中国共産党第十一期中央委員会第三回全体会議

中国共産党第十一期中央委員会第三回全体会議、通称「第11期3中全会」は、1978年12月18日から22日にかけ、首都北京で開かれました。この会議は、中華人民共和国の歴史において極めて重要な節目となり、「新時代の遵義会議」と称されるほど、その後の中国の進路を大きく変える決定がなされました。文化大革命の終結後、停滞していた国を立て直し、将来の発展の方向性を示すための重要な機会となりました。

背景

1976年10月、「四人組」が逮捕され、文化大革命は事実上終結しました。これを受けて党中央委員会主席に就任したのが華国鋒でした。しかし、華国鋒は文革推進派と実務派の間に立たされた立場であり、その権力基盤は脆弱でした。彼は毛沢東の遺訓を絶対視する「二つのすべて」（「毛主席の決定した事はすべて変えず、毛主席の指示にはすべて従う」）を掲げることで、自らの正統性を主張し、地位の安定を図ろうとしました。

この方針は、文化大革命中の誤りを十分に清算することを妨げ、特に文革で失脚させられた古参幹部たちの名誉回復を遅らせました。中でも、第一次天安門事件で指導的な役割を担ったとされ失脚していた鄧小平の復権は大きな焦点でした。これに対し、党内の実力者である葉剣英や陳雲、そして軍部からは、華国鋒の姿勢に対する批判と鄧小平への支持が公然と表明されるようになりました。

こうした圧力もあり、1977年7月の第10期3中全会で、鄧小平は党の要職に復帰します。その後、鄧小平は「実践こそが真理を検証する唯一の基準である」という主張を展開し、「二つのすべて」路線の空虚さを批判し始めました。同時に、胡耀邦らを起用し、建国以前からの冤罪事件を含む大量の冤罪事件の再審査と名誉回復を進め、「毛沢東の決定は覆せない」とする保守派に対する突破口を開きました。

1978年11月から始まった党中央工作会議では、陳雲らが先頭に立ち、文革で不当に扱われた彭徳懐らの名誉回復や、第一次天安門事件の再評価を求めました。また、文革期の権力者であった康生らに対する責任追及も始まりました。この流れの中で、華国鋒は自身の鄧小平批判が誤りであったことを認めざるを得なくなり、主要な失脚幹部の名誉回復を承認しました。華国鋒を支えてきた汪東興らも批判の的となり、自己批判を強いられ、結果的に「二つのすべて」を奉じる勢力は権力の中心から退くことになりました。これらの動きが、続く第11期3中全会で鄧小平が主導権を握るための土壌を作りました。

会議の決定事項

第11期3中全会では、党中央工作会議での議論を踏まえ、鄧小平の主導の下、歴史的な決定が多数採択されました。その主な内容は以下の通りです。

長年にわたり党の活動の「綱」とされてきた「階級闘争」路線を放棄し、その基本が終了したことを宣言しました。社会的な問題解決は、憲法と法律に基づく秩序の中で行う方針を示しました。
文化大革命期に顕著だった左傾化の誤りと、「二つのすべて」という教条的な考え方を根本的に否定しました。
「思想を解放し、頭脳を始動させ、事実に基づいて真理を求めること」を党の指導思想として明確に打ち出し、過去に囚われず、現実に基づいた新たな道を切り開く姿勢を示しました。
国家の活動の中心を経済建設に移すことを決定し、自力更生を基本としつつも、国際社会との経済協力を進め、先進技術の導入を積極的に行う方針を定めました。近代化に必要な科学と教育の発展も重視されました。
経済管理体制における過度の権力集中を是正し、国家全体の計画的指導の下、地方や企業により多くの経営上の自主権を与える改革を進める方針が示されました。
党と政府、党と企業が一体となっている状況を改め、それぞれの役割を明確に分離し、中央から地方、企業、労働者まで、あらゆる主体の積極性や創造性を引き出すことを目指しました。
人民公社制度における集団所有権と自主権の保護を確認しつつ、労働の量と質に応じた報酬計算を徹底し、平均主義を克服することを強調しました。また、個人の自留地や家庭での副業、市場での売買といった活動を社会主義経済の補完として認め、これに対する不当な干渉を禁じました。
1976年4月5日の第一次天安門事件について、これを完全に革命的な行動であったと再評価し、周恩来への哀悼と「四人組」への憤怒を示す「偉大な革命行動」であったと位置づけました。これに関連する過去の党中央の誤った文書を撤回しました。
文化大革命で不当に失脚させられた彭徳懐、陶鋳、薄一波、楊尚昆らの名誉回復を正式に決定しました（ただし、劉少奇の名誉回復はこの時点では行われませんでした）。
党内の民主集中制を強化する観点から、指導者個人の意見を「指示」と称することを戒め、全ての党員に対し、上級指導者に対する批判意見を中央常務委員会に提出する権利を保障しました。

これらの決定により、中国共産党は階級闘争中心の路線から、経済建設を最優先とする路線へと明確に転換しました。これは、その後の鄧小平を中心とする指導部が推進する「改革開放」路線の基礎を築くことになりました。

人事異動

会議では、新たな路線の推進体制を固めるための重要な人事が行われました。陳雲が中央政治局常務委員・党中央委員会副主席に選出され、鄧小平を支える体制が強化されました。また、鄧穎超、胡耀邦、王震らが政治局委員となり、新たな指導グループに加わりました。さらに、中央委員の補充が行われ、胡喬木、習仲勲らも名を連ねました。会議のもう一つの重要な決定は、党の規律維持を担う中央規律検査委員会の設立でした。その第一書記には陳雲、第二書記に鄧穎超、第三書記に胡耀邦が選ばれ、綱紀粛正への取り組みが示されました。会議閉幕後の12月25日には、中央政治局会議でさらなる人事調整が行われ、胡耀邦が中央委員会秘書長兼中央宣伝部長、胡喬木が毛沢東著作編纂委員会弁公室主任などに就任する一方、華国鋒体制を支えてきた汪東興が中央弁公庁主任などを解任されるなど、権力構造の変化が明確になりました。

「改革開放路線の始まり」か？

第11期3中全会の決定をまとめたコミュニケは、「党の活動の中心点を経済建設に移行させる」ことを明確に宣言しており、後の改革開放路線の精神に通じるものです。特に農業生産の回復と成長が喫緊の課題と位置づけられました。しかし、この会議で打ち出された政策は、文化大革命によって混乱した人民公社制度の再建や秩序回復に主眼が置かれており、今日「改革開放」の代名詞ともいえる生産責任制のような画期的な制度改革が具体的に決定されたわけではありませんでした。公報や関連決定案は、依然として人民公社による集団所有制度を基礎としていました。

したがって、この会議は中国の経済発展の大きな転換点であり、その後の改革の土台を築いたことは間違いありませんが、それ自体をもって「改革開放」という特定の政治・経済路線が完全に確立・採択されたと断言することには議論があります。実際、「改革開放」という言葉が公式に用いられるようになるのは、鄧小平自身や人民日報が使用を始めた1984年頃からです。東京大学名誉教授の高原明生氏が指摘するように、この会議が「改革開放の始まり」として広く認識されているのは、むしろ後に党の実権を握った鄧小平とそのグループが、自らの路線を正当化し、それ以外の選択肢を退けるために、この会議の歴史的意義を強調した結果であるという側面も否定できません。それでもなお、第11期3中全会が、文化大革命の終焉を経て、中国が世界に向けて門戸を開き、経済発展を最優先課題とする新たな時代へと舵を切った画期的な会議であったという評価は揺るぎありません。

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