南加瀬

南加瀬（みなみかせ）

川崎市幸区の西部に位置する南加瀬は、現在、南加瀬1丁目から南加瀬5丁目として行政区画が定められ、全域で住居表示が実施されています。町域は主に住宅地として利用されていますが、一部には農地や工場も混在しており、多様な様相を呈しています。この地域は幸区日吉出張所の管轄区域における中心的な役割を担っています。

地理と環境

南加瀬は、北加瀬、矢上、小倉といった幸区内の町に加え、鶴見川を隔てて横浜市鶴見区の駒岡や上末吉、矢上川を隔てて横浜市港北区の日吉など、近隣の自治体とも接しています。地域内には標高約35メートルの加瀬山や、川崎市内で唯一の動物園である夢見ヶ崎動物公園があります。南には神奈川県立三ツ池公園方面、北には武蔵小杉方面の街並みを望むことができるなど、比較的標高の高い場所からの眺望も魅力の一つです。ただし、加瀬山周辺の一部は急傾斜地崩壊の危険区域に指定されています。

また、地域は越路、夢見ヶ崎、中央、原、江川、辻の六つの町内会によって構成されており、これらの町内会の境界は行政上の丁目とは異なります。主要な河川としては矢上川（鶴見川水系）と鶴見川が町域を流れています。かつて小倉との境付近には小倉用水が存在しましたが、現在は地下化されています。昭和期には一時的に矢上川から現在の夢見ヶ崎小学校前を経由し、小倉用水へ繋がる用水路も存在しました。

歴史と伝説

南加瀬の地には古くから人々の営みがありました。加瀬山周辺からは夢見ヶ崎古墳群（加瀬台古墳群）や南加瀬貝塚など、複数の古代遺跡が発見されています。室町時代には、名将として知られる太田道灌がこの地に城を築こうと計画したという伝説が残されています。野営中に「白い鷲が兜を持ち去り、南西の地へ飛び去った」という夢を見た道灌は、この夢を不吉な前兆と感じて築城を諦めたと伝えられています。この伝説が「夢見ヶ崎」という地名の由来とされ、現在も地名や地域の名称として語り継がれています。

行政区画の変遷

明治時代に入り、1889年には橘樹郡南加瀬村が近隣の鹿島田村や小倉村などと合併し、日吉村の一部（大字南加瀬）となりました。1937年には日吉村が横浜市と川崎市に分割編入され、南加瀬の大部分は川崎市に組み込まれましたが、一部は横浜市（現在の港北区日吉の一部）となりました。その後、1972年に川崎市が政令指定都市に移行した際には、新設された幸区の大字となります。1975年には横浜市港北区の一部を編入するなど境界の調整が行われ、1985年11月5日に住居表示が実施されたことで、大字南加瀬は廃止され、現在の南加瀬1丁目から5丁目が成立しました。

地域社会と生活

南加瀬は行政施設、教育機関、公園などが充実し、住民の生活を支えています。幸区役所日吉出張所や幸図書館・市民館日吉分館が入居する幸区日吉合同庁舎をはじめ、加瀬クリーンセンター、加瀬水処理センターといった環境・上下水道関連施設、幸消防署加瀬出張所、幸警察署日吉交番・南加瀬交番などが地域の安全・安心を担っています。教育施設としては、川崎市立南加瀬中学校、南加瀬小学校、夢見ヶ崎小学校といった公立学校の他、複数の幼稚園や保育園があり、子育て世代にとっても暮らしやすい環境です。学区は行政上の丁目ではなく、町内会の境界を基準に定められている点が特徴です。地域住民の交流の場として、六つの町内会それぞれに会館が設けられています。また、川崎南加瀬郵便局や川崎信用金庫、JAセレサ川崎の支店もあり、生活に必要な金融・郵便サービスも利用できます。

公園と自然

地域内には夢見ヶ崎動物公園以外にも多数の公園が点在し、住民の憩いの場となっています。夢見ふれあい公園、南加瀬五反公園、南加瀬第一公園（原町公園）、南加瀬江川公園、南加瀬けやき公園、南加瀬下町公園、南加瀬辻公園、南加瀬辻中央公園、加瀬ふれあいの広場などがあり、子どもたちの遊び場や散策スポットとして親しまれています。寺社としては、天照皇大神や長弘寺があります。加瀬山にあるとされる寺社（了源寺、熊野神社、富士浅間神社）は、現在は北加瀬に位置しています。

交通アクセス

南加瀬には鉄道駅は町域内にありませんが、新川崎駅、鹿島田駅、矢向駅、元住吉駅、日吉駅、綱島駅など、複数の駅が最寄りとなり、多くの場合、徒歩15分から30分程度でアクセス可能です。鉄道利用の際はこれらの駅を利用することになりますが、地域の交通の中心はバスです。川崎市バス、臨港バス、東急バスの3社が乗り入れており、川崎駅西口、元住吉、武蔵小杉駅、新川崎駅、鶴見駅西口、日吉駅東口、新綱島駅など、多方面への路線が運行されています。特に川崎駅方面や元住吉・小杉駅方面への便数は多く、地域住民の重要な足となっています。中心的なバス停留所は「江川町」で、ここから各方面への路線が出ています。幸区日吉合同庁舎の最寄り停留所は「夢見ヶ崎動物公園前」です。かつて存在した「南加瀬」という名称のバス停は、現在はありません。主要な道路としては、県道14号鶴見溝口線（尻手黒川道路と重複）や県道111号大田神奈川線が町域を通っています。

その他

南加瀬の郵便番号は212-0055で、川崎港郵便局が担当しています。警察の管轄は幸警察署です。2002年夏には、鶴見川の鷹野大橋付近にアゴヒゲアザラシのタマちゃんが現れ、話題となりました。住宅地の地価は、2025年（令和7年）1月1日時点の公示地価で、南加瀬2-36-5の地点が30万円/m²、南加瀬5-31-24の地点が27万8000円/m²となっています。

もう一度検索