劉毅 (東晋)

劉毅（りゅう き）

劉毅（生年不詳 - 義熙8年10月22日（412年12月11日））は、東晋時代の武将です。字は希楽（きらく）、小字は盤龍（ばんりゅう）。沛国沛県（現在の安徽省宿州市一帯）の出身です。

桓玄（かん げん）が帝位を簒奪した際、劉裕（りゅう ゆう）や何無忌（か むき）らと共に反乱を起こし、桓玄を討ちました。その後、盧循（ろ じゅん）の乱の鎮圧にも貢献し、衛将軍・荊州刺史（けいしゅうしし）に任命されました。しかし、劉裕に対する不満を抱いていたことが劉裕に察知され、攻められて敗死しました。

生涯

劉毅は特に大きな志を持たず、家業を継ぐこともありませんでした。最初は徐州（じょしゅう）で官吏として働き、その後、桓弘（かんこう）の命令で軍に従事しました。

義勇軍結成

元興2年（403年）、大将軍の桓玄が東晋の安帝（あんてい）から帝位を奪い、新たに楚（桓楚）を建国しました。翌元興3年（404年）、北府軍（ほくふぐん）の将軍であった劉裕が、同僚の何無忌らと共に桓玄を討つ兵を挙げると、かねてから何無忌と親交があった劉毅もこれに加わりました。

この時、何無忌から「桓氏一族の力は強大だが、本当に倒せるのか？」と尋ねられた劉毅は、「強いか弱いかは天下が決めることであり、道義に背けば強者も弱者となる。全ては、大事を成せるリーダーがいるかどうかにかかっている」と答えました。さらに何無忌が「天下に英雄はいない」と言うと、劉毅は「劉裕がいるではないか」と答えたそうです。何無忌は笑ってそれ以上は答えませんでしたが、このやり取りを経て、劉毅を計画に引き入れることにしました。

挙兵を決意した劉裕は、劉毅に異母弟の劉道規（りゅう どうき）や孟昶（もう ちょう）らと共に江北へ向かい、青州刺史の桓弘を殺害して広陵（こうりょう）を制圧するように命じました。2月丙辰日（3月25日）、劉毅らは計画を成功させ、同時に挙兵した劉裕も京口（けいこう）の制圧に成功しました。翌日、劉毅は劉裕と合流し、劉裕の指揮下で建康（けんこう）を攻撃しました。

桓玄の従兄弟にあたる桓謙（かん けん）（桓沖（かん ちゅう）の子）の軍が敗れ、桓玄が都を捨てて逃走すると、冠軍将軍（かんぐんしょうぐん）・青州刺史に任じられた劉毅は、何無忌や劉道規らの軍を率いて桓玄を追撃しました。桓玄は西の江陵（こうりょう）へと逃れましたが、何無忌の軍がこれを破り、尋陽（じんよう）に進駐しました。劉毅は自ら兵を率いて再編成された桓玄の軍を討つべく進軍し、5月癸酉日（6月10日）に桓玄の軍と崢嶸洲（そうろうしゅう）で遭遇しました。劉毅は風向きを利用して火計を実行し、精鋭軍を派遣して攻撃させ大勝利を収めました。桓玄は再び江陵へと退き、敵将の郭銓（かく せん）を降伏させました。その後、桓玄軍の劉統（りゅう とう）・馮稚（ふう ち）らが尋陽を落とすと、劉毅は劉裕の従兄である劉懐粛（りゅう かいしゅく）を派遣してこれを奪還しました。

桓氏掃討

桓玄は安帝を伴い江陵を放棄してさらに西の蜀（しょく）の地へと逃れましたが、5月壬午日（6月19日）、子の桓昇（かん しょう）とともに益州都護（えきしゅうとご）の馮遷（ふう せん）によって殺害されました。劉毅ら反乱軍は江陵で安帝を迎えて復位させるなど一時的な平穏を過ごしましたが、その数日後、桓玄の甥にあたる桓振（かん しん）が桓楚の残党を率いて挙兵し、再び安帝を奪いました。何無忌らが進攻を試みるも敗北し、劉毅も残った軍勢を集めて尋陽へと撤退しました。

江陵陥落の責任を負って劉毅は将軍位を解任されましたが、すぐに何無忌らの対桓振軍戦線の都督（ととく）に任じられました。桓振軍の桓謙と馮該（ふう がい）はそれぞれ魯山城（ろざんじょう）と偃月塁（えんげつるい）を防備していましたが、劉毅は何無忌・劉道規の両者に兵を二手に分けて進攻させ、二城を陥落させました。12月に巴陵（はりょう）を制圧した劉毅の軍は非常に統制が取れており、行軍時には現地の住民に危害を加えることがなかったため、劉裕は劉毅を兗州刺史（えんしゅうしし）に任命しました。

