円筒土器

円筒土器とは

円筒土器は、縄文時代に東北地方北部から北海道南西部にかけて分布していた土器の一種です。平底の深鉢が円筒形を呈していることからこの名が付けられました。

概要

円筒土器は、バケツのような円筒状の形をしており、東北地方の北半分から北海道の南西部に分布しています。前期の円筒下層式土器と、中期の円筒上層式土器に大きく分けられ、さらにそれぞれが細かく分類されます。重要な点として、円筒の形を持つ土器すべてを指すのではなく、口縁がやや広がった円筒形の平底深鉢形土器を指します。

青森県の三内丸山遺跡や秋田県の池内遺跡、杉沢台遺跡、北海道のサイベ沢遺跡など、巨大集落があった時期の土器であり、口縁部に文様帯を設け、押圧縄文で装飾されているのが特徴です。

類似の平底円筒型土器は、遼河地域や朝鮮半島北部、アムール川流域、沿海州など、広い範囲で紀元前6千年紀頃から紀元前2千年紀ごろまでの間に発見されており、ハプログループN1を担い手とする遼河文明との関連が指摘されています。

円筒土器文化圏

円筒土器を特徴とする文化圏を、円筒土器文化圏と呼びます。

概略

この文化圏では、土器だけでなく、石器の種類（石篦など）、竪穴建物の形や構造、土偶や岩偶といった精神文化に関わる遺物にも共通性が見られます。縄文海進が最も進んだ縄文時代前期には、北海道のサイベ沢遺跡や青森県の三内丸山遺跡、秋田県の池内遺跡などの巨大集落が栄え、従来の縄文時代のイメージを覆すような発掘成果が相次いでいます。巨大な竪穴建物（超大型建物）の検出例としては、三内丸山遺跡のほかに秋田県の杉沢台遺跡などがあります。

縄文時代中期後半の円筒土器文化圏では、東北地方北部で大木8式-10式の土器が出土することが多く、大木式土器が東北地方南部を分布域としていた前期から中期中葉にかけて、中期後半に入って北側に分布域を広げたことがわかります。ただし、北海道には大木式土器は分布していません。

範囲

円筒土器文化圏の北側の境界線は、おおむね石狩平野であり、それ以北の道北・道東地方には北筒式土器文化圏が広がります。南側の境界線は、おおむね秋田市-田沢湖-盛岡市-宮古市を結ぶ線であり、その南側には大木式土器文化圏が広がります。

自然環境と生業

円筒土器文化圏は、津軽海峡のブラキストン線を挟んだ寒流域に位置します。ブナなどの落葉広葉樹林が濃密に分布する地域で、ミズナラやコナラなどのドングリ類やクルミに加え、クリやトチといった有用な堅果類が豊富です。また、サケ・マスの遡上が広くみられるため、当時としては非常に生活に適した環境であったと考えられます。漁撈では回転式離頭銛を用いた海獣の捕獲も行われていました。これは北筒式土器文化圏と共通する文化要素であり、海獣捕獲の道具については、江戸時代に至るまで北海道と歩調を合わせています。

北海道と本州の間には、東アジアの陸棲哺乳動物の重要な分布境界（ブラキストン線）がありますが、文化圏境界の形成には大きな役割を果たしていません。東北地方で北海道産の黒曜石が、北海道で新潟産の翡翠が大量に出土するなど、津軽海峡を渡る人々の交流と物資の輸送は非常に盛んでした。

その後

この文化圏では、縄文時代後期になると、秋田県鹿角市の大湯環状列石、青森県青森市の小牧野遺跡、秋田県北秋田市の伊勢堂岱遺跡など、「ストーンサークル」と呼ばれる祭祀遺跡が数多く作られました。晩期には、非常に精緻で工芸的水準の高い亀ヶ岡式土器や遮光器土偶、藍胎漆器が作られました。古代には、律令国家の外縁に位置づけられ、蝦夷と呼ばれた勢力の拠点となりました。律令国家側の前線は秋田城（秋田県秋田市）および志波城（岩手県盛岡市）であり、その北側には城柵は造営されませんでした。

補説

九州地方中部から南部にかけての縄文時代早期の土器群も円筒形を呈する特徴があり、円筒土器と呼ばれることがあります。

円筒土器は、縄文時代の文化や交流を知る上で、重要な手がかりとなる土器です。

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