世本

『世本（せほん）』について

『世本』は、中国の古代において三皇五帝から春秋時代までの帝王、諸侯、卿、大夫の氏姓や系譜、居住地、そして彼らの業績に関する器物の由来などを記録した重要な書物です。成立当初の具体的な時期は不明ですが、戦国時代中期から末期にかけて編纂されたとも考えられています。後の漢代においては、著名な司馬遷が『史記』の編纂の際にこの書を参照したため、少なくとも漢初には存在していたことが確認されています。

編纂歴史と称呼

『世本』は当初は知られていなかった著者によって編纂されましたが、後漢の班固の『漢書』では、古事に精通した史官の手によるものとされています。特に、春官瞽矇に見られる詩や世の流れを謳う部分が本書の基にあったと考えられています。陳夢家は、秦の始皇帝時代に趙国の人物によって編纂されたという説を唱えていますが、その確証は曖昧です。

伝承と保管

『世本』は漢室の秘府で保管され、多くの後代の著者に引用されました。特に、成帝綏和元年に孔何斉が殷紹嘉侯に封ぜられる際の典拠としても利用されました。その後、後漢の宋均や応劭、宋衷などが注釈を加えて流布させたため、後の時代には多くの異本が存在し、原書との違いが明確ではなくなりました。

隋唐期には、多くの著作が『世本』を基にした注釈書として存在し、初唐の『隋書』や両唐書にも複数の版が記録されています。それにより、原書とそれに基づいた著作の間の違いが分かりにくくなりました。また、原書に対する校注が繰り返されるうちに誤写も増え、唐代の孔穎達は『世本』の誤りを指摘し、その内容が失われていく様子を嘆いています。

近世の復興

北宋期には、著作が再び引用され、南宋では高似孫が輯本を編纂するなどして一定の評価を得ましたが、その後はその本も失われ、逸文のみが記録として残されることになりました。明代以降は、『世本』の逸文収集や編集の動きが活発化し、多くの研究者が様々な版を編纂しました。特に清代には、銭大昭や王謨、孫馮翼、陳其栄、洪貽孫などがそれぞれ独自の輯本をつくり、最終的には1957年にその版が『世本八種』として商務印書館から翻刻されています。

内容の概要

『世本』は、15篇に分かれていると『漢書』に記されていますが、現存する情報に基づくと断片的に復元されているに過ぎません。大きく分けて「帝王」「諸侯」「卿大夫」の系譜をまとめた「帝繋」「王侯世」「卿大夫世」の三篇。また氏族の起源を扱った「氏姓篇」、王侯の居所を記した「居篇」、それぞれの業績に関連する器物の由来を記録した「作篇」、そして彼らの諡号をまとめた「諡法篇」の計七篇に分かれています。

本書の大きな特徴は、氏姓の起源、居住地、器物の由来など、従来の歴史書における枠を超えた興味深い社会文化的な側面を探求し、読者に比較と推論の機会を提供する点にあります。また、古代の神話や文化英雄の物語が含まれていることもあり、「神話なき国」とされる中国における失われた神話の断片を復元する貴重な資料とも捉えられています。

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