上方舞

上方舞（かみがたまい）

上方舞は、江戸時代中期（1800年頃）から末期にかけて、上方（関西）で全盛期を迎えた日本舞踊の一種です。元来は単に「舞」と呼ばれていましたが、江戸で歌舞伎舞踊が人気を博すにつれて、区別するために「上方舞」「地歌舞」「座敷舞」などと呼ばれるようになりました。これらの名称は明治時代以降に定着したもので、古くは「舞」の一言で表現されていました。

歴史

上方舞の起源は定かではありませんが、地歌や箏曲の発生時期と近いと考えられています。また、白拍子の舞や猿楽などの影響も指摘されています。秋田県に伝わる西馬音内の盆[[踊り]]は、平家の落人伝説と結びつき、京都の舞の影響を受けていると言われており、このことから上方舞も古い歴史を持つ可能性が示唆されています。約350年前には「御殿舞」が確立しており、姫路城に伝わる御殿舞松本流は、箏曲を伴奏として城中で舞われていました。

日本舞踊という言葉は、明治時代に坪内逍遥によって作られたもので、それ以前は歌舞伎舞踊を「踊り」、地歌舞や上方舞を「舞」と呼んでいました。これらの舞は、もともと座敷で舞われるもので、着流しで舞うこともありました。全盛期には、中流から上流の女性や花柳界の女性たちが日常的に裾を引いた着物を着ていたため、裾引きの着物で舞うこともあります。

特徴

上方舞は、流派によって基本とするものが異なります。御殿舞や神楽舞の要素を取り入れる流派もあれば、能や人形浄瑠璃、歌舞伎の影響を強く受けている流派もあります。一般的に、歌舞伎舞踊がリズミカルな動きを特徴とするのに対し、上方舞は抽象的で内面的な表現を重視し、ゆっくりとした動きが特徴です。

伴奏には、もともと上方で伝承されてきた地歌や箏曲が用いられていましたが、江戸後期から明治以降は長唄や清元などの様々な邦楽も使われるようになりました。箏曲は奈良時代から存在し、その時代から舞が伴っていた可能性も考えられるため、上方舞の歴史はさらに遡る可能性も指摘されています。また、三味線はかつて「三絃」と呼ばれており、それ以前には琵琶が用いられていました。地歌は、大阪の地歌、京都の京地歌、九州の九州地歌に分かれます。これらの地歌が、江戸で長唄などの江戸唄を生み出す元となりました。

有吉佐和子の小説『地唄』や谷崎潤一郎の小説『細雪』『春琴抄』などにも上方舞や地歌が登場し、谷崎は特に地歌を愛し、名人に師事したほどでした。

作品系統

上方舞の作品は、主に以下の系統に分類されます。

地歌や箏曲、上方歌を舞地とするもの
端歌物（はうたもの）：地歌の中でも特に抒情的な歌で、花鳥風月などを通して心の動きを表現します。「雪」「こすの戸」「菊の露」などがあります。
本行物（ほんぎょうもの）：能楽を元に作られた地歌で、物語性が強く、叙事詩的な歌詞が特徴です。「葵上」「融」「善知鳥」などがあります。
半太夫もの、繁太夫もの：座敷浄瑠璃の半太夫や繁太夫の曲を基にした地歌で、芝居の要素を含んでいます。「千鳥」「髪漉き」などがあります。
作物（さくもの）：軽妙で洒落のきいた地歌です。「蛙」「狸」などがあります。
景色もの：景色を歌った曲で、地歌や箏曲に多く見られます。「長良の春」「桜川」「千鳥の曲」などがあります。
地歌以外を舞地とするもの
長唄（江戸長唄）や清元、荻江、小唄など、古典邦楽を使用します。この場合は座敷舞と呼ばれることが多いです。上方歌は、主に軽めの京地歌を指します。

流派

上方舞には数多くの流派が存在します。

上方四流：山村流、楳茂都流、井上流、吉村流を特に上方四流と呼びます。
京舞：井上流、篠塚流は京都で生まれた流派で、京舞とも呼ばれます。

主な流派

山村流：上方歌舞伎の振付師である山村友五郎が創始。大阪の花街や商家の子女の習い事として隆盛しました。
楳茂都流：楳茂都扇性が創始しました。
井上流：近衛家の風流舞を習った井上サト（初代井上八千代）が創流。舞妓による流派で、都をどりが有名です。
吉村流：御殿舞を源流とし、吉村ふじが大阪南地の花街で創始しました。四世吉村雄輝は人間国宝です。
篠塚流：上方歌舞伎の振付師である篠塚文三郎が創始した京舞最古の流派。一度絶えましたが、後に復活しました。
小川流：上方歌舞伎の振付師であった小川理右衛門から発展した流派です。大阪に勢力を持っています。
神崎流：神崎恵舞が創始し、東京に上方舞を広めました。この流れを組む流派も多数あります。
古澤流：姫路城に伝わる御殿舞松本流を受け継ぎ、古澤侑が創設。源氏物語を舞にした「源氏舞」で知られています。
大和流：御殿舞松本流の名取だった大和松蒔が創始しました。
葛流：日本舞踊藤間流の名取だった葛タカ女が創始しました。
立花流：立花青昇が創設し、創作上方舞「能を舞ふ」を公演しています。

参考資料

藤田洋『日本舞踊ハンドブック』三省堂、2001年
福井栄一『上方学 ～ 知ってはりますか、上方の歴史とパワー』ＰＨＰ研究所、2003年

関連項目

武原はん
山村たか
古澤侑
古澤侑峯
上方歌
雪 (地唄)
黒髪 (地歌)

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