三遊亭歌笑

三遊亭歌笑（さんゆうてい かしょう）

「三遊亭歌笑」は代々受け継がれる落語家の名跡であり、当代は四代目を数えます。この名跡を名乗った落語家の中では、特に戦後の混乱期に圧倒的な人気を誇り「爆笑王」と称された三代目、そしてその叔父の遺志を継いで長きにわたり高座を務めている四代目が著名です。

歴代の歌笑には、初代古今亭志ん上、二代目三遊亭金馬へと名を改めた人物も含まれます。

三代目 三遊亭 歌笑

1916年（大正5年）9月22日に現在の東京都あきる野市で生まれた三代目歌笑、本名高水 治男は、製糸工場を営む家の次男でした。幼い頃から強い斜視による弱視や、特徴的なエラの張った顔立ちのため周囲にからかわれることが多く、その失望から故郷を離れ、落語家を志します。

当初、国民的大スターであった柳家金語楼に弟子入りを懇願しますが叶わず、紹介された春風亭柳橋にも断られます。しかし、1937年（昭和12年）9月、三代目三遊亭金馬の門を叩き「三遊亭金平」として入門が許されました。入門当初は楽屋内で「化け」と揶揄されるなど、後の大人気にも関わらず冷ややかな視線があったといいます。

1941年（昭和16年）3月（資料によっては1942年）、二ツ目に昇進する際に、かつて師匠金馬が名乗った「三遊亭歌笑」を襲名します。その後、寄席での活躍を目指し、寄席から距離を置いていた金馬の門下を離れ、二代目三遊亭円歌に師事することとなりました。戦況が悪化する中でも頭角を現し、人形町末廣の席亭に認められるなど、将来を嘱望されます。七代目柳家小きん、四代目柳亭痴楽と共に、二ツ目だけで大塚鈴本を満員にした三人会は、当時の期待の大きさを物語るエピソードとして知られています。

終戦後、焼け野原となった東京で人々が生活再建に必死な中、三代目歌笑は特異な風貌（どこか愛嬌のある「フラ」と形容されました）と、それに似つかわしくない純情な人柄で、荒廃した世相に笑いを提供しました。1947年（昭和22年）10月には真打に昇進。ラジオ出演を契機に人気が爆発し、日本劇場や国際劇場といった大劇場を満員にするほどのスターとなります。その勢いから「元祖 爆笑王」「笑いの水爆」と呼ばれ、瞬く間に一世を風靡しました。

同世代の柳亭痴楽や柳家小三治といった若手落語家に刺激を与えただけでなく、駆け出しの桂米丸や初代林家三平といった後進の目標ともなりました。七五調の詩に節を乗せて演じる「歌笑純情詩集」が十八番で、その他にも「論文集」「迷作集」「ジャズ風呂」といった新作落語を得意としました。SPレコードも発売され、「我が生い立ち記」「音楽花電車」「妻を語る」などが残されています。また、読書家でもありました。

映画にも数本出演するなど、人気絶頂期を迎えていた1950年（昭和25年）5月30日、雑誌の対談を終え帰宅する途中、夕暮れの銀座松坂屋前でアメリカ軍のジープに轢かれ、不慮の事故によりわずか32歳で急逝しました。この事故には、先天性の弱視が影響したとも言われています。真打昇進からわずか2年半の出来事でした。

あまりに突然の死は社会に大きな衝撃を与え、坂口安吾が論考を寄せたほどです。多くのスケジュールが残される中、ライバルであり親友でもあった四代目柳亭痴楽が代演を務め、歌笑の「純情詩集」を意識した新作落語で人気を博すきっかけとなりました。師匠である二代目円歌は、事故発生時刻に巡業先で弟子の物真似を見ていたという奇妙な符号に、言葉を失ったといいます。

三代目歌笑は、少年時代の立川談志にも強い影響を与え、談志は歌笑の死を悼んで初めて他人のために涙したと伝えられています。墓所は荒川区の浄閑寺にあり、武者小路実篤による揮毫の記念塚が建立されています。出身地であるあきる野市には、渥美清による詩碑が建てられています。渥美清は映画やテレビドラマで三代目歌笑を演じた経験があります。

四代目 三遊亭 歌笑

1939年（昭和14年）5月26日、三代目歌笑の甥として現在の東京都あきる野市に生まれたのが四代目歌笑、本名高水 勉です。幼い頃から叔父の落語や思い出話を聞いて育ち、突然の叔父の死に衝撃を受け、「自分が遺志を継がなければ」との思いを強くしました。

1958年（昭和33年）4月、叔父と同じ二代目三遊亭円歌に入門し、「歌寿美」の前座名でスタートを切ります。1961年（昭和36年）10月には二ツ目に昇進し、四代目三遊亭歌笑を襲名しました。その後、兄弟子である二代目三遊亭歌奴の門下へ移ります。

1973年（昭和48年）9月、林家木久蔵（現：木久扇）らと共に真打に昇進。1985年（昭和60年）からは拠点を名古屋大須演芸場に移し、2004年（平成16年）まで主任を務めるなど、長きにわたり中京圏の寄席文化を支えました。東京に戻ってからも高座に上がり、寄席に出演を続けています。

名古屋時代には、同時期に大須で独演会を開いていた古今亭志ん朝の公演を裏方として支えたこともあります。近年は体調を崩すこともありますが、闘病しながらも落語への情熱を燃やし、地方での寄席開催なども行っています。

得意ネタは、若い頃には叔父から受け継いだ「歌笑純情詩集」や、新作落語の「呼び出し電話」シリーズなどを演じていましたが、近年は「うどんや」「野ざらし」「親子酒」といった古典落語に力を入れています。2023年には自伝「心で泣いて 笑顔を忘れず」を出版するなど、精力的な活動を続けています。

四代目歌笑は、夭折した叔父三代目の名を継ぎ、その人気や芸風を受け継ぎつつも、独自の道を歩み、長年にわたり多くのファンを楽しませています。この名跡は、戦後落語史における二人の「歌笑」によって、記憶に刻まれています。

残るべき存在となっています。

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