井波律子

井波律子：三国志研究の第一人者とその業績

井波律子氏（1944年2月11日-2020年5月13日）は、日本の中国文学を代表する学者の一人であり、特に『三国志』と『三国志演義』に関する研究で広く知られています。国際日本文化研究センター名誉教授という経歴からも、その学界における貢献の高さがうかがえます。

生涯と学問への歩み

富山県高岡市に生まれた井波氏は、幼少期を京都市で過ごしました。京都市立紫野高等学校を経て、京都大学文学部を卒業。その後、京都大学大学院文学研究科博士課程を修了し、中国文学研究の道を歩み始めます。

京都大学助手、金沢大学助教授を経て、1990年には金沢大学教授に就任。1995年には国際日本文化研究センター教授に転じ、2009年に定年退職するまで、同センターで研究と教育に携わりました。

学術活動に加え、朝日新聞書評委員（1998年～2001年）、大佛次郎賞選考委員（2010～2013年）、紫式部文学賞選考委員など、学界への多大な貢献が認められました。

2020年5月13日、肺炎のため76歳で逝去されました。

研究活動と主要業績

井波氏の研究は多岐に渡りますが、その中心は中国古典文学、特に『三国志』とその関連作品でした。1972年の初期論文「曹操論」から始まり、数々の論文を発表。代表的な著書に『三国志演義』（ちくま文庫、講談社学術文庫）の完訳版があります。この翻訳は、中国古典文学の普及に大きく貢献しました。

一般向けには、『中国人の機智』『三国志曼荼羅』『裏切り者の中国史』など、古典中国文学や『三国志』に関する多くの著作を執筆。中国文学研究から派生した妖怪・伝奇研究も行っており、その幅広い知見は、読者や研究者に大きな影響を与えました。

2007年には『トリックスター群像』で桑原武夫学芸賞を受賞。2015年には京都市文化功労者顕彰を受賞するなど、その功績は高く評価されています。

井波律子氏の著作一覧（抜粋）

井波氏の著作は膨大で、ここではその一部を紹介します。

単著:

『中国人の機智 「世説新語」を中心として』(中公新書)
『三国志演義』(岩波新書、ちくま文庫、講談社学術文庫)
『三国志曼荼羅』(筑摩書房、岩波現代文庫)
『中国のグロテスク・リアリズム』(平凡社、中公文庫)
『トリックスター群像 中国古典小説の世界』(筑摩書房、潮文庫)
『キーワードで読む「三国志」』(潮出版社、潮文庫)
『論語入門』(岩波新書)
『書物の愉しみ』(岩波書店)

編著・翻訳:

『三国志を行く 諸葛孔明篇』(新潮社)
『中国史重要人物101』(新書館)
陳寿、裴松之注『正史 三国志』(ちくま学芸文庫)（分担訳）
羅貫中『三国志演義』(ちくま文庫、講談社学術文庫)（翻訳）
* 劉義慶『世説新語』(平凡社東洋文庫)（翻訳）

この他にも多くの著書、論文、翻訳作品があり、中国古典文学研究に多大な貢献をしました。

高島俊男氏との議論

幸田露伴の「運命」に関する高島俊男氏の批判に対し、井波氏は直接的な反論は避けつつ、露伴の解釈の独自性を評価する独自の意見を述べています。これは、学問的な議論における井波氏の姿勢の一端を示す事例と言えます。

まとめ

井波律子氏は、その博識と深い洞察力で、中国古典文学、特に『三国志』の世界を広く一般に知らしめることに貢献しました。数々の著作と翻訳は、現代においても多くの読者を引きつけ、その影響はこれからも長く続くことでしょう。彼女の功績は、日本における中国文学研究史に燦然と輝くものとして記憶されるに違いありません。

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