京滬高速鉄道

京滬高速鉄道：中国の二大都市を結ぶ大動脈

京滬高速鉄道は、中華人民共和国の首都である北京と、経済の中心地である上海を結ぶ、全長1318kmの高速鉄道路線です。2008年4月に建設が開始され、2011年6月30日に開通しました。この路線は、京滬旅客専用線や京滬高鉄とも呼ばれています。

概要

京滬高速鉄道は、中国政府が策定した「中長期鉄道網計画」における「四縦四横」高速鉄道幹線網の重要な一角を担っています。この計画の中でも、距離と投資規模が最大級のプロジェクトであり、一時に開業した高速鉄道としては世界最長です。北京と上海という二大都市を結ぶ重要性から、構想段階から政府機関の注目を集めていました。総投資額は2,209.4億元に達し、中国建国以来最大規模の投資プロジェクトの一つとされています。

路線データ

路線距離: 1318km（本線は1302km）
軌間: 1435mm（標準軌）
専用線: 旅客列車専用
駅数: 24駅
複線区間: 全線
電化区間: 全線（交流50Hz 25000V 架空電車線方式）
地上区間: 全線
走行方向: 左側通行

運行形態

京滬高速鉄道では、最高速度300km/hの列車と250km/hの列車の2種類が運行されています。開業当初は、1日に合計90往復（300km/h列車が63往復、250km/h列車が27往復）の列車が運行されていました。北京南駅を始発とする列車は69本あり、始発の7時から終電の18時40分まで、約10分間隔で発車していました。

2011年12月12日のダイヤ改正により、1日当たりの列車本数は、ピーク期間92往復、週末85往復、平日78往復となっています。北京南駅と上海虹橋駅間の最短所要時間は、途中南京南駅のみに停車する列車で4時間48分です。また、済南西駅にも停車する列車は4時間55分で、上海虹橋駅からは6本設定されています。基本的には各駅停車はなく、千鳥停車方式で運行されています。

京滬高速鉄道が経由する各省の省都駅（北京南駅、上海虹橋駅、天津西駅、石家荘北駅、済南西駅、合肥駅、南京南駅）からは、それぞれ始発列車が運行されています。また、他路線に乗り入れる列車も多く、北京南駅から福州駅、上海虹橋駅から青島駅、北京南駅・天津西駅から杭州駅、鄭州駅から済南駅など、多様な路線が運行されています。

歴史

背景

北京と上海を結ぶ既存の鉄道路線（京滬線）の輸送能力が限界に近づいたため、新たな高速鉄道の建設が計画されました。2006年には、鉄車輪・鉄レール方式の新線で建設されることが決定しました。

先進国の攻防

中国は2003年にドイツの技術支援を受けて国産の動力集中式車両「中華之星」を開発しましたが、トラブルが多発し実用化が遅れました。そのため、新線の建設には国外からの技術導入が重視されました。この状況を受け、フランス、ドイツ、日本がそれぞれの高速鉄道技術を中国に売り込みました。中国側は入札で決定すると発表しました。フランスはTGV、日本は新幹線を提案しましたが、ドイツは磁気浮上式[[鉄道]]（トランスラピッド）を売り込みました。しかし、上海トランスラピッドの建設コストや運用上の問題から、ドイツもレール方式のICE型高速列車の売り込みに転じました。

日本国内における意見の相違

京滬高速鉄道プロジェクトは、日本にとって大きなビジネスチャンスでしたが、技術輸出に関して国内で意見が分かれました。JR東海やJR西日本は、海外との混合システムでは日本の新幹線の安全性や信頼性が担保されないこと、事故時の責任範囲が曖昧になること、技術流出の危険性を理由に反対しました。一方、JR東日本は比較的積極的で、同社のE2系に準じた車両が導入されました。最終的には、中国が各国から導入した技術を基に自主開発する方針となり、日本の企業連合は一部の受注に留まりました。

一般路線向けの導入

中国は2005年に、ドイツのICE 3ベースの車両を発注すると同時に、フランス、カナダ、日本にも呼びかけを行いました。結果として、各国からそれぞれ420両の車両を導入し、技術を習得した上で、国産で高速鉄道の車両設計、製造、運営を行う方針を決定しました。

路線建設

2008年4月18日に起工式が行われ、2010年11月15日にレールの敷設が完了しました。当初は2013年の完成予定でしたが、金融危機克服のための景気対策投資により、2011年6月30日に開業しました。総工費は2,209.4億元でしたが、一部で不正入札があったことも報告されています。

運行計画の発表

京滬高速鉄道の開業により、北京-上海間の所要時間は約5時間に短縮されました。当初は最高速度380km/hでの運行も検討されていましたが、最終的に300km/hと250km/hの列車が運行されることになりました。また、当初は高級車両の導入も検討されましたが、一般の座席に変更されました。これらの変更は、安全性の確保や運賃の高騰を懸念する国民の声に応えたものとされています。

開業

京滬高速鉄道は、2011年6月30日に正式に開業しました。北京南駅で開通式典が行われ、温家宝首相も出席しました。一番列車の切符は10分で完売し、当日の乗車率は98%に達しました。開業日は中国共産党創立90周年の前日であり、中国政府が経済発展と共産党の指導をアピールする絶好の機会となりました。

使用車両

2009年、中国鉄道部は中国北車集団と契約を結び、CRH380A型電車100編成を購入しました。これらの国産化率は85％に及び、最高速度は350km/hです。列車は16両編成で、VIP車、1等車、2等車、食堂車から構成されています。2016年には、次世代の高速鉄道車両CR400AFの試運転が開始され、翌年から営業運転に投入されました。

安全性

中国鉄道部は、安全性を重視し、地震計や風速計を多数設置し、緊急時に列車を減速・停止させるシステムを導入しました。また、終電後には4時間の保守作業を実施し、始発電車の前には点検車両を走らせるなどの安全対策を講じています。電力供給の信頼性確保のため予備電力線も設置されました。

設置駅

京滬高速鉄道の主要駅は、北京南駅、天津西駅、済南西駅、南京南駅、上海虹橋駅の5駅です。これらの駅は、高速鉄道の交通拠点として、近年リニューアルが進められています。各駅には、旅客専用線、都市間鉄道、在来線、地下鉄、路面電車などが集まり、大型の交通拠点となっています。

北京南駅: アジア最大級の駅で、島式ホーム13面24線を備えています。
天津西駅: 天津最大の交通拠点で、総面積は約20万m2です。
済南西駅: 総面積は10万m2です。
南京南駅: 敷地面積は約20万m2、延べ床面積は387,327m2です。
* 上海虹橋駅: 上海最大の鉄道駅で、延べ床面積は約23万m2です。上海虹橋国際空港第2ターミナルに直結しており、高速道路、地下鉄、バスも集結する巨大ターミナルです。


京滬高速鉄道は、中国の経済発展と技術力を象徴するプロジェクトであり、今後も中国の交通インフラにおいて重要な役割を果たすと考えられます。

もう一度検索