倪嗣沖

倪嗣沖（げい しちゅう）：清末民初の軍人、安徽派の重鎮

倪嗣沖は、清朝末期から中華民国初期にかけて活躍した軍人であり、字は丹忱、もとの名は毓桂といいました。彼は、目まぐるしく変化する時代の中で、その軍事的才能と政治的嗅覚を活かし、安徽派と呼ばれる軍閥の一翼を担いました。甥には倪道烺がいます。

黎明期の台頭

科挙で秀才となった後、倪嗣沖は李鴻章の淮軍に加わりました。その後、袁世凱の新建陸軍に所属し、その才能を開花させます。1907年には、政府に献金することで知府候補となり、徐世昌が東三省総督であった際には、奉天提法使、黒竜江民政使兼巡防軍翼長に任命されました。しかし、徐世昌の後任として錫良が就任すると、倪嗣沖は汚職を理由に罷免され、挫折を味わうこととなります。1911年の辛亥革命が勃発すると、倪嗣沖は河南布政使・幇弁河南軍務を経て、安徽布政使に異動しました。

民国初期の躍進

1912年、中華民国が成立すると、倪嗣沖は武衛右軍翼長・督弁皖魯豫蘇四省交界事宜に任命され、軍人としての地位を確立しました。翌年には、安徽清郷督弁、皖北鎮守使、安徽護軍使、安徽都督兼民政長と要職を歴任し、その権勢を拡大しました。1914年には安武上将軍の位を授与され、督理安徽軍務として、安徽省における軍事と行政の両面を統括しました。

袁世凱の帝政とその後

1915年、袁世凱が皇帝即位を企図すると、倪嗣沖は他の北洋軍閥の軍人たちとともに袁世凱を支持し、一等公に封じられます。護国戦争では、最後まで袁世凱を支持しましたが、袁世凱の死後、倪嗣沖は段祺瑞率いる安徽派の中心人物となります。1916年7月には安徽省長に就任し、府院の争いでは段祺瑞を支持して黎元洪の追い落としを図ります。さらに、安徽派督軍による「十三省連合会（督軍団）」を組織し、その指導的立場を担いました。

張勲復辟と安直戦争

1917年、張勲が清朝復辟を試みると、倪嗣沖はこれを密かに支援しましたが、段祺瑞が張勲討伐を開始すると、手のひらを返したように南路討逆軍総司令として討伐に参加します。復辟失敗後、倪嗣沖は長江巡閲使兼安徽督軍として安徽派の中心にいましたが、1920年、安直戦争で段祺瑞が敗北すると、倪嗣沖も失脚し、政治の表舞台から姿を消しました。

晩年と死

失脚後、倪嗣沖は天津に隠棲し、1924年7月12日に病死しました。享年57歳。彼の生涯は、清末から民初という激動の時代を象徴しており、その政治的立ち位置と行動は、複雑な歴史的背景の中で理解する必要があります。彼の生涯は、中国近代史における軍閥政治の盛衰を語る上で、重要な一例と言えるでしょう。

参考文献

蕭棟梁「倪嗣沖」中国社会科学院近代史研究所『民国人物伝 第12巻』中華書局、2005年。ISBN 7-101-02993-0。
徐友春主編『民国人物大辞典 増訂版』河北人民出版社、2007年。ISBN 978-7-202-03014-1。
* 劉寿林ほか編『民国職官年表』中華書局、1995年。ISBN 7-101-01320-1。

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