義熙元年（405年）1月、劉毅は桓振軍の討伐に当たっていた南陽郡太守（なんようぐんたいしゅ）の魯宗之（ろ そうし）の援軍として江陵に向かい、馮該を撃破し桓謙を敗走させ、残った卞範之（べん はんし）ら桓玄の元部下たちを処刑しました。3月、桓振の反撃に遭い荊州刺史の司馬休之（しば きゅうし）が敗走し、劉懐粛の軍が桓振軍と膠着状態になると、劉毅は広武将軍（こうぶしょうぐん）の唐興（とう こう）を援軍に向かわせ、ついに桓振を討ち取りました。その後、劉毅は桓楚の残党を掃討し、撫軍将軍（ぶぐんしょうぐん）および豫揚二州都督（よようにしゅうととく）に任じられ、さらに翌義熙2年（406年）には晋室復興の功により南平公（なんぺいこう）に封じられました。

盧循の乱

義熙6年（410年）、五斗米道（ごとべいどう）の一派である盧循の乱が発生すると、この討伐に当たった何無忌が戦死するなど朝廷には激震が走りました。劉毅は討伐軍の指揮を執る予定でしたが、出兵時に病にかかりました。その後、南燕（なんえん）討伐から帰還した劉裕から、回復を待って出兵するなら長江上流の要地の指揮権を譲り渡すという内容の手紙を受け取りました。劉毅は、自分の軍才が劉裕より優れていると思っていたにもかかわらず、このような忠告を受けたことに激怒し、自ら20,000人の水軍を率いて出兵しました。

盧循軍の武将であった徐道覆（じょ どうふく）は劉毅の出兵を知ると、盧循と合流して東下し、全面決戦を決意しました。5月戊午日（6月24日）、両軍は桑落洲（そうらくしゅう）で衝突しましたが、劉毅の軍は大敗し、劉毅自身も船を捨てて数百人余りの兵士と共に徒歩で逃亡しました。残りの兵士たちは捕らえられ、捨てられた荷物は山積みになるほどだったと言われています。

敗残兵は蛮族の居住地を通過しましたが、うち7～8割の兵士は飢えで命を落とし、劉毅も羊邃（よう すい）の助けを得てようやく逃げ延びることができました。回復後、劉毅は劉裕から慰めを受け官位を戻され、劉裕は盧循の討伐に成功しました。これを知った劉毅は、自ら願い出て将軍位を辞しました。

滅亡

義熙8年（412年）4月、劉毅は荊州・寧州・秦州・雍州の四州都督（ししゅうととく）および河東郡・河南郡・広平郡の司隷（しれい）などの役職に異動となりました。当時、荊州の世帯数は10万に満たず、設備も不足していたため、彼は交広二州都督（こうこうにしゅうととく）も兼任することを申し出ました。

また劉毅は、人事刷新のために江陵へ向かい、親友の郗僧施（ち そうし）を南蛮校尉（なんばんこうい）に任じ、江州（こうしゅう）の兵士10,000人余りを豫州（よしゅう）の文武百官として取り立てて温存し、さらに重病を理由に従弟の劉藩（りゅう はん）を自身の代理として兗州刺史に任じるよう要請しました。

この動きを見た劉裕は劉毅に謀反の疑いありとして、上奏して劉毅の罪状を並べ立て、安帝の名の下に9月己卯日（11月1日）、劉毅・劉藩・尚書左僕射（しょうしょさぼくや）の謝混（しゃ こん）の三名に対し自害を命じました。

9月己丑日（11月11日）、劉裕は自ら兵を率いて江陵へ進軍し、王鎮悪（おう ちんあく）と蒯恩（かい おん）を先陣に劉毅討伐の兵を挙げました。10月己未日（12月11日）、王鎮悪は100隻の戦艦を率いて長江を遡り豫章口（よしょうこう）に上陸し、使者を送って劉裕の直筆の詔書を提示しましたが、怒った劉毅はこれを読まずに燃やして破棄しました。

劉毅は数千の精兵を率いて内城を守りましたが、兵士たちは劉裕の到来を聞くと戦意を喪失しました。王鎮悪の軍が江陵城の東門から討ち入って火を放つと城の防備は瓦解し、劉毅は300人余りの兵と共に北門から脱出しました。城外で王鎮悪の軍を迎え撃ちましたが敗北し、疲弊していた蒯恩の軍を破って、何とか外城の東門を通過して江陵から逃れることに成功し、江陵から20里余りの場所にある牛牧寺（ぎゅうぼくじ）に逃げ込みました。

僧侶たちは劉毅の素性を知りませんでしたが、かつてその寺の住職を務めた昌という僧侶が、桓玄の従弟の桓蔚（かん うつ）を匿ったために劉毅によって殺害されたことがありました。そのため、寺は劉毅の宿泊を断りました。絶望した劉毅は「自分の行いが、ここで帰ってくるとは！」と言い残して首を吊って自殺しました。遺体は江陵に送られて斬首され、その子弟なども全て処刑されました。

脚注

参考文献

『晋書』巻85 劉毅伝
『宋書』武帝紀 上・中
* 『資治通鑑』巻112 - 巻116

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