余嘉錫

余嘉錫：清末民初の碩学、その生涯と業績

余嘉錫(1884-1955)は、清朝末期から民国期にかけて活躍した、中国を代表する歴史学者にして文献学者です。河南省商丘県に生まれ、幼少期から並外れた学習意欲を示しました。五経、四史といった古典を熟読し、14歳で『孔子弟子年表』を作成、15歳で『呉越春秋』に注釈を施すなど、その才能は早くから開花しました。

特に彼を歴史に刻むのは、膨大な時間を費やして取り組んだ『四庫全書総目提要』の研究です。16歳の時、張之洞の著作を通して『四庫全書総目提要』の存在を知り、翌年には父から同書を贈られました。以来、50年以上にわたる綿密な考証を続け、その成果を『四庫提要弁証』として結実させました。本書は、中国文献学研究における金字塔として、現在も高く評価されています。

1901年には挙人となり、後に北京へ上京。しかし、父の死去を機に故郷へ戻り、中学や師範学堂で教鞭を執ります。辛亥革命後には「狷庵」と号し、再び北京へ戻ると、柯劭忞の紹介で趙爾巽率いる清史館に入り、『清史稿』の校閲に従事しました。

1931年には、新設の輔仁大学に教授として招かれ、同大学の文学院院長を務めるまでになりました。1948年には中央研究院院士にも選出されるなど、学界における地位は不動のものとなりました。しかし、翌年には政府から「封建的」との非難を受け、解任されるという憂き目にも遭っています。

余嘉錫は、その生涯において、多くの優れた著作を残しました。代表的なものとしては、『四庫提要弁証』の他に、『目録学発微』、『世説新語箋疏』、『古書通例』、『漢書芸文志索隠』、『元和姓纂校補』などがあります。これらの著作は、中国古典文献学研究に多大な貢献を果たし、現代の研究者にとっても必読書となっています。特に『古書通例』は、日本でも翻訳され、中国文献学入門書として広く読まれています。

人物像としては、非常に几帳面で、几厳な性格だったと伝えられています。人前で笑うことは稀であり、阿諛追従を嫌い、権力に迎合することなく、自分の信念を貫き通した孤高の学者でした。その狷介な人柄は、彼が残した著作にも反映されていると言えるでしょう。

余嘉錫の没後も、その業績は高く評価され続け、彼の著作は現代の中国文献学研究の基礎となっています。その生涯は、学問への飽くなき探究心と、時代の波に左右されない揺るぎない信念を示す、一つのモデルケースと言えるでしょう。彼の研究は、単なる文献学にとどまらず、中国の歴史と文化を深く理解するための重要な手がかりを与えてくれています。また、彼の著作は、多くの研究者によって翻訳・解説され、日本を含む世界各国で研究されています。その影響は、現代においても色濃く残っているのです。

主な著書

『四庫提要弁証』
『目録学発微』
『世説新語箋疏』
『古書通例』
『漢書芸文志索隠』
『元和姓纂校補』

参考文献

古勝隆一・嘉瀬達男・内山直樹訳注『古書通例　中国文献学入門』（平凡社〈東洋文庫〉、2008年）
古勝隆一・嘉瀬達男・内山直樹訳注『目録学発微』（平凡社〈東洋文庫〉、2013年）

関連項目

目録学
章学誠

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