中国医学

中国医学（中医薬学）とは

中国医学、または中医薬学は、中国を中心に発展してきた伝統医学です。漢字圏の伝統医学、例えば日本の漢方医学や朝鮮半島の韓医学に大きな影響を与えています。発祥は黄河、長江ですが、各地で独自の理論形態を持っていました。約2400年前の『黄帝内経』を中心に理論体系が確立されました。

呼称

中国語

• - 中医：昔の中国では、中国人が発明した医学に対して統一的な呼び名はありませんでした。しかし、現代の中華人民共和国政府が約30年かけてその定義や体系を整理し、2017年に「中医」という名前がつけられました。これは中国の伝統医学に対する最も公式な呼称です。
• - 中医薬学：「中医薬学」は主に医学院の教材や学術論文で使用されます。「西洋医学」や「現代医学」のように「学」を付け、漢方薬の重要性を強調するために作られた言葉です。
• - 周王朝の官位：『周礼』には、疾医（内科）、瘍医（外科）、食医（栄養学）、獣医（獣医学）という官位があり、王の食事を担当した食医が最も位が高く、次に疾医、瘍医、獣医の順でした。

日本語

• - 中国医学と中医薬学の違い：中国では2017年から「中医」という言葉が系統化されました。日本の漢方業界では、古代から伝わった漢方を「中国医学」と呼び、現代中国でまとめられた漢方を「中医薬学」と区別しています。本稿では、日本語の定義に合わせて古代中国の漢方について詳しく解説します。
• - 中国医学と漢方医学の違い：現代の日本語では、中国からの漢方を「中国医学」、日本独自の漢方を「漢方医学」と呼びます。漢方医学は中国医学に基づいていますが、理論、診断法、生薬の量などに違いがあります。例えば、中国医学で重視される「陰陽五行」は、日本の漢方医学ではほとんど使われず、批判されることもあります。また、中国医学の重要な医学書である『本草綱目』も、日本の漢方では常用の参考書にはなりません。
• - 総称：中医薬学の東アジアへの影響を考慮して、「東洋医学」、「東方医学」、「東亜医学」と呼ばれることもあります。

定義と特徴

中医は、中国に存在する全ての漢方薬、治療法、病理学、医学理論、医学文化の総称であり、中国の伝統医者や病院も含まれます。ただし、中医の範囲は漢民族が発明したものに限られ、チベット族、モンゴル族、ウイグル族の伝統医学は含まれません。

中医薬学の特徴として、以下の点が挙げられます。

• - 全身治療：西洋医学とは異なり、複数の症状から「証」という概念で治療方針を決定します。
• - 自然治癒力：人間の心身が持つ自然治癒力を高めることで治癒を目指します。そのために生薬などを用います。
• - 四診：診断は四診（望診、聞診、問診、切診）によって行い、西洋医学のような機械や血液検査は用いません。これにより、体に侵襲がなく、害が少ないとされています。
• - 国際的な普及：近年、欧米ではTraditional Chinese medicine (TCM)として補完・代替医療として広く行われています。アーユルヴェーダ、ユナニ医学と共に三大伝統医学に数えられ、相互に影響を与えたと考えられています。

書物

医書

• - 『黄帝内経』（作者不明、前漢）：現存する中国最古の医学書。陰陽論と五行論を参考に、生理、養生、環境衛生などを気候や季節との関係で述べる「素問」と、解剖、生理を説き、鍼灸などの臨床医学を論じた「霊枢」からなります。
• - 『傷寒論』（張仲景、後漢末期から三国）：伝染性の病気に対する治療法が中心。四診、八綱弁証（証）、八法（八つの治療法）の原則と方法が説明されています。
• - 『難経』（作者不明、後漢以降）：『黄帝内経』を問答形式で解説。独自の内容もあり、鍼灸術や日本の後世派に影響を与えました。

本草書

• - 『神農本草経』（作者不明、後漢から三国）：365種の薬物を上品（養命薬）、中品（養性薬）、下品（治病薬）の三品に分類して記述しています。
• - 『本草綱目』（李時珍、明）：中国の本草学史上最も内容が充実した本草書。全52巻。

