伊利可汗

土門（ブミン）: 突厥可汗国の創始者、伊利可汗の生涯

土門（? - 552年）は、突厥の初代可汗であり、その治世は中央アジアの歴史において重要な転換期を迎えました。彼は伊利可汗（Ilig-qaγan）という可汗号を持ち、阿史那氏を姓としました。ここでは便宜上、土門として解説します。

生涯

部族長から独立へ

土門は初め、突厥部の部族長として、当時の強国であった柔然可汗国に服属していました。彼は柔然の下で万人長（トメン、ブミン）として活動しました。546年、鉄勒が柔然に反旗を翻すと、土門は突厥部を率いて鉄勒を迎え撃ち、5万余の集落を降伏させるという功績を上げました。この勢いに乗じて、土門は柔然に求婚を申し込みましたが、柔然可汗の阿那瓌は土門を「鍛鉄奴隷」と見下し、これを拒絶しました。この侮辱に対し、土門は激怒し、柔然からの離脱を決意します。

西魏との連携

柔然からの独立を決意した土門は、新たな後ろ盾を求めて西魏に接近します。彼は西魏に使者を送り、朝貢を行うとともに、婚姻関係を結ぶことを提案しました。551年6月、土門は西魏の長楽公主を妻として迎え、これにより西魏との同盟関係を確立しました。同年、西魏の文帝が崩御すると、土門は弔問の使者を派遣し、馬200匹を贈ることで弔意を示しました。

柔然への勝利と可汗国の建国

552年1月、土門はついに兵を起こし、長年の宿敵であった柔然に戦いを挑みます。彼は懐荒の北で柔然軍を打ち破り、阿那瓌を自殺に追い込みました。阿那瓌の子である菴羅辰は北斉へ逃亡し、柔然の残存勢力は阿那瓌の叔父である鄧叔子を新たな可汗として擁立しました。この勝利により、土門は自ら伊利可汗と号し、独立国家である突厥可汗国を建国しました。

土門の死後、息子の科羅（乙息記可汗）が後を継ぎました（ただし、『隋書』では弟の逸可汗が後を継いだとしています）。

妻子

可賀敦（カガトゥン：皇后）
長楽公主

子

科羅（乙息記可汗）
燕都（木汗可汗）
他鉢可汗
褥但可汗

土門の生涯は、突厥という新たな遊牧国家の誕生を告げるものであり、その後のユーラシア大陸の歴史に大きな影響を与えました。彼のリーダーシップと外交手腕は、突厥を強国へと押し上げる原動力となりました。

参考文献

『周書』（列伝第四十二 異域伝下）
『隋書』（列伝第四十九 北狄）
* 『新唐書』（列伝百四十上 突厥上・西突厥）

もう一度検索