各務元正

各務元正（かがみ もとまさ）

各務元正は、戦国時代から安土桃山時代にかけての武将で、斎藤氏、後に森氏の家臣として活躍しました。その生涯は、戦国乱世を生き抜いた一人の武将の姿を鮮やかに描き出しています。

生い立ちと斎藤家臣時代

各務氏は、清和源氏の流れを汲む加賀美氏を祖とし、美濃国各務郡に移り住んだ一族とされています。元正は天文11年（1542年）に各務盛正の子として美濃に生まれました。母は土岐頼芸の妹であり、各務氏は土岐家中で一定の地位を占めていたと考えられます。しかし、元正が家督を継ぐ頃には土岐氏は没落し、斎藤道三が美濃を支配する時代となっており、各務氏も斎藤氏の家臣として組み込まれました。

永禄3年（1560年）、元正は領地問題で遺恨のあった各務右京亮を殺害し、蟄居処分を受けます。この事件は、元正の血気盛んな一面を示す出来事でした。

森家への仕官と宇佐山城の戦い

永禄10年（1567年）、斎藤氏が滅亡すると、元正は織田信長の家臣である森可成の仲介で森家に仕官します。この時、名を勘次郎から清右衛門に改めました。森家では、その武勇と忠誠心から重用されるようになります。

元亀元年（1570年）の宇佐山城の戦いでは、浅井・朝倉連合軍の侵攻に対し、森可成は織田信治、青地茂綱と共に坂本に出撃しました。元正は宇佐山城の守備を任されます。森可成らは奮戦するも討ち死にしてしまいますが、元正は城兵を鼓舞し、少ない兵力ながらも城を守り抜きました。この功績により、元正は織田信長から賞賛を受けました。

数々の戦での活躍

森家の家督を森長可が継いだ後も、元正は越前一向一揆討伐、長島一向一揆討伐、長篠の戦い、三木合戦など、数々の戦で武功を挙げました。特に天正10年（1582年）の甲州征伐における高遠城攻略では、その勇猛さが際立ちました。矢狭間から真っ先に城内へ討ち入り、敵兵を薙ぎ倒したという逸話は有名です。また、戦後、捕虜となっていた同族の武田信廉を長可の命で処刑しています。

甲州征伐後、長可が信濃へ転封となると、弟の森成利（蘭丸）が金山城主となりました。元正は家老として成利を補佐しましたが、成利は本能寺の変で死去。元正は金山城代として領国の政務を執りました。本能寺の変後、長可が帰還すると、元正は再び長可に従い東美濃の制圧戦で活躍。岩村城代にも任ぜられています。小牧・長久手の戦いでは、岩村城の守備を任され、遠山氏らの攻撃を撃退しました。

森家重臣として

小牧・長久手の戦いで長可が戦死した後、元正は林通安、為忠父子と共に羽柴秀吉の元へ長可の遺言書を届け、忠政への遺領引継ぎの承認を得ました。同時に、元正は林為忠と共に忠政の後見役を命ぜられます。忠政の家督相続後は、岩村付近の支配を一任され、岩村城の改修、城下の整備、領内の検地奉行などを務め、内政面でも才能を発揮しました。晩年は、国元の抑えとして領国の政務を執ることが多くなり、内政官としての色が濃くなりました。

慶長5年（1600年）、忠政が信濃川中島へ転封となると、元正は長沼城代に任ぜられ8000石を与えられました。しかし、病が悪化し、同年10月15日に長沼城で死去しました。

人物像と逸話

元正は、戦での武功だけでなく、その人柄も多くの人に慕われた武将でした。「鬼兵庫」の異名を持つほど武勇に優れていましたが、同時に義理堅く、主君への忠誠心も厚かったと伝えられています。

三木合戦で負傷した際には、織田信忠から直に医者が派遣され、長可も毎晩のように見舞いに訪れたという逸話があります。高遠城攻めの際には、長さ九尺（約2m70cm）にも及ぶ鳥毛の長指物を指して現れ、信忠から賞賛されました。

また、蒲生氏郷が元正を気に入り、高待遇で引き抜こうとした際も、「二君に仕えず」として断ったという逸話も残っています。

元正は自伝的な書である『兵庫覚書』を残しており、子孫は元正にあやかり代々「各務兵庫」を称したとされています。また、赤穂浪士の横川宗利は、元正の玄孫にあたります。

各務元正は、戦国時代を代表する武将の一人として、その名と功績は後世に語り継がれています。

もう一度検索