三河松井氏

三河松井氏：徳川家康に仕えた三河武士団の興亡

三河松井氏は、三河国幡豆郡を起源とする武士団です。今川氏や東条吉良氏に仕えたのち、徳川家康の家臣となり、その後の徳川氏の隆盛に大きく貢献しました。遠江国に勢力を築いた遠江松井氏とは異なる系統で、三河国幡豆郡吉良庄を拠点に独自の道を歩んだ一族です。

発祥と家系

三河松井氏の祖先については諸説ありますが、『寛政重修諸家譜』などでは、松井忠直（通称金四郎、実名は忠信とも）を初代としています。忠直は松平清康・広忠に仕え、武功を挙げたとされています。家伝によれば、忠直は六条判官源為義の子孫にあたるとされ、遠江松井氏とも血縁関係があったと推測されています。系図をたどると、源為義から15代後裔の松井為維（惣左衛門）の子として忠直が位置づけられます。

一方、静岡大学教授の小和田哲男は、遠江松井氏の惣領・松井宗能の弟の子孫を初代とする説を提示しています。この説では、初代・惣左衛門為維、2代・惣左衛門某、3代・金四郎忠直、4代・左近忠次という系譜が示されています。いずれの説も、三河松井氏が源為義を遠祖とする松井氏の一族であることは共通しています。

徳川家康への仕えと隆盛

永禄4年(1561年)、今川方の東条吉良氏が徳川家康に降伏すると、松井忠次は家康に仕えました。これにより、遠江二俣城を拠点とした遠江松井氏とは異なる道を歩むことになります。遠江松井氏は今川氏の衰退とともに没落していきましたが、三河松井氏は徳川軍の主要な勢力として、今川氏、武田氏、北条氏などとの戦いで活躍しました。忠次は天正11年(1583年)、伊豆国沼津の三枚橋城で北条氏との戦いの最中に亡くなりました。

忠次は諏訪原城攻落やその後の守備に貢献し、家康から偏諱と松平姓を与えられ、松平康親と改名しました（ただし、この改名は後世の誤認とする説もあります）。康親の嫡子、松平康重は父の遺志を継ぎ、三枚橋城を守備した後、数々の功績を挙げました。天正18年(1590年)、家康の関東移封に伴い、武蔵国私市藩2万石に封じられ、その後常陸笠間藩3万石に転封されるなど、徳川譜代大名として地位を確立しました。

繁栄と転封、そして幕末へ

以降、松平康重の系統は、丹波篠山藩、和泉岸和田藩、石見浜田藩など、幕末までに十数回にわたる転封を繰り返しました。代々周防守の官名を襲名し、「松平周防守」を名乗りました。最終的には第12代藩主・康英の時に武蔵川越藩（8万4千石）を治め、明治維新を迎えました。

傍系とその他の松井氏

松平康親以前にも、三河松井氏には多くの支族が存在しました。例えば、松井図書（忠勝）とその子である松井石見守（忠通、忠光とも）は、東条松平家の家老として仕え、関ヶ原の戦いにも参戦しました。しかし、慶長14年(1609年)の小笠原吉次改易事件に巻き込まれ一時的に改易されましたが、後に召し返され尾張徳川家に仕えました。また、康親の弟・松井光次の系統は、家康の家臣である牧野康成に属し、後に越後長岡藩の家老家となりました。

その他にも、徳川幕臣や伊勢鳥羽藩稲垣氏の家臣の中に、松井冠者維義を遠祖とする松井氏がいました。徳川幕臣の松井氏は、御家人から旗本(150俵)に昇進し、鳥羽藩士となった松井氏も存在しました。

系譜

(ここに系譜図を掲載)

参考文献

新井白石『新編藩翰譜』
今泉省三『長岡の歴史』
煎本増夫『戦国時代の徳川氏』
小和田哲男『今川義元のすべて』
中島次太郎『徳川家臣団の研究』
名古屋市教育委員会 編『名古屋叢書』
名古屋市役所 編『名古屋市史人物編』
平凡社地方資料センター編集『愛知県の地名』
堀田正敦 著『新訂寛政重修諸家譜』
『系図纂要』
新編岡崎市史編さん委員会編『新編岡崎市史』
平野明夫『三河松平一族』
* その他多数の文献

注記: 本文には、複数の史料に基づいて記述されていますが、異なる史料による記述の差異等については、本文中では詳細には触れていません。より詳細な情報については、参考文献を参照ください。

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