三林輝夫

三林輝夫：声楽家、教育者、指揮者、公演監督としての多才な足跡

三林輝夫（さんばやしてるお、1938年 7月2日 - ）は、日本の声楽家（テノール）、音楽教育者、合唱指揮者、そして公演監督として、幅広い分野で活躍した人物です。新潟県出身の三林は、東京芸術大学音楽学部声楽科を卒業後、同大学の専攻科を修了。木下保、渡邊高之助、古沢淑子といった名だたる指導者に師事し、その才能を開花させました。

1963年に東京労音のオペラ『フィガロの結婚』でバジリオ役を演じ、プロとしてのキャリアをスタート。以降、二期会や東京室内歌劇場などで数多くのオペラ、オペレッタ、創作歌劇に出演し、その実力を示しました。特に、フランス歌曲の分野においては第一人者として知られ、十数回に及ぶリサイタルで高い評価を得ています。また、日本歌曲の演奏においても、その明瞭なディクションと深い表現力は、「ビロードのような」と称される美しい声と相まって、聴衆を魅了しました。

1971年には関西日仏声楽コンクールで1位特賞を受賞。その後、1973年には渡欧し、J.ジャンセン、C.モラーヌ、P.ベルナックといった巨匠たちに師事。1979年には、アメリカ・プリンストンで開催された芸術歌曲フェスティバルに招かれ、日本歌曲によるコンサートで成功を収めました。1988年には、瀧廉太郎の『荒城の月』をはじめとする日本歌曲を世界に広めるため、「日本歌曲コンクール」の設置に尽力し、その育成に貢献しました。

三林は、東京芸術大学音楽学部声楽科教授、演奏芸術センター長、二期会副理事長、日本フォーレ協会委員、奏楽堂日本歌曲コンクール運営委員・審査委員長、日本声楽発声学会理事、公益財団法人東京二期会理事、桐朋学園大学音楽学部特任教授など、数々の要職を歴任。特に、二期会オペラ研修所所長としては、多くの若い声楽家を世に送り出しました。また、公演監督としても、新国立劇場でビゼーの『カルメン』やモーツァルトの『魔笛』など、数々のオペラ公演を成功させています。合唱指揮者としては、慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団をはじめ、複数の合唱団を指導しました。

2020年現在、東京芸術大学名誉教授であり、二期会会員、日本声楽アカデミー会員として、音楽界で活躍を続けています。三林の門下生で構成される声楽家グループ“三輝会”も組織され、演奏会を開催するなど、活発な活動を行っています。門下生には、辰巳真理恵、田大成、松村努など、多くの著名な声楽家がいます。

三林の音楽観と教育への情熱

幼少期から音楽に魅了された三林は、小学6年生の時に変声期を迎え、歌うことへの情熱を開花させました。中学生の頃には、初めて聴いたレコードの音楽をピアノで弾き、オペラのアリアもすぐに真似して歌っていたと言います。高校1年生から専門の指導を受け始め、やがて東京藝術大学を目指すようになり、高校3年生からは声楽家の木下保に師事しました。月に一度、新潟から夜行列車で8時間かけて東京へ通い、レッスンを受けていたそうです。

三林は、両親の支援に深く感謝しており、自身の夢を応援してくれたことに、深く感謝の念を抱いています。また、師である木下保とのエピソードも、三林の音楽に対する真摯な姿勢を表しています。リサイタルの挨拶に行った際、木下から歌への取り組みについて厳しく問い正されたものの、最後には励ましの言葉をかけられたことに、深く感動したと述べています。

フランス歌曲の魅力に目覚めた三林は、古沢淑子邸での「フランス音楽鑑賞会」を通して活動を広げ、フランス歌曲が自身の音楽的資質に合っていると感じたそうです。また、中田喜直、三善晃、小林秀雄といった作曲家との交流を通して、音楽に対する見識を深めました。三林は、自身の経験や知識を若い世代に伝えていくことの重要性を認識しており、後進の育成にも力を注いでいます。

学生に薦めたい本として、齋藤磯雄著『フランスの詩と歌』、鈴木信太郎著『フランス詩法』、若桑みどり著『薔薇のイコノロジー』、そして『ハリー・ポッター』シリーズを挙げています。

ディスコグラフィーと著作

三林は、CD『旅への誘ない珠玉のフランス近代名歌集』をリリースしており、ダルトン・ボールドウィンのピアノ伴奏で、美しいフランス歌曲を披露しています。また、世界音楽全集声楽編の編集にも携わり、フランス歌曲集やオペラ重唱曲集などを監修しました。

翻訳・その他

三林は、ダリウス・ミヨーの小オペラ三部作の日本語上演訳詞を担当したほか、ディズニー映画『白雪姫』の日本語吹き替え版にも参加。東京ディズニーランドでは、アトラクション「白雪姫と七人のこびと」でペーター王子の声を担当しました。

まとめ

三林輝夫は、声楽家、音楽教育者、合唱指揮者、公演監督として、日本の音楽界に多大な貢献をしてきました。美しい歌声と深い表現力で多くの人々を魅了し、後進の育成にも尽力したその功績は、今後も長く語り継がれるでしょう。

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