歴史

古代

殷代の甲骨文には「医」「薬」の文字が見当たらず、医療の概念がなかったと考えられます。その後、巫祝と呼ばれる呪術師が現れ、占い、魔よけ、薬物療法、鍼灸の原初的段階が組み入れられました。巫祝は神官と医師に分かれ、扁鵲のような名医も現れました。

中古

前漢時代には『黄帝内経』が編纂され、後漢時代には張仲景により『傷寒雑病論』が編纂されました。ただし、戦乱で『雑病』部分が失われ、『傷寒論』のみが残りました。北宋時代に『金匱玉函要略方』が発見され、『雑病』部分が復元され、『金匱要略』として世に出回りました。『傷寒論』は急性熱性疾患をモデルにしたとする説もありますが、広義の意味も持つため、意見が分かれています。中国医学は張仲景によって体系化されたとも言われます。

中世

金・元代には、劉完素、張従正、李杲、朱震亨などの金元四大家が現れ、『黄帝内経』を元に六淫理論、四傷理論などの新しい理論が提唱されました。南宋では公立薬局が設けられ、宋慈が『洗冤集録』という世界初の法医学書を著しました。明代には李時珍が『本草綱目』を著し、薬学分野で大きな進歩がありました。

近世・近代

中国では、戦後、共産党政権が伝統医学復興を国策として進め、「中医学」としてまとめられました。現在、西洋医学を行う医師と伝統医学を行う「中医師」の二つの医師資格が併設されています。1956年以降に、中国各地の伝統医療の担い手を「老中医」と呼び、伝統医学の教育にあて、1958年には教科書『中医学概論』が編纂されました。これ以降の中国医学を「中医学」として区別する考え方もあります。

中医学

中医学は、中華人民共和国で多様な伝統医学を整理・統合して作られた医学体系です。診療は中医師が行いますが、日本では中医師の資格は使えません。中医学は、中医内科、中医外科、中医婦人科、中医小児科などに細かく分類されています。中医師の資格には、湯液治療専門の中医師、鍼灸・推拿治療中心の中医師、そして西洋医学も理解する中西医結合の医師があります。

中医学は、日本の漢方医学と同根ですが、社会事情、歴史的経緯、生活習慣、風土などの違いから、診察方法などが大きく異なります。

中医学の治療には、中薬（漢方薬）、薬食同源、薬膳、鍼灸、推拿（中国整体）、気功などがあります。

欧米への普及

近年、欧米では中医学がTraditional Chinese medicine (TCM)として普及し、補完・代替医療として治療・研究が広く行われています。

法的規制

香港

香港では1999年より香港中医薬管理委員会により規制されており、中医家は委員会に登録が必要です。登録には5年間の専門教育、30週間の臨床実習、試験合格が必要です。登録資格は3年間有効で、更新には60日間の教育が必要です。

派生・影響

古代東アジアでは、中国と同じ漢文を用いた日本や朝鮮半島で医学書の翻訳が比較的容易に行われ、中国の漢方体系を取り入れつつ、それぞれ自国の医学理論を作り上げました。

漢方医学

漢方医学は、日本で発達した中国医学系の伝統医学です。中国を起源とする伝統医学は日本に断続的に伝来しましたが、大陸で失われた古文献や技術も維持されました。鍼灸、生薬ともに中国医学とは異なる物に発達しています。中国医学で廃れた腹診が重視され、中国で重視される脈診は日本ではあまり重んじられません。薬用量も中国に比べて少ないです。

朝鮮半島

朝鮮半島の医学は日本にも影響を与えました。鍼灸が重視され、現在の韓国は世界唯一の鍼灸専門医制度を持っています。

• - 東医：朝鮮半島で発達した中国医学系の伝統医学の呼称（北朝鮮で1992年まで使用）。
• - 高麗医学：北朝鮮での呼称（1993年に東医から改称）。
• - 韓医学：韓国における呼称。

ベトナム

• - 南医学：ベトナム化された中国医学系の伝統医学
• - 北医学：ベトナム化されていないそのままの中国医学

欧米

欧米では、18世紀ごろから「蛇油の塗布薬」を万能薬と称して販売する詐欺行為がありましたが、これは中国人の民間療法が元になったと考えられています。そのため、英語で「Snake oil」は詐欺商品を揶揄する言葉になっています。

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