援軍を要請し、信長は柴田勝家を総大将とする織田軍を派遣しました。謙信は、織田軍の進軍を妨害するため、加賀の一向宗に協力を求め、七尾城の攻略を急ぎました。

七尾城は堅城でしたが、籠城戦が長引くにつれて城内で疫病が発生し、多くの兵士が命を落としました。幼君の畠山春王丸も疫病で亡くなりました。そのような状況の中、親謙信派の遊佐続光らが、謙信に内応し、城門を開けて上杉軍を招き入れました。

七尾城の落城

遊佐・温井らの裏切りにより、長続連一族は討ち死にしました。こうして、難攻不落を誇った七尾城は陥落し、能登は完全に上杉家の支配下に入りました。この時、謙信は本陣で月見の宴を催し、「霜満軍営秋気清（霜は軍営に満ちて秋気清し）。数行過雁月三更（数行の過雁月三更）。越山併得能州景（越山併せ得たり能州の景）。遮莫家郷憶遠征（さもあらばあれ家郷遠征を憶うは）」という詩を詠んだと伝えられています。

戦後

織田の援軍を率いる柴田勝家は、一向一揆の抵抗や松永久秀の謀反などによって進軍が遅れていました。さらに、織田軍内部で柴田勝家と羽柴秀吉の対立が発生したこともあり、織田軍は士気が上がりませんでした。その後の手取川の戦いでは、上杉軍が織田軍を破り、上杉軍の勢いは頂点に達しました。

しかし、天正6年（1578年）3月、謙信が急死すると、上杉家では後継者争い（御館の乱）が起こりました。その混乱に乗じて、能登国内の反上杉勢力や織田勢力が攻勢をかけ、能登は再び織田家の支配下に帰しました。



参考文献

* 布施秀治『上杉謙信傳』歴史図書社、1968年（原著1925年）。

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