交響的大曲

交響的大曲 (Grande pièce symphonique) Op.17

セザール・フランクが1860年から1862年にかけて作曲した、オルガン独奏のための作品です。彼の主要なオルガン作品集である『大オルガンのための6作品』の第2曲に位置づけられており、この全6曲の中でも最大の規模を誇る堂々たる楽曲です。作品番号はOp.17が与えられています。

フランクの創作活動において、『大オルガンのための6作品』は中期様式の幕開けを告げる重要な作品群とされています。これらの曲には、円熟期を迎えるフランクの才能が花開き始めた様相がうかがえ、その後の偉大な達成を予感させる内容を持っています。

この時期、フランクは1851年から1853年にかけて心血を注いで作曲した喜歌劇『頑固な召使』が成功に至らなかったことに深く傷つき、創作意欲を一時的に失っていました。しかし、彼が再び作曲への情熱を取り戻す大きなきっかけとなったのが、サント・クロチルド聖堂に新たに設置されたアリスティド・カヴァイエ＝コル製作のパイプオルガンとの出会いでした。フランクはこの聖堂の正オルガニストに就任し、日々この楽器と向き合う中で豊かなインスピレーションを得たのです。

特にこの『交響的大曲』について、作曲家の矢代秋雄は、『6作品』の第1曲である『幻想曲 ハ長調』と比較して、オルガンの機能を隅々まで駆使している点を指摘し、サント・クロチルド聖堂のオルガンから受けた影響が顕著に表れていると論じています。

後年の交響曲との関連性

『交響的大曲』は、全体が切れ目なく演奏されるものの、大きく3つの部分に分けることができます。特に第2の部分が緩徐楽章とスケルツォを兼ねる構成となっているため、フランクが後年作曲した傑作『交響曲 ニ短調』との比較研究がしばしば行われます。矢代秋雄は、この曲を「オルガン交響曲」とも呼べる存在とし、以下の4点を主な根拠として、『交響曲 ニ短調』の初期の構想がこの曲に既に現れている可能性を示唆しています。

両曲に共通する循環形式による楽曲全体の統一。
両曲の第1楽章冒頭主題の類似性。
スケルツォ楽章を内包する緩徐楽章という、第2楽章の独特な構成。
両曲ともに、終楽章が同主長調（嬰ヘ長調とニ長調）による「信仰の歓び」を表すかのような輝かしい響きで閉じられている点。

矢代はこれらの特徴に加え、この曲が他の後年の傑作群とも共通する要素を備えていることを指摘しています。

献呈と出版

この作品は、高名なヴィルトゥオーゾピアニストであり作曲家でもあったシャルル＝ヴァランタン・アルカンに献呈されました。興味深いことに、アルカンもまた、1857年に出版した『短調による12の練習曲』の中で、ピアノ独奏による「交響曲 ハ短調」や「協奏曲 嬰ト短調」といった大規模な作品を作曲していました。フランクはアルカンを高く評価しており、彼の作品をオルガン用に編曲することも行っています。

楽譜は、『6作品』中の他の曲と同様に、当初パリのマイアン・クヴルール社（Maeyen-Couvreur）から出版され、後にデュラン社からも刊行されています。

楽曲構成

演奏時間は約25分です。楽曲は切れ目なく続けられますが、構造的には大きく3つの部分（「楽章」として記述）に分けられます。

第1楽章

アンダンティーノ・セリオーソ、4/4拍子、嬰ヘ短調で始まります。長大な序奏部分では、その後に楽曲全体を通じて重要な役割を果たす複数の主題群が提示されます。例えば、異なる鍵盤の間で応答する主題や、足鍵盤に現れて他の主題と組み合わされる主題などです。

序奏が一度高揚した後、静まってアレグロ・ノン・トロッポ・エ・マエストーソ、2/2拍子にテンポを上げ、威圧的な性格を持つ第1主題が登場します。この主題が循環主題として機能し、楽曲全体に統一感を与えます。この主題と『交響曲 ニ短調』の循環主題との類似性は、前述の通り特筆される点です。

対位法的な手法も用いられつつ、第1主題はあたかも展開部であるかのように劇的に扱われた後、イ長調でコラール風の第2主題が現れます。続いて、序奏の主題の一つが再び登場し、その一部が伴奏音型へと発展します。その流れに乗って、足鍵盤に第1主題が再現されるところから再現部に入ります。第2主題は嬰ヘ短調で簡潔に再現され、最後に再び序奏の主題の一つが扱われた後、モルト・レントとなり、フェルマータによって余韻を残しつつ閉じられます。

第2楽章

アンダンテ、4/4拍子、ロ長調です。慈愛に満ちた美しい旋律で幕を開けます。この旋律は、第1楽章序奏に現れた主題の一つから導かれたもので、異なる鍵盤が細やかに交代しながら奏でられます。

この穏やかな旋律が十分に歌われた後、ロ長調での終止を遮るように、アレグロ、2/4拍子、ロ短調へと転じ、スケルツォ部が始まります。スケルツォ部は終始弱音で奏され、急速な16分音符の動きが特徴です。この主題の原型は、第1楽章で提示された循環主題に見出すことができます。

スケルツォ部自体が3部形式を成しており、それが終結すると、冒頭の慈愛に満ちた旋律が再びロ長調で回帰します。ここでは音色を変え、旋律も短くまとめられています。休符による中断を挟みながら余韻を残し、静かに終結しますが、終止線はなく、そのまま切れ目なく次の部分へと続きます。

第3楽章

まず、足鍵盤の単音で循環主題が提示されることから始まります。続いて、ベートーヴェンの交響曲第9番の終楽章に似た手法で、これまでに現れた楽想の断片が次々と現れ、それに対して循環主題が応答するという掛け合いが繰り返されます。再現される主題には、第1楽章序奏の主題（ト短調）、第2楽章のスケルツォ主題（変ロ短調）、第2楽章冒頭の旋律（ハ長調）などがあります。

第2楽章冒頭の旋律が循環主題によって遮られた後、最弱音から次第にクレッシェンドが高まっていき、その頂点で循環主題が嬰ヘ長調へと移調され、堂々と輝かしく奏されます。これは「信仰の歓び」を表すかのような感動的な瞬間です。

この輝かしい主題が十分に歌われた後、短い休止を挟んで、この主題に基づいた4声のフーガが開始されます。フーガは後半になるにつれてより自由な扱いを受け、主題をさらに発展させた旋律が朗々と響き渡ります。そして、嬰ヘ長調の輝かしいコーダへと続き、全曲が壮大に幕を閉じます。

この『交響的大曲』は、フランクのオルガン作品の中でも技術的、音楽的に充実した傑作であり、彼の作曲家としての個性が明確に示された重要なレパートリーとなっています。

参考文献

矢代秋雄 著『最新名曲解説全集 第16巻　独奏曲III』（音楽之友社、1981年）
Franck, César. Grande pièce symphonique. Maeyens-Couvreur, Paris. (楽譜)

外部リンク

交響的大曲の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト (IMSLP))
交響的大曲 - オールミュージック (AllMusic)
* 交響的大曲 嬰ヘ短調 （喜多宏丞によるピアノ編） - ピティナ・ピアノ曲事典

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