上麻生ダム

上麻生ダムは、岐阜県加茂郡白川町を流れる一級河川・木曽川水系飛騨川に建設された、中部電力管理の発電専用ダムです。高さ13.2メートルの重力式コンクリートダムであり、飛騨川流域における水力発電事業の初期段階に建設され、1926年（大正15年）に完成した歴史あるダムです。下流の七宗町にある上麻生発電所の取水元として機能し、2万7,000キロワットの電力を供給しています。また、独立行政法人水資源機構が管理する木曽川用水の上流部における取水元でもあり、上流の岩屋ダムから放流された水が貯水池から取水され、岐阜県中部の上水道や農業用水として利用されています。

歴史

飛騨川流域の電源開発は、日本電力と東邦電力の二社が同時並行で進めていました。1919年（大正8年）、東邦電力の前身である岐阜興業が飛騨川中流部の発電用水利権を取得し、飛騨川第一・第二・第三発電所の建設を計画しました。このうち飛騨川第三発電所として選定されたのが、現在の上麻生ダムの場所でした。

1922年（大正11年）、岐阜電力は東邦電力と提携し、飛騨川第一発電所を金山発電所、上麻生地点を飛騨川第二発電所と改称しました。翌1923年（大正12年）に事業変更の許可を得て、1924年（大正13年）4月にダムと発電所の工事に着手しました。鉄道による物資輸送が工期を短縮し、当初の予定より1年4か月も早く、1926年（大正15年）11月14日に完成しました。完成後、東邦電力社長の松永安左エ門が岐阜電力の権利義務を全て取得し、合併させました。

その後、東邦電力は下麻生発電所の建設計画を立てましたが、立ち消えとなりました。その一方で、上麻生ダムの他に下原ダム、大船渡ダム、七宗ダム、名倉ダム、川辺ダムなどを次々と完成させました。さらに、飛騨川水系の発電所からの放流を均一化するため、大同電力と共同で今渡ダムを建設する計画を立てました。

しかし、戦時体制の強化により、1938年（昭和13年）に電力管理法が成立し、翌1939年（昭和14年）に日本発送電が発足しました。東邦電力は強制的に解散させられ、上麻生ダムを含む飛騨川の全水力発電所は国家管理下に置かれました。戦後、GHQが日本発送電を過度経済力集中排除法の指定企業とし、1951年（昭和26年）に電気事業再編成令によって全国九電力会社に分割・民営化しました。その結果、木曽川水系の発電用水利権と発電施設は、木曽川を関西電力が、飛騨川を中部電力が保有することになりました。

こうして上麻生ダムは東邦電力が建設し、日本発送電による国家統制を経て、戦後中部電力が管理を継承し、現在に至っています。2018年（平成30年）には、上麻生発電所の取水堰堤が「日本現存最古のローリングゲートの発電用取水堰堤」として土木学会選奨土木遺産に選ばれました。

ダムの目的と構造

上麻生ダムは、飛騨川と白川の合流点から2キロ[[メートル]]下流に位置しています。ダムから放流された水は、下流の細尾谷ダムで一旦貯えられ、そこから圧力隧道を通じて上麻生発電所に送られます。ダム名は上麻生という地名に由来しますが、ダム自体は上麻生地区にはありません。発電所は飛水峡の断崖上に建設されており、これは洪水時の水位上昇から発電所設備を保護するための対策です。また、ダムの右岸には独立した魚道が設けられており、これは発電所建設時に漁業権を保護するためのものです。

飛騨川流域では、その後の開発で大規模な発電所が建設され、1959年には上麻生発電所の再開発計画が立てられました。さらに、戦後の水害対策のために、木曽川水系では大規模な多目的ダムである久田見ダムの建設計画が立てられましたが、この計画は立ち消えとなりました。その後、新上麻生発電所の建設計画が再浮上し、1987年（昭和62年）に運転を開始しました。新上麻生発電所の取水元は、上麻生ダムではなく、上流の名倉ダムです。この新上麻生発電所の運転開始により、飛騨川流域一貫開発計画は事実上完了しました。

木曽川用水との関係

飛騨川は水量が豊富で発電に適していましたが、峡谷が深いため灌漑には利用されていませんでした。しかし、戦後の食糧不足を解消するために灌漑事業が行われ、川辺用水などが建設されました。さらに、中京圏の工業発展により、上水道や工業用水の需要が増大しました。

木曽川特定地域総合開発計画によって愛知用水が建設された後、農林省は木曽川用水の建設を計画し、1965年に木曽川水系が水資源開発水系に指定されました。水資源開発公団は、木曽川用水上流部の水源として岩屋ダムを建設し、その放流水を上麻生ダムの貯水池で調整しました。1974年に貯水池右岸に取水口が完成し、ここから取水された水は美濃加茂市などに送られています。

上麻生ダムは、木曽川水系の水資源供給にも重要な役割を果たしており、発電専用ダムを利用して用水路の取水を行う例は他にも見られます。

飛騨川バス転落事故

1968年（昭和43年）8月18日、上麻生ダム直下で大規模な崖崩れが発生し、観光バス2台が巻き込まれる事故が発生しました。この事故では、乗員・乗客107名中104名が死亡するという、日本バス事故史上最悪の惨事となりました。中部電力は、ダムの水量を一時的にゼロにする「水位零作戦」を実施し、懸命の捜索活動を行いました。現場には慰霊碑「天心白菊の塔」が建立されていましたが、バイパス建設に伴い2022年に撤去されました。

アクセス

上麻生ダムへは、美濃加茂市から国道41号を下呂温泉・高山市方面に進むと、左側に見えてきます。最寄りの駅はJR高山本線の白川口駅です。ダムには駐車場がないため、注意が必要です。

参考文献

建設省河川局開発課『河川総合開発調査実績概要』第一巻、1955年
中部電力『飛騨川　流域の文化と電力』、1979年
水資源開発公団『水資源開発公団30年史』財団法人水資源協会、1992年

関連事項

飛騨川
飛騨川流域一貫開発計画
日本のダム
重力式コンクリートダム
電力会社管理ダム
中部電力
東邦電力
松永安左エ門
水資源機構
木曽川用水
岩屋ダム
飛騨川バス転落事故
白川町

外部リンク

社団法人電力土木技術協会『水力発電所データベース』　上麻生発電所
上麻生堰堤 - ダム便覧

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