出石神社

出石神社

出石神社（いずしじんじゃ）は、兵庫県豊岡市出石町宮内に位置する神社です。式内社であり、名神大社、そして但馬国の一宮として、古くから地域の人々に崇敬されてきました。現在では神社本庁の別表神社となっています。

概要

出石神社は、出石盆地の東端、山裾に静かに佇んでいます。かつてこの地は周辺の中心地でしたが、山名氏が拠点を移して以来、現在の出石市街地が発展しました。

この神社は、古事記や日本書紀に登場する新羅の王子、天日槍（アメノヒボコ）の伝説と深く関わっています。天日槍がもたらしたとされる八種神宝の神霊と、天日槍自身の神霊が祀られており、地元では開拓神としても信仰されています。中世・近世には但馬国の一宮として、この地域を代表する古社としての地位を確立しました。

社殿は1914年（大正3年）に再建され、豊岡市の指定文化財となっています。また、国指定重要文化財の脇差をはじめ、歴代領主の甲冑や古文書など、数々の文化財を所蔵しています。

社名

文献には様々な名称で記されています。

出石神 - 『但馬国正税帳』、『新抄格勅符抄』、『続日本紀』、『日本三代実録』など
伊豆志坐神社 - 『延喜式』神名帳
出石大社 - 『日本紀略』、『但馬国大田文』
伊豆志社 - 「神祇官諸社年貢注文」
出石大神宮 - 出石神社蔵の銅印

現在では、「一宮さん」という愛称で親しまれています。

祭神

現在の祭神は以下の通りです。

伊豆志八前大神（いづしやまえのおおかみ）
天日槍命（あめのひぼこのみこと）

『延喜式』神名帳には8座の神々が記されており、かつては「正一位出石大明神、二位の后の宮、七所の王子」とも称されていました。現在は、天日槍がもたらした八種神宝の神霊を「伊豆志八前大神」として祀り、天日槍の神霊を併祀しています。

古典史料の記述

出石神社の祭祀は、古事記や日本書紀に記される天日槍伝説と深く結びついています。

古事記: 天日槍は新羅の王子で、妻を追って日本に渡来しましたが、難波に上陸できず、但馬国に留まりました。そこで多遅摩之俣尾の娘と結婚し、子孫をもうけました。天日槍は「玉津宝」と呼ばれる八種の神宝を持ち込み、それらは「伊豆志之八前大神」と称されています。
日本書紀: 天日槍は垂仁天皇の時代に渡来し、七つの宝物を但馬国に納めたとされています。また、天皇に神宝を献上した後、居住地として提示された場所を辞退し、但馬国に定住したと記されています。

これらの伝説は、天日槍が渡来人であり、出石の地を開拓したことを示唆しています。

考証

天日槍伝説は、一般的に一人の人物の物語ではなく、朝鮮系集団の渡来を象徴する説話とされています。特に「天日槍」という神名は、「日矛」という祭祀具の人格化と見なされ、半島系の日神信仰を持つ渡来系一族の伝承と考えられています。

出石地域では、天日槍が豊岡盆地の水を流したという「蹴裂伝説」が広く知られています。この伝説は、天日槍ないしその奉斎氏族による出石の開拓と関連があると考えられています。

歴史

創建

創建は不明ですが、『一宮縁起』によると、谿羽道命と多遅麻比那良岐命が天日槍を祀ったのが始まりとされています。実際の創祀は、天日槍を奉じる渡来人一族が、その宝物を祀ったことに由来すると考えられています。

古代

文献には、天平9年（737年）の『但馬国正税帳』に「出石郡出石神戸」に関する記述が見られます。また、『新抄格勅符抄』には、当時の「出石神」に13戸の神戸が充てられていたことが記されています。

国史には、「出石神」の神階が昇叙された記録があります。また、『延喜式』神名帳には、名神大社として記載されています。

中世

中世には、但馬国一宮としての地位を確立しました。『但馬国大田文』によると、社領田は141町余りと、他の神社を大きく上回っていました。

神主職には長尾氏一族が任命されましたが、戦国時代には山名氏の内紛によって社殿が焼失。その後、再建されたものの、豊臣秀吉による但馬平定により、社領を没収され衰退しました。

近世

江戸時代には、出石藩主の小出氏や仙石氏から崇敬を受けました。宝暦7年（1757年）には、八木田源八郎が諸国を勧進し、社殿の造営が行われました。

近代以降

明治維新後、国幣中社に列せられましたが、明治43年（1910年）の火災で社殿を焼失。大正3年（1914年）に再建されました。現在は、神社本庁の別表神社となっています。

社領

『新抄格勅符抄』によると、神戸として13戸が充てられていました。

『但馬国大田文』には、社領田が141町余りあったことが記されています。

境内

境内の広さは約22,000平方メートルです。現在の社殿は大正3年（1914年）の再建によるもので、本殿、幣殿、祝詞殿、拝殿などが立ち並びます。これらの社殿は豊岡市指定有形文化財です。

境内には、禁足地や沖野忠雄の顕彰碑などもあります。また、境内から約500メートル西の鳥居地区では、旧鳥居の残欠が発見されており、かつての神域の広大さを物語っています。

摂末社

境内には、以下の4つの末社があります。

比売神社（祭神：麻多烏）
稲荷神社（祭神：宇賀能魂）
市杵島比売神社（祭神：市杵島比売命）
菅原神社（祭神：菅原神）

祭事

主な祭事は以下の通りです。

正月祭
三日祭
立春祭
春祭
節句祭
例祭
新嘗祭

特に、春祭で行われる「幟まわし」は、天日槍が瀬戸を切り開いた様子を表すとされ、豊岡市指定無形民俗文化財に指定されています。

文化財

重要文化財（国指定）

脇差 銘但州住国光

豊岡市指定文化財

出石神社社殿
出石大神宮銅印
仙石政明具足
小出公馬印
仙石秀久馬印
経文胴の甲冑
猿猴の甲冑
後村上天皇綸旨
蓮華王院院宣
家則・家朝補任状・軍忠状 他2
出石神社旧鳥居残欠

豊岡市指定無形民俗文化財

幟まわし

関係地

出石地域には、天日槍に関連する神社がいくつか分布しています。

伊豆神社
多遅麻神社
大歳神社

現地情報

所在地：兵庫県豊岡市出石町宮内99

交通アクセス：

バス: 豊岡駅または江原駅から全但バス「鳥居」バス停下車、徒歩7分
車: 舞鶴若狭自動車道 福知山ICから約40km、播但連絡道路 和田山ICから約25km

周辺：此隅山城跡

出石神社は、古代から中世、そして現代に至るまで、地域の歴史と文化を伝える重要な存在です。その歴史的背景と数々の文化財は、訪れる人々を魅了し続けています。

もう一度検索