二河川 (広島県)

二河川

広島県西南部に位置する呉市の中心部を流れる二河川は、一級河川に次ぐ二級河川として指定されており、この水系の本流を形成しています。

地理

二河川の源流は、呉市中心部から北東にそびえ立つ標高737メートルの灰ヶ峰にあります。そこから北へ流れ出し、安芸郡熊野町に入ると、進路を大きく西へ転じ、さらに南へと向きを変えながら再び呉市域に戻ります。その後は概ね南へ向かい、最終的に呉港に注ぎ込みます。流域面積の大部分は呉市が占めていますが、流路上に熊野町を含み、一部の支流は広島市安芸区にも及んでいます。

川は源流から河口まで、上流、中流、下流の三つの区間に分けられます。上流域は灰ヶ峰の源流から熊野町に至るまでの区間で、川幅は5メートルから20メートルと狭く、河床勾配は1/10から1/70と急峻です。地形に応じて単断面の河道を持ち、一部で川底に岩肌が露出しています。中流域は熊野盆地を中心に広がり、本庄水源地の西側を通りながら南へ蛇行して流れます。川幅は20メートルから30メートルに広がり、河床勾配は1/140から1/270と上流より緩やかになります。下流域は二河峡を抜けた後、呉市の市街地を通り、呉港へと真っ直ぐ進みます。市街地では川幅が30メートルから100メートルと最も広くなり、河床勾配は約1/430と非常に緩やかです。この区間では、洪水時に水があふれる範囲である高水敷が整備され、河道形態は複断面となっています。

沿革

中世から近世にかけて、二河川流域の様子は地域によって異なりました。中流域の熊野町は周辺交通の要地として発展しましたが、下流域の呉は半農半漁の小さな村落が点在する程度でした。この時代から、渇水対策としていくつかの溜池が築かれています。しかし、江戸時代を通じてこの地域が歴史の大きな舞台に登場することはありませんでした。

流域の様相が大きく変化したのは、1886年（明治19年）に呉に海軍区が設定され、呉鎮守府が置かれることが決まってからです。軍港として整備されることになった呉への安定した水源確保のため、大日本帝国海軍による二河川の開発が始まりました。明治時代には、工業用水の取水施設として二河峡内に「二河水源地」が建設され、さらに大正時代には上水道供給のための貯水池「本庄水源地」が完成しました。これらは、近代的な都市・呉の発展を支える重要なインフラとなりました。

1927年（昭和2年）に河口部で埋め立て工事が開始されると、これに伴い大規模な河川改修が行われました。その後も、1945年（昭和20年）の枕崎台風や1967年（昭和42年）の梅雨災害など、度重なる水害に見舞われ、その都度、護岸の強化や砂防堰堤の設置といった局所的な改修が進められてきました。1999年（平成11年）の6.29豪雨災害では、流域全体にわたって大きな被害が発生しています。

自然

二河川流域には、上流部の灰ヶ峰の麓、中流部の本庄水源地周辺の自然公園、そして下流部の二河峡など、豊かな自然環境が残されています。しかし、二河峡を除く多くの区間では護岸がコンクリートで固められ、設置された砂防堰堤には魚道が設けられていないなど、生物の生息環境としては課題も抱えています。

水質については、環境省が定める「水質汚濁に係る環境基準」において、全流域で最も良好な「A類型」（BOD75%値が2.0mg/l以下）を満たしています。河口から約1.6キロメートル（呉三津田高校付近）までの範囲は、海水と淡水が混ざり合う汽水域となっています。気候は瀬戸内海式気候に属し、梅雨期や台風期を除けば降水量は比較的少ない地域です。地質は、流域全体の基盤が花崗岩（広島型黒雲母花崗岩）で形成されており、上流の灰ヶ峰付近には一部流紋岩が見られます。下流の平野部は、風化して砂状になった花崗岩（マサ土）が堆積してできた沖積層となっています。

この流域には多様な生物が生息しています。植生としては、流域の約8割がアカマツ林に覆われており、その他にアカメガシワ、ササ、ススキなどが点在しています。水辺ではツルヨシやコカナダモといった水生植物が確認されています。魚類では、カワムツが流域全体に広く生息しています。下流域にはアユも見られますが、二河峡がその遡上を物理的に妨げている状況です。一方で、この二河峡には、環境省のレッドリストに掲載されているメダカが自生している貴重な環境となっています。昆虫類では、環境省レッドリストに載るギフチョウやオオムラサキ、広島県のレッドリストに載るムカシヤンマやハッチョウトンボといった、希少な種も確認されています。河口部の干潟では、アサリやホトトギスガイといった貝類が生息しています。

産業

二河川流域の土地利用は、上流域が主に農地、中・下流域が住宅地、そして河口部が工業地帯という特色を持っています。中流域の安芸郡熊野町は、特に筆の生産地として全国的に有名です。江戸時代末期にその製造技術が伝えられて以降、産業として発展し、「熊野筆」として広く知られるようになりました。

水資源としては、前述の通り、二河水源地からは工業用水、本庄水源地からは上水道として呉市水道への取水が行われています。これらに加え、熊野町水道のための取水も呉地浄水場へ行われています。また、農業用水としても、流域全体で24箇所からの取水が確認されています。河口部の工業地帯には、かつての呉海軍工廠の流れを汲む、IHI関連企業やバブコック日立呉工場、ダイクレといった主要な事業所が集積しています。

景観

二河川とその支流の流域には、様々な景勝地や施設が点在しています。上流には、眺望の良い灰ヶ峰公園や、運動施設の集まる呉市総合スポーツセンターがあります。中流域には、熊野町の歴史を紹介する熊野町郷土館、町役場、筆づくりの体験などができる筆の里工房、そして本庄ダムがあります。特に呉市の名勝として知られるのが「二河峡」です。河口から約3.7km上流に位置し、全長約2.5kmにわたるこの渓谷は、巨岩と木々に囲まれ、自然の造形美が見られます。中でも落差約30mの「男滝」と約37mの「女滝」は、訪れる人々を魅了する名所です。

二河峡内には、1889年（明治22年）に旧海軍によって築造された二河水源地の取水施設があります。石造りの坑門のような形状をしており、現在も利用されているこの施設は、国の登録有形文化財に指定されています。二河峡の下流に広がる二河公園は、市民の憩いの場として整備された運動公園です。呉市二河野球場や屋内練習場、多目的グラウンドをメインに、バレーボール場、テニス場、弓道場、市営プールなど、多様なスポーツ施設を備えています。その他、沿岸部には呉共済病院、二河橋、JR呉駅、済生会呉病院、呉三条病院などの主要施設があり、川沿いに整備された二河川公園を経て、最終的に呉港へと続いています。

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