働かざる者食うべからずとは？意味をやさしく解説

働かざる者食うべからず

「働かざる者食うべからず」という言葉は、労働の重要性を説く慣用句として広く知られています。この言葉は、怠惰な人間は食事をする権利がないという意味合いを持ち、働くことの必要性を強く訴えています。しかし、この言葉の解釈は、歴史や社会体制、価値観によって大きく異なってきました。ここでは、その多様な側面を詳しく見ていきましょう。

起源

この言葉の起源は、新約聖書の『テサロニケの信徒への手紙二』3章10節にある「働こうとしない者は、食べることもしてはならない」という一節に遡ります。この聖句は、働けるにも関わらず怠けている人を戒めるものであり、病気や障害、失業などで働けない人を対象としたものではないと解釈されています。この聖書の言葉が、「働かざる者食うべからず」という表現として広まりました。

社会主義における解釈

ソビエト連邦では、ウラジーミル・レーニンがこの言葉を社会主義の理念を表現するために用い、彼の著作『競争をどう組織するか？』で「『働かざるものは食うべからず』――これが社会主義の実践的戒律である」と述べています。レーニンは、この言葉を通して、労働者を酷使し不労所得を得る資本家を批判しました。ソビエト連邦の憲法にもこの言葉が明記され、社会主義社会における労働の重要性を強調しました。しかし、1977年に制定されたブレジネフ憲法では、この言葉は削除されています。

日本における解釈

日本では、この言葉は聖書やソ連の思想とは異なった解釈がされています。日本国憲法の「勤労の義務」は、弱者や貧困層の労働を念頭に置いたものであり、これは近世以来の日本社会の価値観が影響していると考えられています。

多様な解釈と現代への影響

このように、「働かざる者食うべからず」という言葉は、時代や社会体制によって様々な解釈がされてきました。その根底には、労働を尊ぶという価値観が存在する一方で、この言葉が「自己責任」や「格差社会」といった問題と結びつけられることもあります。

現代社会における考察

現代社会では、AI技術の発展などにより、労働の在り方が大きく変化しています。このような状況下で、「働かざる者食うべからず」という言葉をどのように捉えるべきなのでしょうか。障害や病気で働けない人、あるいはAIによって職を失った人たちをどのように社会は支えていくべきでしょうか。この言葉の多面性を理解し、現代社会に合った解釈を模索していくことが重要です。

参考文献

『用例でわかる故事ことわざ辞典』学研辞典編集部、2005年。ISBN 978-4053017994
井手英策『幸福の増税論－財政はだれのために』岩波書店、2018年。

働かざる者食うべからず