南小柿洲吾

南小柿 洲吾（みながき しゅうご）

弘化2年（1845年）2月5日に生まれ、大正6年（1917年）10月27日にその生涯を終えた南小柿洲吾は、日本の医師であり、またプロテスタントの牧師として近代日本の夜明けを歩んだ人物です。彼が残した多くの文書は、当時の社会やキリスト教の発展を知る上で極めて貴重であり、現在も横浜開港資料館に大切に収蔵・展示されています。

医師としての出発

南小柿洲吾は、美濃国（現在の岐阜県南部）で蘭方医として知られた父、南小柿浦祐宗宅の子として生を受けました。幼い頃から医学に触れる環境で育ち、成長すると父の医業を継ぎ、山城国淀藩（現在の京都府南部）の藩医を務めることとなります。この医師としての経験は、後の彼の人生においても人々の心身の健康を深く慮る姿勢へと繋がっていきました。

キリスト教との出会い

明治7年（1874年）6月、南小柿洲吾の人生に大きな転機が訪れます。カナダ・メソジスト教会の宣教師、ジョージ・コクランより洗礼を受け、キリスト教の信仰を持つに至ったのです。その後、宗派を長老派教会へと移り、横浜で布教活動を行っていた著名な宣教師ジェームス・カーティス・ヘボンによって基礎が築かれ、後にヘンリー・ルーミスが仮牧師を務めた横浜第一長老教会（現在の日本基督教団横浜指路教会）において、初代の長老という重責を担うことになりました。これは、彼が信仰の世界においても、その人格と能力を高く評価されていた証と言えるでしょう。

横浜での活動と牧師への道

明治8年（1875年）、南小柿は信仰をさらに深めるため、石原保太郎、原猪作、篠原誾三、角谷省吾といった同志たちと共に、築地六番神学校の入学試験に挑みます。そして明治9年（1876年）9月11日、彼は横浜市住吉町2丁目の土地を私財を投じて購入し、その地に住吉教会（現在の日本基督教団横浜指路教会）の会堂を建設しました。自らが設立に深く関わったこの教会の牧師として、彼は横浜における伝道と牧会活動に尽力しました。

全国へ広がる影響

横浜での活動にとどまらず、南小柿洲吾は日本のキリスト教界全体に影響を与えました。明治16年（1883年）5月には、全国のキリスト教信徒が集まる第三回全国基督教信徒大親睦会に幹部の一人として参加。この集会では、植村正久や内村鑑三といった、当時を代表するキリスト教指導者たちと共に写真に収まっており、彼の存在感を示すエピソードとなっています。

各地での牧会

横浜を離れた後も、南小柿は精力的に伝道と牧会活動を続けました。群馬県高崎で伝道を行った後、名古屋教会の牧師に就任。さらに明治24年（1891年）7月20日には、南長老教会の宣教師C・K・カミングの招きに応じ、日本基督教会（現在の日本キリスト教会）岐阜教会の初代牧師として故郷に近い岐阜の地で伝道に尽くしました。しかし、明治31年（1898年）には日本美普教会へと転籍し、その後は静岡、江尻、そして東京の目白台など、様々な教会で牧師を歴任しました。

晩年と遺産

多岐にわたる地で牧師としての務めを果たした後、南小柿洲吾は東京でその生涯を終えました。彼の墓所は東京の雑司ヶ谷にあります。医師として出発し、激動の明治時代にプロテスタントの牧師として多くの教会を築き、また指導者として活躍した彼の生涯は、近代日本の精神史を知る上で欠かせません。特に、横浜開港資料館に収蔵されている彼の関係資料は、当時の社会情勢やキリスト教の受容過程を示す貴重な一次史料として、今も多くの研究者や歴史愛好家にとって重要な手がかりとなっています。

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