三脚巴

三脚巴（さんきゃくともえ）

三脚巴は、古くから世界各地で見られる伝統的な文様の一つです。別称として、三脚巴紋のほか、ギリシャ語由来の「トリスケリオン（triskelion）」や「トリスケル（triskele）」とも呼ばれます。その基本的な形状は、三つの渦巻きが中心から放射状に組み合わされたもの、または、膝を直角に曲げた三本の足が、付け根を中心に風車状に配置された回転対称図形です。これらは三回対称性を持ち、しばしば「三つの要素」や「動き」といった意味合いを象徴すると解釈されます。

歴史と起源

この象徴の歴史は非常に古く、紀元前まで遡ります。古代ミケーネ文明の土器や、小アジアのリュキア、パンフィリア、ピシディアといった地域で鋳造された硬貨など、多くの古代文化の遺物からその姿が見つかっています。隣接するアナトリア半島では、四つの要素を持つ卍（まんじ）に似たテトラスケリオンも知られており、これらの関連性も指摘されています。特にケルト文化圏との結びつきが強く語られることが多いですが、その起源はさらに古い時代、あるいは広い地域に求められる可能性もあります。

世界各地の三脚巴

三脚巴は、特に以下の地域で重要な象徴とされています。

フランス・ブルターニュ地方: ここでは主にトリスケリオンと呼ばれ、ケルト文化の遺産として地域を象徴する文様となっています。
マン島: アイリッシュ海に浮かぶ自治領マン島の公式シンボルであり、国旗にも描かれています。マン島の三脚巴は、鎧を纏い拍車をつけた三本の足が特徴的です。古くは13世紀または14世紀の記録に登場し、マン島語で「tre cassyn（三つ脚）」として知られていました。島の紙幣には、ラテン語のモットー「QUOCUMQUE JECERIS STABIT（投ぐればいずくにでも、立たん）」と共に描かれており、これは島の不屈の精神を表すと解釈されています。紋章学的には向きに意味があるとされますが、マン島では左右両方向の描写が見られます。
シチリア: 地中海最大の島であるシチリアでも、古くから「トリナクリア」として重要な象徴です。紀元前4世紀末頃のシラクサの硬貨にも見られます。島の形状が三つの岬を持つ三角形であることに由来するという説や、ギリシャ神話のヘーパイストスの三脚器との関連などが提唱されています。シチリアの三脚巴は中心にゴルゴン（メデューサ）の顔が描かれることがあり、これは冥府（クトニオス）との繋がりを示唆するとも言われます。ナポレオン時代に両シチリア王を称した統治者の紋章に採用されるなど、近世にもその象徴性は継承されました。

渦巻き型の三脚巴

三つの渦巻きが組み合わされたタイプの三脚巴は、特にケルト文化において重要なシンボルと見なされ、「生命」「再生」「三位一体」など、三つ組の概念を象徴すると解釈されます。アイルランドのニューグレンジ遺跡のような新石器時代の遺跡にも同様のシンボルが見られることから、ケルト人以前からこの地域に根付いていた象徴である可能性が指摘されています。スペイン北部（ガリシア州やアストゥリアス州）でも民族主義のシンボルとして用いられ、隣接するバスク地方の四つ葉のラウブルなど、他の文化圏の類似シンボルとの比較研究も行われています。ゲルマン神話におけるヴァルクヌトやトリクェトラといった三要素を持つシンボルとの関連も論じられることがあります。

近現代における用途

三脚巴は、その歴史の長さと普遍的な形状から、現代においても様々な文脈で使用されています。中には負の歴史を持つ例もあります。第二次世界大戦中、ナチス・ドイツが武装親衛隊の一部の記章に変種を採用したことがあり、卍との類似性からユダヤ人難民に苦痛を与えたという証言も存在します。

しかし、現代では肯定的な、あるいは中立的な文脈で広く使われています。

宗教・精神性: ユダヤ教再建主義や様々な新異教主義（ペイガニズム）のコミュニティにおいて、スピリチュアルな象徴として受け継がれています。特にケルト復興主義ペイガニズムでは主要なシンボルの一つです。
組織・団体: フィリピンのタウ・ガンマ・ファイ大学、アメリカ運輸省（空・陸・海の交通を表す）、アイルランド空軍のラウンデルなどでシンボルの一部として採用されています。
芸術・文化: 兵庫県競馬組合のシンボルマークや、NHK大河ドラマ「いだてん」の題字など、日本の現代アートやデザインにも影響を与えています。また、フィクション作品（スタートレック、Thresholdなど）に登場することもあります。
* その他の用途: BDSM 文化の一部でエンブレムとして提案された例や、南アフリカの政治グループが旗に用いた例など、多様な目的で使用されています。

三脚巴は、その単純かつ力強い形状によって、古代から現代まで、様々な文化や思想、コミュニティにおいて、多様な象徴として用いられ続けている普遍的な文様と言えるでしょう。

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