千々石ミゲル

千々石ミゲル：信仰と葛藤の生涯

千々石ミゲル（1569年? - 1633年?）は、安土桃山時代から江戸時代初期にかけて生きた武士であり、キリシタンでもありました。彼は、天正遣欧使節としてヨーロッパに派遣された4人の少年使節の一人として知られています。洗礼名はミゲル、本名は千々石紀員、棄教後は千々石清左衛門と名乗りました。

生涯

ミゲルは、肥前有馬氏の家臣である千々石直員の子として生まれました。幼少期に父を亡くし、大村純忠の庇護のもとで育ちました。1580年、洗礼を受けミゲルの洗礼名を名乗り、有馬のセミナリヨで神学を学び始めます。

天正遣欧使節

1582年、イエズス会司祭アレッサンドロ・ヴァリニャーノの提案により、ミゲルは原マルティノ、伊東マンショ、中浦ジュリアンと共に天正遣欧使節としてヨーロッパへ派遣されます。彼らは教皇グレゴリウス13世に謁見し、フェリペ2世をはじめとする各国の王侯貴族から歓迎を受けました。ヨーロッパでの見聞は、ミゲルに大きな影響を与えたと考えられています。

棄教

1590年に帰国後、ミゲルは豊臣秀吉に仕官を勧められますが、神学の道を志して断ります。しかし、次第に神学への熱意を失い、病弱であったことも重なり、教会との距離を置くようになります。1601年、ついにキリスト教の棄教を宣言し、イエズス会から除名されます。その後、千々石清左衛門と改名し、大村藩士として仕え、領地を与えられました。

棄教後、ミゲルは大村喜前の前でキリスト教布教を批判し、彼の棄教を後押ししました。また、領内での布教を求めるドミニコ会の提案を拒否するなど、反キリスト教的な行動をとりました。かつて共にヨーロッパで学んだ仲間たちが教会への忠誠を誓う中で、ミゲルの変節は宣教師たちの威信を大きく傷つけました。

しかし、大村藩内ではキリスト教信仰が根強く残っており、ミゲルはキリシタンから「裏切り者」として命を狙われるようになります。晩年は長崎へ移り住み、その後の消息は謎に包まれています。

墓所発掘調査

2003年、ミゲルの領地であった伊木力で、子息の千々石玄蕃による墓所と思われる石碑が発見されました。2017年以降、墓所の発掘調査が行われ、ミゲルのものと思われる木棺やロザリオなどの遺物が出土し、棄教説を覆す可能性が報じられました。

しかし、その後の調査で、木棺内の埋葬者はミゲルの妻である可能性が高まりました。2021年の第4次発掘調査で、新たな墓坑からほぼ全身の人骨が発見され、2022年4月には、この埋葬施設跡が千々石ミゲル夫妻の墓であると確定されました。天正遣欧少年使節の参加者で墓が発見されたのはミゲルが初めてです。

信仰と葛藤

ミゲルの生涯は、信仰と政治、そして自己のアイデンティティの間で揺れ動いた複雑なものでした。彼はヨーロッパでキリスト教に触れ、その教えに感銘を受けた一方で、キリスト教徒による奴隷制度を目撃し、疑問を抱きました。帰国後、彼は棄教し、反キリスト教的な行動をとりますが、墓所から発見されたロザリオなどの遺物は、彼が晩年まで信仰を保っていた可能性を示唆しています。

千々石ミゲルは、単なる「棄教者」としてではなく、激動の時代を生き、自らの信念を貫いた複雑な人物として、再評価されるべきなのかもしれません。

2024年12月、諫早市は彼の墓所を市文化財（史跡）に指定し、その歴史的価値を永く伝えることとしました。

もう一度検索