司馬榦

司馬榦（しば かん）

司馬榦（232年 - 311年）は、西晋時代の皇族であり、字を子良と称しました。彼は司馬懿の六男として、母である張春華から生まれ、司馬師、司馬昭とは同母兄弟にあたります。また、満寵の娘を妻としました。

生涯

魏・西晋時代

魏の時代には、安陽亭侯、平陽郷侯に封じられ、散騎常侍、撫軍中郎将といった官職を歴任しました。咸熙元年（264年）に五等爵が創設されると、定陶伯に改封されています。

泰始元年（265年）、甥にあたる司馬炎（武帝）が禅譲を受け西晋の皇帝となると、司馬榦は平原王に封じられ、1万1300戸の食邑、鼓吹と馬2匹を下賜されるなど、厚遇を受けました。侍中の服も加えられました。武帝は当初、一族の諸王を封国へ赴かせましたが、司馬榦は病弱であり、精神的にも純粋で欲が少なかったため、特例として都に留め置かれました。その後、光禄大夫を拝命し、侍中を加官、特別に金章紫綬を授けられ、その序列は三公に次ぐほどでした。恵帝が即位すると、更に左光禄大夫に昇進し、剣履上殿と入朝不趨を許されるなど、非常に高い地位を与えられました。

奇行

司馬榦は自ら政務を執り行うことはありませんでしたが、人事においては才能を重視しました。爵位や俸禄を与えられても、まるで無頓着であるかのように振る舞い、与えられた秩禄や布帛を山積みにして腐らせてしまうこともありました。また、長雨が続いた際には、牛車を外に出して露車（幌のない車）を中に入れるなど、常識では理解しがたい行動も見られました。ある者がその理由を尋ねると、「覆いのないものは中に入れたほうがいい」と答えたと伝えられています。朝臣が訪問して名前を伝えても、司馬榦は車馬を門外に留めさせ、一晩中会わないこともありました。しかし、天子に拝謁する際には、穏和で恭順な態度を取り、非の打ち所がなかったとされています。愛妾が亡くなった際には、棺に収めても釘を打たず、空室に安置して数日間見に行き、遺体に淫らな行為を行うこともあり、屍が腐敗してからようやく葬ったという記録も残っています。

一族抗争の中で

異母弟である趙王司馬倫が恵帝を輔政するようになると、司馬榦は衛将軍に任命されました。永寧元年（301年）、司馬倫が帝位を簒奪すると、諸王が反発し、斉王司馬冏が司馬倫を打ち破りました。宗族や朝臣が司馬冏をねぎらう中、司馬榦は百銭を懐に、司馬冏に会いに行き、「趙王が反乱した時、あなたが天下のために挙兵したのはあなたの功績である。いま百銭であなたを祝おう。しかしながら、事態は依然として決着したわけではないから、慎まなければならない。」と述べました。

司馬倫が敗死し、恵帝が復位すると、司馬榦は再び侍中となり、太保を加えられました。司馬冏が輔政すると、司馬榦は彼を訪ね、「あなたは白女の子を真似してはいけない。」と忠告しました。ここでいう白女とは、司馬懿の側室であった柏夫人を指し、白女の子は司馬倫を指していました。

永寧2年（302年）、司馬冏が司馬倫誅殺を共謀した司馬乂、司馬穎、司馬顒に誅殺されると、司馬榦は慟哭し、「宗室は日に衰退していて、この子（司馬冏）がもっとも良かったのに、殺されたとなると、今後の行く末は危うい！」と嘆きました。彼の予感は的中し、司馬冏亡き後、司馬乂と司馬穎・司馬顒の間で主導権争いが起こり、一族間での骨肉の争い（八王の乱）が激化し、晋王朝は衰退の一途を辿りました。

晩年

東海王司馬越が洛陽に至ると、司馬越は司馬榦に面会を求めましたが、司馬榦は門を閉ざして会おうとしませんでした。司馬越がしばらく車を止めていると、ようやく人を遣わして挨拶をしましたが、自身は門の隙間から様子を窺っていたと伝えられています。当時の人々はその意図を理解できず、病気のせいにする者もいれば、隠居とみなす者もいました。永嘉5年正月庚辰（311年2月26日）、80歳で死去しました。司馬榦の死後まもなく劉聡による洛陽の寇略があったため、諡号を贈る余裕がありませんでした。嫡男の司馬広は早世し、次男の司馬永は安徳県公に封じられましたが、永嘉の乱で一門は滅亡しました。

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