司馬顒

司馬顒（しば ぎょう）

司馬顒（しば ぎょう、生年不詳 - 306年12月）は、西晋時代の皇族であり、「八王の乱」と呼ばれる内乱における主要な人物の一人です。字（あざな）は文載（ぶんさい）。彼の祖父は、司馬懿の弟である安平王司馬孚であり、父は太原王司馬瓌でした。

生涯

若き日

父の爵位を継承して太原王に封じられ、咸寧2年（276年）に自身の領国へと赴きました。翌年の咸寧3年（277年）には、河間王に改封されています。若い頃から清廉な人物として知られ、財欲に執着せず、兵士たちを大切にしたと伝えられています。諸王と共に都に参内した際、武帝司馬炎はその振る舞いを褒め称え、諸国の模範であると感嘆したと言われています。

元康元年（291年）には、北中郎将に任じられ、鄴城（ぎょうじょう）を統治しました。元康9年（299年）には、梁王司馬肜（しば ゆう）の後任として平西将軍に任じられ、長安に出鎮しました。当時の制度では、皇帝に近い血縁者のみに関中の統治が認められていましたが、諸王の上奏により特別に許可されました。

司馬倫討伐

永康2年（301年）1月、趙王司馬倫（しば りん）が側近の孫秀（そん しゅう）と共謀して帝位を簒奪し、国政を掌握しました。孫秀は、司馬顒が関中で強大な兵力を有していることを深く警戒し、補佐の名目で臣下を派遣して監視させました。

その後、斉王司馬冏（しば けい）が司馬倫誅殺を掲げて挙兵すると、元安西参軍夏侯奭（かこう せき）が侍御史を自称し、始平郡で数千の兵を集めて司馬冏に呼応しました。夏侯奭は司馬顒にも協力を要請する使者を派遣しましたが、司馬顒は長史李含（り がん）と謀議し、司馬倫に味方することを決定し、主簿房陽（ぼう よう）と振武将軍張方（ちょう ほう）を派遣して夏侯奭を討伐させました。夏侯奭は敗北し捕らえられ、その同胞十数人と共に長安の市で腰斬に処されました。

司馬冏からの使者が檄文を携えて司馬顒の下へ到着しましたが、司馬顒はその使者を捕らえて司馬倫に送り届けました。さらには司馬倫からの援軍要請に応じ、張方に関中の諸将を率いさせて司馬倫の援護を命じました。しかし後に司馬顒は、司馬冏や成都王司馬穎（しば えい）の勢力が優勢であることを知り、考えを翻し、龍驤将軍李含・領督護席薳（せき えん）らに張方軍を呼び戻させました。張方はこの時華陰まで進んでいましたが、李含らは追いついてその行軍を中止させ、そのまま司馬冏側に寝返りました。

4月、左将軍王輿（おう よ）が洛陽城内で政変を起こすと、孫秀を誅殺すると共に司馬倫を捕らえて幽閉し、恵帝を復位させました。これにより司馬倫の勢力は瓦解し、司馬顒は長安を出発して洛陽に入城しました。司馬冏は司馬顒が初め敵対していたことを恨んでいましたが、最終的に味方したことからこれを罪には問わず、侍中・太尉に抜擢し、三賜（弓矢・斧鉞・璧玉）を下賜しました。しばらくして、司馬顒は長安に帰還しました。

司馬冏討伐

司馬顒の側近である李含は洛陽の朝廷に仕えていましたが、司馬冏の参軍皇甫商（こうほ しょう）・右司馬趙驤（ちょう じょう）らとの対立などから長安へ逃げ戻りました。この時、李含は司馬冏討伐の密詔を得たと宣言し、詔書を偽造して司馬顒へ示しました。さらには司馬顒へ「成都王（司馬穎）は陛下の弟であって大功があるのもかかわらず、朝廷に留まらずに封国に帰ったので、民心を得ております。斉王（司馬冏）は成都王を差し置いて専横の限りを尽くしており、朝廷から憎まれています。今、長沙王（司馬乂）に斉王を討つよう命じれば、兵が弱小である長沙王は必ずや殺されるでしょう。長沙王殺害の罪を理由に斉王を攻めて成都王を迎え入れ、社稷を安定させれば大勲功といえるでしょう」と勧めると、司馬顒はこれに従いました。司馬顒は司馬冏の罪状を上書すると、檄文を各地に発布して「十万の兵を集めて成都王穎・新野王歆（しば きん）・范陽王虓（しば こう）と洛陽で合流する。長沙王乂に命じて斉王冏を邸宅に送り帰らせ、成都王穎に輔政を請う」と宣言し、李含を都督に任じて張方らと共に洛陽へ向けて進撃させました。諸軍は陰盤を通って新安に入り、洛陽から120里まで迫りました。

同時期、司馬乂は洛陽城内から司馬顒に呼応し、司馬冏と3日間に渡る争いを繰り広げると、これに勝利して司馬冏を処断しました。しかし、司馬顒は司馬乂が敗れるのを期待していたので、これに不満を抱きました。

司馬乂討伐

太安2年（303年）以降は、司馬乂との対立を深め、互いに討伐の兵を挙げます。最終的に司馬乂は東海王司馬越の裏切りにより捕らえられ、処刑されます。

司馬越に敗れる

その後、司馬越が司馬顒・張方の打倒を掲げて挙兵。司馬顒は司馬越との和解を模索しますが、張方の反対を受け決断できません。しかし、側近の讒言により張方を殺害し司馬越に和解を求めますが拒否されます。司馬越軍の進軍を防げず、長安を放棄し太白山へと逃走します。

最期

司馬越は司馬顒を司徒に任じ洛陽へ招聘します。司馬顒はこれを受け入れ洛陽へ向かいますが、司馬越の弟である司馬模が配下の梁臣を派遣し、司馬顒を絞殺しました。彼の三人の息子もまた殺害されました。

司馬顒の死後、司馬孚の玄孫にあたる司馬融が後継として楽成県王に封じられました。

司馬顒の生涯は、西晋の皇族として生まれ、八王の乱という内乱の中で翻弄され、最終的には暗殺されるという悲劇的なものでした。

参考文献
『晋書』巻59 列伝第39
『資治通鑑』巻83 - 巻86

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