北原友次

北原友次：艇界を席巻した「インの鬼」

北原友次（きたはら ともつぐ）は、1940年5月2日生まれ、岡山県出身の元ボートレーサーです。1959年のデビュー以来、その卓越した技術と勝負強さで数々の記録を打ち立て、艇界にその名を轟かせました。

デビューからトップレーサーへ

北原は、デビュー当初からその才能の片鱗を見せていました。1959年春、加藤峻二と共にデビューすると、デビュー戦で臆することなくインコースを主張する大胆さで周囲を驚かせました。1962年からは77期連続でA級を維持し、この記録は2020年に今村豊に破られるまで、長らくボートレース界の金字塔として輝いていました。

1964年には、第11回全日本選手権競走（平和島）でSG初制覇を達成。同年代のライバルであった彦坂郁雄とは、常に激しい競り合いを繰り広げ、ボートレース界を大いに盛り上げました。1970年の第16回全国地区対抗競走（常滑）では、彦坂がSG初優勝を飾りましたが、2着は連覇を狙っていた北原でした。1973年の第20回全日本選手権競走（住之江）では、転覆艇を避けようとした石原洋に激しく接触。このアクシデントを乗り越え、劇的な逆転勝利を飾っています。1975年には、第2回笹川賞競走（常滑）と第21回モーターボート記念競走（下関）を制覇。この年は、野中和夫の不調や彦坂の低迷も重なり、石原洋や林通といった岡山勢が四大特別競走を独占する結果となりました。

グランドスラム達成と数々の記録

1978年、北原は第13回鳳凰賞競走（丸亀）を制し、ボートレース界初の「グランドスラム」を達成しました。当時のレースは、新艇の影響でインコースが非常に有利でした。北原は、6号艇からのスタートながら、1号艇の位置に入り、他艇を寄せ付けない完璧なレース運びで勝利を掴みました。この時、4着にはライバルである彦坂が入っており、奇しくも完全優勝を目前にしていた彦坂は、北原のグランドスラム達成の陰に隠れる形となりました。

1988年には、足首の骨折や胸膜炎で戦線を離脱しましたが、見事に復帰。1992年2月には、芦屋競艇場で全24場制覇を達成しました。1995年には、江戸川競艇場でのレースに出場し、通算勝利数を更新する偉業を達成。この時、北原は「神様」と呼ばれた倉田栄一の持つ通算3088勝の記録を塗り替えました。特に、最終日の11レースでは、6号艇ながらインコースを取り切り、トップスタートからの逃げを決め、観客を熱狂させました。

1998年8月には、びわこ競艇場で最後の優勝を飾り、2001年3月には児島競艇場で最後の優出を果たしました。2005年5月には、児島競艇場で最後の1着を飾り、6月には尼崎競艇場で現役最後のレースを終えました。通算3417勝、優勝回数46回（うちGI39回）、通算勝率6.74という記録は、まさに不滅の記録として、ボートレース史にその名を刻んでいます。2007年には、ボートレースの殿堂入りを果たしました。

エピソードと人物像

北原は、太らない体質で、レース期間中でも食事を気にする様子はなかったそうです。1977年の全日本選手権競走（福岡）では、選手食堂で豚骨ラーメンとご飯を平らげていたというエピソードが残っています。また、グランドスラムを達成した際には、瀬戸大橋が開通していなかったため、釣り船で丸亀に向かったそうです。その際、仲間が船の故障に備えて同行し、帰りは優勝賞金800万円を青いボストンバッグに入れて、応援に来ていたファンの船に便乗して帰ったという逸話も残っています。

北原は、どのような状況からでもインコースを狙う勝負師であり、「インの鬼」として恐れられました。その理由を問われた際には、「競艇は左回りじゃ！」と答えたそうです。左回りのレースで最も有利なインコースを常に狙うという、シンプルかつ理にかなった考え方が、彼の強さの秘訣であったと言えるでしょう。

獲得タイトル

北原友次の主な獲得タイトルは以下の通りです。太字は四大特別競走を含むSG級レースです。

1963年 - 福岡開設10周年記念競走
1964年 - 第11回全日本選手権競走（平和島）、宮島開設10周年記念競走、丸亀開設12周年記念競走、多摩川開設10周年記念競走
1965年 - 住之江開設9周年記念競走、尼崎開設13周年記念競走
1966年 - 住之江開設10周年記念競走
1967年 - 下関開設13周年記念競走
1968年 - 常滑開設15周年記念競走
1969年 - 第15回全国地区対抗競走（福岡）、中国地区選手権競走（下関）
1970年 - 丸亀開設18周年記念競走、住之江開設14周年記念競走
1971年 - 若松開設19周年記念競走
1972年 - 徳山開設19周年記念競走、常滑開設19周年記念競走
1973年 - 第20回全日本選手権競走（住之江）、福岡開設20周年記念競走、住之江開設17周年記念競走、津開設21周年記念競走
1974年 - 唐津開設21周年記念競走、浜名湖開設21周年記念競走、徳山施設改善記念特別競走
1975年 - 第2回笹川賞競走（常滑）、第21回モーターボート記念競走（下関）、高松宮記念特別競走
1977年 - 中国地区選手権競走（徳山）、宮島開設23周年記念競走、丸亀開設25周年記念競走、戸田開設20周年記念競走
1978年 - 第13回鳳凰賞競走（丸亀）
1979年 - 中国地区選手権競走（児島）、児島開設27周年記念競走、丸亀開設27周年記念競走、三国開設26周年記念競走
1983年 - 宮島施設改善記念特別競走、児島開設31周年記念競走
1984年 - 第30回モーターボート記念競走（若松）
* 1987年 - 中国地区選手権競走（児島）、宮島開設33周年記念競走、三国開設34周年記念競走

北原友次は、その卓越した技術と不屈の精神で、ボートレース界に多大な功績を残しました。彼の名は、これからも長く語り継がれることでしょう。

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