北狄

北狄（ほくてき）とは

北狄は、古代中国において、中原の都市文化を共有しない北方遊牧民を指す言葉です。四夷の一つとして数えられ、蔑称としての意味合いも持ちます。

起源

『山海経』によれば、北狄は黄帝の孫である始均の子孫とされています。しかし、歴史的には、北方民族が中原を度々侵略したことから、異民族全体を指す言葉として使われるようになり、特に北方にいた民族を指す言葉として「北狄」という言葉が使われるようになりました。

夏・殷の時代

翟人（てきじん）は、紀元前2000年頃にはオルドス地方で繁栄していました。考古学的調査から、当時の人口増加や経済発展が確認されています。その後、彼らは水や草を求めて東方や南方へ移動し、夏・殷の前期には、華北一帯（現在の山西・河北・陝西省）に居住していました。殷後期から周の時代になると、彼らの遊牧生活や習俗が『礼記』などの文献に記録されるようになり、長狄、赤狄、白狄といった集団名が史書に登場します。これらの集団は、晋の公室と婚姻関係を結ぶなど、中原諸侯との関わりも深く、居住地も中原北部に点在していました。

殷・周の時代

殷晩期の地層からは、青銅器や陶器が多数出土しており、殷前期からの生産力の発展が見られます。また、多くの遺跡から殷様式の器物が見つかっており、華夏族との交流があったことが窺えます。しかし、殷・周時代は奴隷制が全盛期であり、その供給源は主に戦争でした。殷・周王朝は頻繁に周辺国に侵攻し、両民族の間で激しい戦闘が度々起こったと史書に記録されています。特に周の時代には大規模な戦争が繰り返され、翟人は関中などの西北地域から追われ、多くが東や北へ移動したとされています。

岡田英弘の創成伝説

歴史家の岡田英弘は、殷王朝の始祖である契の母、簡狄（かんてき）に注目しています。簡狄は有娀（ゆうじゅう）の娘で、帝嚳（ていこく）の妃でした。彼女が玄鳥の卵を飲み込んだことで契が生まれたという伝説があります。岡田は、有娀の「戎」は西方の遊牧民、簡狄の「狄」は北方の狩猟民を意味すると解釈し、殷人が北狄の出身である可能性を指摘しました。この説に基づけば、殷はモンゴル高原から山西高原を通って南下し、夏国を征服したと考えることができます。

春秋戦国時代

周王朝が衰退すると、河北や山西などにいた白狄が南下を始め、中山国という強大な狄人国家を築きました。中山国は後に諸侯国となります。また、晋の文公重耳（ぶんこう ちょうじ）に仕えた重臣、狐偃（こえん）ら狐氏一族は白狄出身であることが知られています。中山国は春秋戦国時代に中原の争いに参加しましたが、最終的には趙によって滅ぼされ、白狄の人々は華夏人に同化していきました。

赤狄

一方、比較的北方に住んでいた赤狄は、紀元前11世紀頃から北や北西に移動し、モンゴル高原や南シベリア、満州、朝鮮の原住民を征服しました。彼らは中原の技術や産物を持ち込み、各地に大きな変化と人口増加をもたらしました。赤狄は後の匈奴の一部を構成したと考えられており、彼らの移動は西方に遊牧文化を伝えるきっかけになったとも考えられています。

まとめ

北狄は、古代中国において、中原文化とは異なる文化を持つ北方民族を指す言葉でした。彼らは夏・殷の時代から中原との間で交流や戦争を繰り返し、民族移動や文化交流の歴史の中で、様々な影響を与えました。彼らの歴史は、古代中国史を理解する上で重要な要素の一つとなっています。

脚注

「楊経敏」『回紇史』（広西師範大学出版社、2008年、ISBN 978-7-5633-7451-9）

関連項目

東夷
西戎
南蛮
匈奴
中国の異民族
古チュルク語
モンゴル系民族

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