交響曲第2番 (スクリャービン)

交響曲 第2番 ハ短調 作品29

アレクサンドル・スクリャービンが1901年に完成させた交響曲第2番は、彼の2作目の交響曲であり、純粋な器楽曲としては最初の交響曲として知られています。この作品は、スクリャービンの初期から中期への移行期における重要な作品と位置づけられています。

概要

1901年の1月から9月にかけて作曲され、翌1902年1月12日にサンクトペテルブルクで初演されました。指揮はアナトーリ・リャードフが務めました。

この交響曲は、以下の5つの楽章から構成される大作です。

1. アンダンテ (4/4拍子、ハ短調)
2. アレグロ (6/8拍子、変ホ長調)
3. アンダンテ (6/8拍子、ロ長調)
4. テンペストゥオーソ (12/8拍子、ヘ短調)
5. マエストーソ (4/4拍子、ハ長調)

しかし、第1楽章と第2楽章、第4楽章と第5楽章はアタッカ（切れ目なく続けて演奏する指示）で連結されているため、実際には3つの楽章のように聞こえます。この構成は、スクリャービンの交響曲第3番「神聖な詩」における試みの先駆けと捉えることもできます。

また、楽章配置は、|緩急|－|緩|－|急緩|というシンメトリー構造をなしており、作曲家の構成への強いこだわりが感じられます。

楽曲の特徴

この交響曲は、多声的なテクスチュアとソナタ形式への強いこだわりが特徴です。第1楽章から第3楽章までが省略のないソナタ形式で書かれており、第4楽章はボーゲン形式（再現部で第1主題と第2主題が逆順で現れる形式）を用いたソナタ形式、終楽章はロンド・ソナタ形式で構成されています。5楽章制を採用し、楽章間の調的な関連付けを行う点は、ロシアの交響曲の歴史において特筆すべき点です。

演奏時間は約50分で、各楽章の演奏時間は、それぞれ約8分、12分、14分、7分、9分となっています。

楽器編成は、フルート3、オーボエ2、クラリネット（A管1、B♭管2）、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ1、ティンパニ、シンバル、タムタム、弦楽五部で構成されています。ハープは使用されていません。

特に第1楽章と第3楽章では、ヴァイオリン独奏の美しい音色が効果的に使われています。また、第3楽章のフルート独奏による鳥のさえずりの描写は、後の交響曲第3番の中間楽章の先駆けとなり、ワーグナーとメシアンを結びつける重要な例として捉えられています。終楽章には、ワーグナーの「ジークフリート」第三幕のライトモチーフからの引用が見られます。

デリソンの分析

音楽学者ヴィクトル・デリソンは、この交響曲を多楽章制の要素を持つ単一楽章的な巨大なソナタと捉え、以下のように分析しました。

第1楽章 ＝ 序奏（または第1主題群）
第2楽章 ＝ 精力的な呈示部（または第2主題群）
第3楽章 ＝ 抒情的な展開部
第4楽章 ＝ 先行主題の回想（または再現部）およびスケルツォ
* 第5楽章 ＝ 終結部（悟りと解脱）

デリソンの分析によれば、第1楽章の第1主題の開始部分が、統一モチーフとして後続の楽章にも循環し、作品全体を統合する役割を果たしているとされています。

解釈と俗称

スクリャービンの他の交響曲と同様に、この交響曲も俗称で呼ばれることがあります。特に、第3番以降の交響曲が「〇〇の詩」と名付けられたことから、この第2番も稀に「悪魔的な詩」と呼ばれることがあります。しかし、これは作曲者自身が名付けたものではなく、また、同時期のピアノ曲と混同されている可能性も高いため、この呼称は不適切であるとされています。

また、デリソンは、この交響曲がロシア象徴主義の画家ミハイル・ヴルーベリの絵画「敵対する巨人族を打破するオリュンポスの神々」と内容的に関連性があると指摘していますが、この解釈には異論も存在します。

受容と評価

オイレンブルク版の校訂者であるフォービアン・バワーズは、この交響曲を「忘れられた19世紀末の傑作」と評しました。近年では、エリアフ・インバル、エフゲニー・スヴェトラーノフ、リッカルド・ムーティ、ウラジーミル・アシュケナージ、イーゴリ・ゴロフシンらによる交響曲全集や、ネーメ・ヤルヴィによる単発的な音源を通じて、再評価が進んでいます。しかし、未だに演奏会で頻繁に演奏されるには至っていません。

発表当初は斬新な問題作として受け止められたものの、現在では穏健で伝統的な楽曲にしか聞こえないという評価もあります。初演者であるリャードフは「非常に興味深い作品だが、聴衆の耳には届かないだろう」と評し、作曲を教えたアントン・アレンスキーは「凡庸で、面白くない」と酷評しました。

スクリャービン自身も、この作品を独創性に欠ける凡作と見なしていた時期があり、ニューヨーク初演の提案を断っています。また、終楽章を書き換えることも計画していたとされていますが、結局実現することはありませんでした。

ミハイル・カルヴォコレッシは、作曲者本人とグラズノフが同席した晩餐会で、アルトゥール・ニキシュが前日に指揮したこの交響曲の話題になったことを回想しています。

まとめ

交響曲第2番は、スクリャービンの初期と中期を結ぶ重要な作品であり、多楽章制の中に単一楽章的な構造を持つ、独特な形式で作曲されています。初期の作品における実験精神と、円熟期への萌芽を感じさせるこの作品は、今後も再評価が進むことが期待されます。

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