倉田文人

倉田 文人

倉田 文人（くらた ふみんど、1905年1月25日 - 1988年1月28日）は、多岐にわたるキャリアを持つ日本の映画人です。監督、脚本家、そしてプロデューサーとして、日本の映画界のみならず、戦中の一時期にはインドネシアにおいても活動を展開しました。大分県の速見郡山香町（現在の杵築市山香町）に生まれ、83年の生涯を映画製作に捧げました。

若き日と日活での礎

1929年（昭和4年）、倉田は映画の世界に足を踏み入れ、日活太秦撮影所の現代劇監督部に入社します。ここで木村次郎監督の薫陶を受け、同年公開された木村監督作品『名なし鳥』では助監督を務め、その名がクレジットされました。同じ撮影所には、後に盟友となる助監督の熊谷久虎（溝口健二や田坂具隆に師事）もおり、ここで出会ったことが、後の映画活動において重要な意味を持つことになります。

修行を積んだ倉田は、1932年（昭和7年）に谷幹一主演の『とかく女と言ふものは』でついに監督としてのキャリアを開始します。着実に経験を重ね、1934年（昭和9年）には、新たに開設された日活多摩川撮影所へと活躍の場を移しました。多摩川時代には多くの作品を手がけ、1938年（昭和13年）に公開された『北へ帰る』では監督としての評価を確固たるものにします。日活多摩川撮影所での最後の監督作品は、1940年（昭和15年）に自身が原作・脚本も兼任した『沃土万里』でした。

戦中、インドネシアでの映画指導

太平洋戦争が激化する中の1942年（昭和17年）、倉田は従軍し、戦地の一つであるインドネシアのジャカルタへと赴きました。そこで彼は「インドネシア映画芸術家連盟」の組織化に関わるなど、現地の文化・映画振興に尽力しました。1943年（昭和18年）に『セレベス新聞』が主催した座談会では、当時のジャワ映画会社理事長であった大宅壮一をはじめ、石本統吉、三橋哲夫、河野鷹思、飯田信夫、松井翠声、別枝篤彦、武田麟太郎といった各界の著名人とともに議論に参加しました。その席で倉田は、ジャカルタやスラバヤ、マランなどに複数の撮影所があるものの、技術者の大部分が華僑であり、インドネシア人の技術者がほとんどいないという現地の映画製作状況を具体的に報告しています。このような状況下で、彼は日本の立場から映画製作技術の指導を行うなど、文化面での重要な役割を果たしたと考えられます。日本映画社ジャカルタ撮影所のインドネシア映画部長として、1944年にはRd・アリフィエン監督の『南の願望』の製作を担当しました。この時期、ジャワの宣伝班には、小説家の阿部知二や漫画家の横山隆一、画家の小野佐世男なども滞在しており、多様な文化人が集まっていました。

戦後、日本映画界への復帰と藝研の挑戦

1945年（昭和20年）8月15日の終戦を経て、倉田は日本の映画界へと戻ります。戦後間もない1947年（昭和22年）には、東横映画で『女だけの夜』を監督し、商業映画製作を再開しました。さらに1948年（昭和23年）には、同じく東横映画で『五人の目撃者』を監督しています。

戦後の映画界が再編される中、1949年（昭和24年）には、かつて日活で出会った盟友である熊谷久虎を代表とする映画芸術研究所（通称：藝研、または芸研プロダクション）の設立に深く関わります。倉田は、俳優ブローカーの星野和平、映画監督の森永健次郎、俳優の佐分利信らとともに取締役として名を連ね、この新しい映画製作集団を牽引しました。藝研の設立第一作となったのは、倉田が「クラタ・フミンド」という名義を用いて監督・脚本を務めた『殿様ホテル』でした。続いて『地獄の笛』も同じ名義で手がけています。藝研は意欲的な活動を展開しましたが、1951年（昭和26年）に一度解散の憂き目を見ます。

しかし、藝研の歩みはそこで終わりませんでした。1955年（昭和30年）、かつて藝研の取締役だった星野和平が新東宝に取締役として入社したのを機に、藝研は第二期として活動を再開します。この再始動後、倉田が監督・脚本を手がけた『ノンちゃん雲に乗る』（1955年）が新東宝によって配給され、注目を集めました。この時期、藝研は記録映画の製作にも積極的に取り組んでいます。

その後も倉田は映画界での活動を続け、1956年（昭和31年）には新東宝で『ノイローゼ兄さんガッチリ娘』を監督するなど、コンスタントに作品を発表しました。また、1955年（昭和30年）公開の古賀聖人監督作品『柿の木のある家』では企画を担当しています。

晩年と家族

倉田 文人は、1988年（昭和63年）1月28日、満83歳でその生涯を閉じました。長きにわたり、多様な環境で映画製作に貢献した人生でした。なお、大映などで活躍した女優の倉田マユミは彼の娘にあたります。

倉田文人のキャリアは、助監督から監督、脚本、プロデューサー、企画まで多岐にわたり、また日本の主要な映画会社だけでなく、戦中には海外での映画製作指導にも関わるなど、激動の時代における映画人の足跡を示す貴重な事例と言えるでしょう。

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