井上之房

井上之房（いのうえ ゆきふさ）

戦国時代から江戸時代前期にかけての武将。豊臣秀吉に仕えた黒田氏の家臣として、黒田二十四騎および黒田八虎の一人に数えられる。主な通称は九郎右衛門。

生涯

天文23年（1554年）、播磨国飾東郡松原郷（現在の兵庫県姫路市白浜町松原）にて、井上之正の子としてこの世に生を受けた。

当初は政国という名乗りを用い、黒田職隆に小姓として仕えることとなる。天正6年（1578年）、主君である黒田孝高が荒木村重によって有岡城に幽閉された際には、栗山利安や母里友信といった同僚と共に有岡城下へ潜伏し、孝高の安否や城内の動向を探る重要な役割を担った。天正13年（1585年）に職隆が没した後、その遺言により、子の黒田孝高に引き継がれ、以後、重臣の一人として黒田家の政務・軍事に深く関与していく。

天正15年（1587年）に豊臣秀吉による九州平定が完了した後、各地で発生した国人一揆の鎮圧に従事し、黒田長政と共に姫隈城攻めに参加した。同年、長政が豊前国の城井鎮房を攻撃する計画を立てた際には、その作戦の危険性を諫めたが、長政はその意見を聞き入れずに出陣を決行。之房もやむなくこれに従ったものの、案じた通り黒田勢は敗北を喫した。

天正16年（1588年）、これらの功績が認められ、6,000石の知行を拝領する。文禄元年（1592年）から始まる文禄・慶長の役においては、朝鮮半島へ渡り、武将として戦役に加わった。慶長3年（1598年）に日本へ帰国後、栗山利安、母里友信らと共に、荒廃していた宇佐神宮の造営事業に尽力した。

慶長5年（1600年）に勃発した関ヶ原の戦いでは、黒田孝高と共に豊前国中津に滞在し、九州において旧領回復を図る大友氏との戦闘に参加。特に石垣原の戦いにおいては、敵方の大将格であった吉弘統幸を見事に討ち取るという、この戦における黒田軍最大の武功の一つを挙げた。

戦後、主君・黒田長政が筑前国へ移封されると、その拠点となる福岡城の支城として、豊前国小倉に近い要衝に黒崎城を築いた。この黒崎城は、筑前国の守りの要となる「筑前六端城」の一つに数えられる。之房はこの城の城主となり、1万6,000石もの所領を与えられ、事実上、大名に準ずる高い待遇を受けることとなった。

慶長12年（1607年）、黒田長政の使者として江戸へ赴き、2代将軍・徳川秀忠およびその子である家光に拝謁するという栄誉を得て、馬を賜った。この頃から「周防守」の官名を名乗るようになったとされる。慶長19年（1614年）に始まった大坂冬の陣には、長政の嫡男である黒田忠之に従い、従軍した。

元和元年（1615年）、江戸幕府が全国に発令した一国一城令に基づき、居城であった黒崎城は取り壊されることとなった。元和9年（1623年）、家督と所領である1万3,000石を孫の正友に譲り、隠居生活に入った。この時、髪を剃って仏門に入り、半斎道柏と名乗った。

寛永10年（1633年）に発生した黒田家のお家騒動（黒田騒動）においては、重臣の栗山利章らと協力し、家中を混乱させていた倉八正俊の追放に尽力するなど、隠居後も黒田家のために動いた。

寛永11年（1634年）10月22日に死去。享年81であった。

家族

息子である井上庸名（もちな）は、黒田長政の長女である菊と婚姻関係を結んだ。庸名は後に2代将軍・徳川秀忠に仕え、慶長15年（1610年）には5,000石の旗本となり、従五位下・淡路守に叙任されるなど、徳川幕府の直臣として名を成した。また、之房の実弟の家系は、後に福岡藩に仕官し、筑前へ戻り存続している。

逸話

石垣原の戦いで井上之房が討ち取った吉弘統幸は、かつて大友氏が改易された後、立花宗茂に仕えるまでの間、之房のもとに身を寄せたことがあり、旧知の間柄であったとされる。統幸は豊臣秀吉からも「無双の槍使い」と称賛され、特別な朱柄の槍の使用を許されていたほどの武勇を誇る豪傑であった。石垣原の戦いにおける激戦の中、統幸は黒田勢の小田九朗左衛門を含む敵将30～40人を自ら討ち取るという獅子奮迅の働きを見せたが、自身もまた重傷を負ってしまう。もはやこれまでと覚悟を決めた統幸は、友である之房に自身の首級を与え、武功を立てさせるため、自ら命を絶ち、之房によって討ち取られたと伝えられており、両者の間にあった深い絆を示す話として語り継がれている。

登場作品

映画「黒田騒動」（1956年、演：河部五郎）
NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」（2014年、演：高橋一生）

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